第3話 ゴブリン
「お、おい……あれがモンスターか」
「ヤ、ヤバくない?」
「本当に勝てるのかよ……」
セイルレーンの城は森に囲まれた場所にあり、その周囲にある森はシバーフの森というらしい。
俺たちはまずそこでモンスターと戦うことになった。
何はともあれ、この世界では【カード】が必要で、その入手方法の基本がモンスター退治というわけだ。
俺は現在手にはクロスボウを持っている。
それはライフルのような物の先に小さな弓がついているもので、それに矢をセットさせ、トリガーを引いて射出する武器だ。
温かみのある太陽の光が降り注ぐ、静かな森の中。
元の世界にでもあるような木々に足元は草が生い茂っている。
この森自体には怖さを感じないが……今俺たちの目の前にはゴブリンと呼ばれるモンスターがいた。
緑の体躯に人間の腰辺りまでの大きさ。
武器は持っていないが、その獰猛な瞳に恐怖心が煽られる。
俺は皆と違い弱いジョブだから接近はしないが……いや、そもそも俺は慎重派なので端から接近などするつもりもないが、どちらにしても近づくのは怖いよな。
皆固唾を飲み込んで足を震わせていた。
檻の中のライオンにでも近づけと言われているようなものだろう。
そんなの中々できることではない。
王様の話によると星2以上の皆にとってはそんなに強い相手ではないらしいが……それでも躊躇はする。
だがそんな中、勇太が笑みを浮かべながら皆に言う。
「まず俺が行って来るから、もしもの時は援護頼むぜ!」
そう言うなり勇太は全力で駆け出した。
手には鉄の剣。
俺の持っているクロスボウと同じランクの物だ。
「これでどうだ!」
勇太は飛び上がり、ゴブリンをズバッと切り裂く。
「「「おおっ!!」」」
モンスターを倒した勇太の姿に、歓声が起きる。
真っ二つになったゴブリンは溶けるかのように大地に消えていく。
「ははは! なんだよなんだよ、楽勝じゃん!」
勇太は剣をくるくる回しながら愉快に笑う。
皆もそれを見て勝てると確信したのだろう。
モンスターを倒すため、楽しそうに歩を進め出す。
まるでゲーム感覚だ。
敵を倒すことによってレベルが上がりカードも手に入る。
俺だって内心、ちょっとばかりウキウキしていた。
ただ皆と違って弱いジョブだから切なさもあったりするけれど……
「よーし、やってやるぜ!」
「とりあえずは10体だったよな?」
「そう言ってたな。後9体、ガンガン行くぜ!」
その後、ゴブリンを探して森を練り歩き、合計10匹の討伐に成功した。
皆、勇太みたいに一撃で倒せるようなことは無かったが、特に危なげもなくゴブリンを倒していた。
俺はクロスボウを打つ暇もなく何もしていないから、自分の強さがまだよく分かっていない。
◇◇◇◇◇◇◇
10匹のゴブリンを倒し、俺たちは城に引き返した。
男女それぞれ二つずつ、計四つの大きな部屋を与えられ、俺は勇太と同じ部屋。
高そうな装飾が施されており、壺などが備えらている清潔な部屋だった。
俺たちは床に腰を下ろし、ステータスを開く。
ステータス画面の右端に、《ステータス》、《ホルダー》、《ガチャ》の文字があり、おそらくタグと同じようにこれで画面の切り替えができるのであろう。
その中から《ホルダー》を選択する。
するとステータス画面はタブレットサイズから、横にもう一つタブレットを並べたぐらいの大きさに変化した。
そこには横に4枚、縦にも4枚ほどカードが表示されるようだ。
現在表示されているカードは12枚。
『皆と共に行動している』というを認識していると《パーティー》というシステムが機能するらしい。
すると仲間のうちの誰が敵を倒してもカードは手に入るということだ。
どうやら《ホルダー》はスライドもできるらしく、まだまだカードは保存できるようだな。
一番左上にあるのは【合成師】のジョブカード。
その横にはクロスボウだ。
そしてゴブリンからドロップしたカードは――
アクティブスキルカードの【火術Ⅰ】と【潜伏Ⅰ】。
武器カードの【鉄の剣】と【クロスボウ】と【骸骨の仮面】。
アタックカードの【石】が二つ。
アイテムカードの【塩】と【砂糖】。
そしてモンスターカードの【ゴブリンカード】だった。
ちなみに全部レア度はN。
皆はどうなのだろうと周囲を見渡すと、どうやらN以上を手に入れている奴がちらほらいる。
あ、俺って運まで悪かったのか……切ないなぁ。
でも10枚カードを入手していたことを考えると……ドロップは確定なのだろうか?
そんなことを思案していると、誰かがその話題を出していた。
「カード何枚手に入れた?」
「俺は7枚だ」
「俺、4枚だったよ」
「…………」
と言うことは、10枚ドロップした俺は運が良かったのかな?
ま、その点は素直に喜んでおこう。
俺はモンスターカードが気になり、ゴブリンカードの詳細を確認した。
ゴブリンカード:レア度N
攻撃力が1%上昇する。
モンスターカードとは、セットすることによってパラメーターなどが上昇するカードらしい。
セットできるのは一枚のみとのこと。
とりあえず今はこれしかないから、ゴブリンカードをセットしておくことにする。
ゴブリンカードをタップすると、『セットしてもよろしいですか?』という文字が浮かび上がった。
俺は『YES』の文字を押す。
するとゴブリンカードの右端に『E] の文字が出現する。
よし。これでセットできたな。
「おっ! 俺ゴブリンカード手に入れたぜ!」
「マジかよ!?」
他の誰かもゴブリンカードを入手したらしく、大はしゃぎしていた。
Nであれだけ大騒ぎできるって、逆に凄いな。
「レア度は
「……えっ?」
俺はその言葉にもう一度ゴブリンカードを確認する。
……いや、何度確認してもゴブリンカードはレア度Nだぞ……
「ちょ、ちょっとゴブリンカード見せてくれない?」
「…………」
そいつは舌打ちをしながらも、俺にゴブリンカードを見せてくれた。
ああ、なんだか居づらくなってくるなぁ……
辛い気持ちで彼のゴブリンカードを確認する。
ゴブリンカード:レア度SR
攻撃力が3%上昇する。
「どうしたんだよ、司」
「い、いや……」
怪訝そうに俺の顔を覗き込んでくる勇太。
同じカードでも別種類があるのだろうか?
とにかく彼が持っていたカードは、俺の物とは違うレア度の物であった。
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