異世界寺子屋

克全

第1話詐欺師女神

「ねえ、ねえ、ねえ、旦那、いい仕事があるんですよ、一口乗りませんか」


「何だお前は、いきなり何を言っている、浪人の俺を騙しても金にならんぞ」


「仰る通り、旦那を騙したって金になりませんよ。

 だから嘘偽りを言っているのではなく、本当にいい仕事があるんですよ」


「貧乏はしていても、悪事に加担する気はないからな」


「旦那のような清廉潔白な方に、悪事なんてさせたりしませんよ。

 それに、そんな事をしたら、旦那に成敗されてしまいますからね。

 こう見えて私だっていろいろ経験していますから、旦那が剣術の免許皆伝なのは、ひと目で分かりますから。

 いえ、剣術だけではなく、弓術も槍術も柔術も免許皆伝でしょ」


「お前、ただ者ではないな、いったい何を企んでいるのだ」


「言掛りは止めてくださいよ、旦那、なにも企んだりはしていませんよ。

 いえね、江戸からは遠く離れた片田舎の寒村なんですが、寺子屋の師匠を探しているんですが、なにぶん野獣が多くてなり手がいないんですよ。

 そこで武芸も達者な旦那に、寺子屋の師匠を御願いしようと思ったのです」


「ふむ、まあ、そういう事なら分からないでもないが、大きな問題があるぞ。

 俺だって生活があるのだ、そんな寒村で寺子屋の礼金が払えるのか?」


「それは任せてくだないな、私がお払い致しますから」


「語るに落ちたな、女。

 最初にいい儲け口があると言いながら、それではお前に利益がないではないか。

 いったい何を企んでいるのだ!」


「なにも企んじゃいませんよ、旦那。

 私もちゃんと儲けられるようになっているんですよ」


「嘘を申すな、これ以上を俺を騙そうとするなら、その命、もらい受けるぞ!」


「ちょっと待ってくださいよ、旦那、ちゃんと理由を話しますから」


「どのような理由があると申すのだ!?」


「旦那が寺子屋で子供たちを鍛えてくださったら、いい毛皮が手に入るのですよ。

 強い野獣が多くて危険な場所なんですが、危険な分だけ価値のある毛皮なんです。

 だから、数年後には莫大な利益になるんですよ。

 もっとも、旦那自身が猛獣を狩って毛皮を売ってくださるのなら、それが利益になりますので、そうしていただければ、私としたらありがたいのですけれど」


「そのような高値になる猛獣とはいったいなんだ。

 俺に熊を狩れと言っても不可能だぞ」


「謙遜しないでくださいよ、旦那。

 旦那の実力なら、並外れた大熊でも狩れるのは先刻承知ですよ」


「俺は謙遜などしておらんぞ、今まで熊に出会った事もないのに、狩れるも狩れないもない、やった事もない事を出来ると口にするほど無責任ではない」


「ふっふっふっふっ、自分の価値が分かっておられないのですね。

 大丈夫ですよ、ええ、本当に大丈夫なのですよ、貴男以上の方はいません」 

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