第15話 コボルトリーダー

 【心術】で冷静さを取り戻し、【鷹の目】で皆の姿を確認する。

 

「…………」


 俺は皆が動いている姿を見て、安堵のため息を漏らす。

 どうやら無事だったようだ。

 

 俺も皆に続いて、この落とし穴から落ちるか?

 だけど、皆が奇跡的に助かっただけだったとしたら?

 落ちて死ぬのも嫌だよな……

 【神の加護】があるから、怪我はどうってことないんだろうけど……それでもなんだか嫌だ。

 よし。俺は通常のルートを通って行こう。

 そして皆と合流すればいい。


 【鷹の目】のおかげで暗闇の中でも視界は問題無いが……気持ち的に暗いのはあれだな。

 よし。今日は熟練度上げも含めて、【火術】を使用していくか。


 俺が現在使用できる【火術】は4種類。

 初級術、中級術、上級術、禁呪の四つだ。


 今回使用するのは初級術。

 俺は手の中で火のイメージを練り上げていく。

 初級術の発動時間は10秒。


 そして10秒経ち、手の中に火が生まれる。


「【ファイヤーショット】」


 壁に飛んで行く、拳大の炎。

 ボッと燃え上がらり、周囲を炎に包み込む。

 あれ? 思ってたより威力が高いのかな……?


 俺は炎を飛び越えて、洞窟の先へと進んで行く。

 赤い光が周囲を照らしているおかげで見通しはいい。

 火を手の中に創りながら歩いていると、犬の頭に人間の子供のような体型のモンスターが現れる。 

 手には剣を持っており、俺の影を見たのか、走りながら接近して来ていた。


 新しい敵……勝てなかったら困るし、【潜伏】を使っておくか。

 【潜伏】を発動すると、そのモンスターはキョロキョロしだし、俺を見失う。

 その隙に俺は火術を発動する。


「【ファイヤーショット】」


 モンスターに直撃する炎。

 勢いよく燃え続け、一瞬で灰と化すモンスター。

 

 俺は一撃で倒せたことに安堵しながら歩みを再開させる。

 続いて同モンスターが2匹現れたので、拳を叩き込んでやると一撃ずつで破裂した。

 うーん。気持ちいいぐらい威力が高くなってきたなぁ。


 モンスター情報を得るために《ホルダー》を開く。

 すると読み通り、モンスターカードを手に入っていた。


 コボルトカード:レア度N

 HPが1%上昇する


 犬型のモンスター、コボルトと言うのか。

 俺はカード集めと経験値を集めるために、揚々とコボルトを狩り続ける。

 潜伏し火を点け拳で殴るのコンボで難なくコボルトは消滅していく。

 術の発動に時間がかかるから効率はそんなによくないが、それでも上々だろう。

 

 そのままの勢いで敵を倒し続けていると、奥の方から火の明かりが視界に入ってきた。

 誰かいるのか?

 【鷹の目】で奥の方を確認すると――

 そこでは、勇太たちが一回り大きなコボルトと戦いを繰り広げていた。

 そのコボルトは人間と同じぐらいの大きさで、獰猛な瞳をしている。

 あれは強そうだな……とにかく、慎重に行こう。

 だけど、勇太たちがピンチになりそうなら、何も考えずに行くぞ。

 

 そう考え、俺は壁から勇太たちがいる方を覗き見る。

 そこはこの洞窟の最奥なのだろう。

 道中と比べると、相当広い空間となっていた。

 岩造りなのは同じだが、ここは獣の匂いのようなものが充満しているようだった。

 コボルトたちが普段集まっているからだろうな。


「ガァアアア!」


 大きなコボルトは、手に持っていた斧で磯さんを襲う。

 盾で攻撃を防ぐも、後ずさる磯さん。


「やるな……犬!」


 犬って……もう少し言い方があるでしょう。

 犬なのは間違いないけどさ。


 攻撃を防がれたコボルトの左右から由乃と勇太が挟み撃ちにする。

 由乃は勇ましい瞳でコボルトを睨み付け、円は壁にかけられている火に怖がり、縮こまっているようだった。


 コボルトは勇太の攻撃を斧で受け止め、由乃のハンマーを左腕で受け止める。

 ミシッと腕がハンマーの威力に軽く陥没し、痛みに吠えながら腕を振るうコボルト。

 その勢いに由乃は吹き飛ばされ、勇太はコボルトの斧に弾き飛ばされる。


「こいつ、つええな!」

「私たちじゃ、勝てそうにありません……」


 俺は骸骨の仮面をかぶり【潜伏】を発動させ、最速の動きでコボルトの背後まで回る。

 勇太たちでも敵わない相手……やり合いたくはないけど、皆のためだ。

 俺はコボルトの背中目掛けて、全力で拳を振るう。

 すると、ボカンッ! と奴の腹にどでかい穴が開く。

 あれ? 一撃で倒せた……意外と弱かったな。


「「「ええっ!?」」」 

 

 飛び散ってきたコボルトの内臓を見ながら、由乃たちは唖然とする。

 ドサッと倒れたコボルトは、ズズズッと大地に飲み込まれて行く。


「……お前は誰だ?」

「…………」


 勇太は驚いた様子で、仮面をかぶった俺を見ている。

 正体を明かしてもいいけど、俺はフォローに徹すると決めたのだ。

 ここは黙って去ることにしよう。


 俺は素早い動きで、広場を後にしようとした。


「おう! 名前ぐらい教えろよ!」


 磯さんの声が空間に響く。

 俺は低い声を意識して、短く言う


「か、仮面の戦士」


 そして全力でその場を去った。

 仮面の戦士って……言っておいて、なんだか恥ずかしくなってきたな。

 もっとカッコいい名前を考えておくんだった。

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