第11話 仲間

「俺、ああいうの嫌いなんだよ」

「俺もだ俺もだ! ガハハッ!」

「だよなぁ。アハハハっ!」


 勇太と磯さんが大笑いしている。

 俺はポカンと情けない姿で二人の顔を見ていた。


 磯さん……磯嶋永吉は俺たちの三つ上で、二十歳の高校生。

 三回留年し、その年で俺たちと同級生という豪快な男性。

 ツンツン頭に190cm近い巨体。

 顎に少し髭が生えており、裏表のない一直線な人。

 

「私も大嫌いです! 司くん、私はいつだって司くんの味方ですからねっ!」


 そう言って眩しいほどの笑顔を向けるのは天野由乃。

 腰まで伸びたサラサラの茶色い髪に、眼鏡の奥には宝石のようにキラキラ光る瞳。

 桃色の唇はツヤツヤで、容姿は可愛らしく隠れファンがいるとかいないとか。

 胸は大きく、チェックのスカートから伸びている足は健康的で美しい。

 

「天野……」

「あ、私のことは由乃って呼んでくださいよ~。私たちの仲じゃないですか!」


 どんな仲なんだよ。

 あんまり、と言うかほとんどこの子と話をした記憶がないんだけど。


「由乃……もだけど、南も辰巳に付いて行かなくていいのか?」

「いい。後、私も円でいい」

「そ、そう?」


 南円。

 気怠そうな瞳に、由乃に負けず劣らず可愛らしい女の子。

 彼女の口から吐かれる言葉は冷たく、大概の人が凍り付いてしまうとか、そんな噂がある。

 今も明るいとは言えない声で俺に言ったが……状況が状況だ。

 冷たく聞こえるが悪い人間には到底思えない。

 背が低く、守ってあげたい雰囲気があるが、意外と運動神経などはよくしっかり者で、他人の助けはほとんど断っているようだ。


「よーし。じゃあ、俺たち五人で魔王エールキングを倒そうぜー!!」

「「おおー」」

「いやいや。本当にむこうと行かなくていいのか?」


 勇太と共に、由乃と磯さんが腕を突き上げているところに、俺は冷静に言葉をかける。

 円は三人のやりとりに参加せず、静かに俺の方へ視線を向けていた。


「え? なぜですか?」

「なぜって……あっちと行く方が当然というか、自然な流れだろ?」

「俺は流れに逆らって泳ぐのが好きだ! 流れるプールだって流れに逆らうぜ!」

「流れるプールには逆らうな。あれに逆らうと迷惑がかかるんだからな」

「でもさ、ここでは流れに逆らっても、誰にも迷惑はかからないぜ」


 勇太は親指を立て、ニカッと歯を見せる。


「私は司くんと一緒に行くのが自然な流れだと思っていますので、司くんと行動を共にします」

「私は集団行動嫌いだし、司と行く」

「俺はどっちでも良かったが、ああいう態度は大嫌いだからな! ガハハッ!」

「……みんな」


 勇太が俺の肩に腕を回す。

 そして明るい顔で言う。


「俺たちがいいんだからいいんだって! あいつらのことは放って置いて仲良く行こうぜ!」

「勇太……ありがとう」

「おおっ! じゃあ、俺がドカーンって魔王エールキング倒してやるから、司もドーンって構えてろよ」

「勇太くんは勇者ですからね。期待してますよ」

「おう! 目立つことは好きだし、期待しててくれよな!」

「…………」


 俺は【合成師】のことを皆に話そうと思ったが、勇太のその言葉を聞いてやめておいた。

 今の成長が続けば、皆よりも強くなれる可能性は十二分にある。

 だけど……勇太を男にしてやりたい。

 俺はそもそも目立つのはそんなに好きじゃないし、手柄はいらないと考えている。

 勇太は勇太のやりたいことを……俺は俺のやりたいことをやれればいい。

 俺はとりあえず、強くなれればそれでいいや。

 今は強くなるのが楽しくて仕方がない。


 うん。皆をフォローしながら、冒険をすればいいんだ。

 ピンチになれば俺がなんとかする。それで行こう。


 後少しでソロプレイという寂しい物語が始まろうとしたが、皆に救われた。

 俺の心が救われたんだ。

 そのせめてのお礼ではないけれど、勇太たちに賞賛が与えられるように俺は影に徹することにしよう。


「そろそろあいつら行ったかな?」

「多分ですけど、もう行きましたよね」

「よーし! じゃあ俺たちも出発しようぜ!」


 ◇◇◇◇◇◇◇


 磯さんを先頭に、俺たちは森を北へと進んでいた。

 磯さんは【ガーディアン】で、皆を守るための能力が高いらしい。

 先頭で敵の攻撃を請け負っている間に、勇太たちがモンスターを横から倒していく。


 勇太は鉄の剣に鉄の鎧を。

 由乃は【アイアンハンマー】と呼ばれる、大きなハンマーを両手に持ち、軽鎧を装備している。

 円は二本、鉄の剣を持ち、皮の肩当を身に着けていた。

 磯さんは鉄の鎧に鉄の槍、そして鉄の盾を持っている。


 四人とも危なげもなく、ゴブリンらを次々に対峙していく。

 俺は四人が一緒にいてくれることに喜びを感じながら、後ろをついて歩いていた。


 【鷹の目】で周囲を見渡しながら、敵の姿を探る。

 右の数百メートル先にゴブリンがいた。

 俺はクロスボウで瞬時に狙い撃つ。

 ゴブリンの頭部が破裂する……が、皆には気づかれていない。


 するとクロスボウの弦がひとりでに引かれ、幻のように現れた矢が自動的にセットされる。

 なるほど、これが自動装弾の効果か。

 リロード時間は0秒だし、これなら連射も可能だな。

 先ほどの辰巳たちの態度も忘れ、俺はウキウキ気分で周囲を見渡す。


 四人の楽勝な姿を目に納め、遠くに移るモンスターを倒しながら森の先へと進んでいた。

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