第10話 追放

「シバーフの森を北に超えるとエキルレという町がある。今日はこの城を出て、そこへ向かってほしい」


 玉座の間に全員集まり、俺たちは王様の話を聞いていた。

 若干ではあるものの、皆の戦力が整いつつあったので、そろそろ次のステップを踏めとのことだ。

 セイルレーンの城を出て、魔王エールキングの下へと向かえってことらしい。

 

 王様の話をまとめてみると――ここはセイルレーンエリアと呼ばれる場所らしく、エリアは四つ存在している。


 セイルレーンエリア

 アルダイルエリア

 ソルワースエリア

 ダ・ルーズエリア


 ダ・ルーズエリアを超えた先に魔王エールキングの城があるらしく、それぞれのエリアには【エリアマスター】と呼ばれるモンスターがいて、それらを倒しながら先に進まなければならないようだ。


 エリアマスター……その響きだけでも強そうなのが分かるな。

 俺たちに勝てる程度のモンスターだったらいいんだけど。


「後、この森の南には近づいてはならんぞ」

「なんで?」


 勇太が明るい声で聞く。


「……この世界には三獣神さんじゅうしんと呼ばれる化け物が存在している。今まで数多くの戦士たちが挑んできたものの、誰一人としてまともに傷を負わせることもできなかった。そんな三獣神のうちの一匹、【黒き獅子】が、シバーフの森の南側を根城にしておるのだ」

「黒き獅子……」


 ゴクリと一人の男子が固唾を飲み込む。


「三獣神を倒すと、レアなカードを手に入れられるという話はあるが……賢明な者なら、奴らに手さん。だからこの森の南側は当然だが、三獣神の名前を聞いた時は絶対に近づくではないぞ」


 皆は王様の言葉にコクコクと頷いている。

 だが俺だけは、ちょっとばかりワクワクしていた。

 レアカード……どんな物が手に入るのだろうか?

 まだまだ勝てるような相手ではないけれど、いつかはチャレンジしてみたいな。

 【潜伏】しながらなら、どうとでもなるような気がする。

 勝てそうにないなら、逃げればいいだろうし。

 とにかく、一度ぐらいはチャレンジしてみたいよな。


 王様の話が終わり、俺たちは玉座の間を後にし、広間へと移動した。

 すると辰巳と三木茂みきしげるがこちらに振り向き、俺の方に視線を向ける。


 三木茂……おサルさんみたいなやつで、辰巳にいつも付いて回るずるがしこい奴だ。

 三木はニヤリと片頬を上げ、口を開く。


「ここに、役立たずが一人いまーす」

「役立たずって……」


 皆の視線が、当然のように俺に集中する。

 え、注目浴びることってほとんどないから、ちょっと恥ずかしいんだけど。

 お願いだからこっち見ないでくれません?


「これから物騒な、魔王エールキングなんてものを倒しに行かなきゃいけいないのに、星1の【戦士】がいたら足手まといになると思うんだよ? 皆はどう思う?」

「…………」


 三木の言葉に静まり返るクラスメイト。 


「俺たちは、弱い奴を守りながら戦うだけの余裕はあるだろうか? ないよな。これから生死を賭けた戦いが始まるんだ。そんな中、程度の低い奴を気にしてまともに戦えるわけがない。だから俺はこう考える。島田は俺たちの仲間には相応しくないと。同じ程度の力があるなら問題ないが……足を引っ張る可能性のあるこいつがいたら、これから先苦労するのは目に見えている」


 辰巳は冷たい声でそう言った。

 なるほど……俺を追い出したいのか。

 確かに星1が仲間にいたら足手まといと感じるだろう。

 でも、俺はなんとなくだがそれが本当の理由じゃないような気がする。

 

 俺は辰巳の鋭い視線の中に、炎のような揺らぎが見えた。

 ゾクリと寒気を感じる……何か、恨みのようなものがこもっているように感じられる。


「僕も辰巳に賛成だよ。島田いない方が、僕たちは安全に戦えるんだ。いない方が絶対にいいよ!」


 三木は蔑むような目付きでこちらを見る。

 俺は少し苛立ちながら、奴の言葉の続きを聞く。


「彼とこれからも行動を取るのは否定をしない。だけどその場合は、【勇者】である辰巳とはお別れだということを肝に銘じてくれよ」

「え……」


 クラスメイトたちはざわつき出した。

 俺と辰巳の両天秤。

 どちらかを選べと、三木はそう言っているのだ。


「俺はさっさと次に行きたいんだ。迷っている暇はない。俺についてくるか、島田と一緒に行くか。今すぐ決めろ」


 冷たくそう言い放った辰巳は、広場から出て行ってしまう。

 クラスメイトたちは俺の方に一度視線を向け、さも当然のように辰巳の方へと向かって行く。

 まぁ、【勇者】と【戦士】なら、【勇者】を選ぶよな……

 俺だってそうする。

 誰だってそうする。

 そうして当然なのだ。


 俺を気にしながら去って行く者。

 鼻で笑いながら去って行く者。

 あるいは俺に興味を示さずに去って行く者。


 その場からあっという間に人がいなくなっていく。

 俺は辛さに鼻の奥がツーンとなり、悲しみを隠すように俯いた。

 そりゃ誰も残ってくれないだろう。

 分かってはいるけれど……心が痛い。


「司っ!」


 しかし。

 俺を呼ぶ誰かの声が聞こえてくる。

 顔を上げると、そこには四人の人物が残ったままであった。


 そこに残ったのは――


 自然な茶髪の眼鏡をかけた女子、天野由乃あまのゆの

 肩にかかるぐらいの青い髪をした女の子、南円みなみまどか

 ツンツンに立てた黒髪で大きな体の、磯嶋永吉いそしまながよし


 そして――


 大崎勇太の姿があった。


 彼らは迷いのない態度で、俺の方に温かい視線を向けている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る