第2話異世界初狩り

 くそ、くそ、くそ、くそ、あの女狐め!

 俺を騙しやがって、いったいここはどこなのだ?

 眼の前にいる子供たちは、見たこともない白い肌に色とりどりの髪の毛、とても人間とは思えない。

 まあ、南蛮には白い肌に天狗のような顔、碧の目に金の髪の人間がいるという。

 だとすれば、ここは南蛮伴天連の隠里なのか?

 それとも、女狐に騙されて夢を見ているのか?


「せんせい、せんせい、せんせい、おなかすいた」

「ぼくも、ぼくもおなかすいた」

「わたしも、わたしもおなかがすいた」

「おんなせんせいが、おとこせんせいがきたら、ごはんがたべられるといっていた」

「もう三日もなにもたべていないよ」

「わぁあああん、おなかすいたよおおお」


 五月蠅くて、煩くて、腹が立ちそうなものだが、飢えて痩せ細った子供たちを前にしたら、とてもそんな気持ちにはなれない。

 これが女狐の見せている夢の中であろうと、幕府の法に触れる南蛮伴天連の隠里であろうと、飢えた子供を見捨てる事などできない。


 しかたなく、これ見よがしに小屋の壁に掛けられている、長弓と矢筒を手に持つ。

 手に取ると、長年使い慣れた愛用品のように手に馴染む。

 直感で名弓だと分かったので、無性に使ってみたくなる。

 いきなり獲物を射るわけにはいかないので、小屋を出て直ぐに試射してみた。

 狙う先は、自分の能力ぎりぎりの遠くにある大木だ。

 普通ならぎりぎり大木に矢が刺さるか刺さらないかなのに、深々と矢が刺さる。

 そのあまりの破壊力と正確さに、弓術を愛する心が躍動する。


 視界に山鳥が入ったが、普通の弓矢だと、俺の腕でも狩れない遠さだ。

 だが、この弓矢を使えば狩れると、確信することができた。

 一気に心が山鳥に集中し、今まで聞こえていた風のざわめきも、山奥独特の深緑の彩も、湿った豊かな大地の香りも感じなくなった。


 一瞬の事だった、今までの自分なら、集中するまでもっと時間がかかっていた。

 それが、狩ると決めて直ぐに集中できた。

 それも、必中を確信できるほどの自信が、構えて直ぐ得られた。

 今までのように放つという意識などなしに、気が付いた時には矢を射ていた。

 いや、気が付いた時には、丸々と太った山鳥に矢が突き刺さっていた。

 周囲に他の獲物がいない事を確かめて、小屋の子供達に声をかけた。


「山鳥を射たから羽をむしっておきなさい。

 皆で分けて食べられるように、塩鍋にします。

 茸や山菜を集められる者は、野獣に気をつけて集めなさい」


「「「「「うわぁあああああ」」」」」

「「「「「やまどりだぁあああ」」」」」


 子供たちが山鳥の所に駆けだす。

 山に育つ子供だけあって、眼は好いようだ、これなら好い弓使いになれるだろう。

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