第267話 ウザい者たちの大団円
*****ここまでのあらすじ*****
王朝に出向いて皇王に直談判していたルイードの前に天照大神が顕現する。そして【神族会議を無断欠席して遊んでいるなんて、そろそろおいたが過ぎるのでは?】と非難する先にいるのは、なんとシルビスであった。
*****あらすじ終わり*****
【さすがに神族の目は誤魔化せませんね】
シルビスは黄金色に輝く瞳をイタズラっ子のように細めながら言うと、その背後から後光を放ちながらゆっくり浮き上がった。
「ちょ……えぇ!?」
長いこと一緒にいたルイード=堕天使ウザエルですら気が付かなかったが、シルビスは彼ら天使を率いる「神」だった。それもシルビスが神に憑依されたのではなく神自身がシルビスというノームの少女に化けていたのだと理解できた。
【ウザエルやアザゼル、それに私の可愛い熾天使たちが上手く人間としてやれているのか見に来ました】
天照大神とは違い、こちらの「神」は自分を創造した生みの親でもあるせいか、さすがのルイードもその神威には逆らえず両膝を落として頭を垂れる。
同時刻に王国王妃(ミカエル)、王国冒険者受付統括のエルフ・カーリー(ガブリエル)、帝国冒険者受付統括の
また、ウザードリィ領でミュージィ女侯とイチャイチャしていたスサノオも天照大神が顕現した気配に感づいて「ビクッ!」と青ざめていた。神界も人界も弟は姉に逆らえないのだ。
【短い間でしたが楽しめましたよウザエル】
「いやいや、あんた一時期【外なる神】に憑依されてたよね!? ルキフエルとタッグ組まれてたよね!? 神なのにあれってどゆこと!?」
【あぁ、そんなこともありましたね。当然私の演技です。外なる神じゃありませんよ】
「はぁぁぁぁぁぁ!?」
【楽しかったですよ。ウザエルがドヤ顔で「どこかの神の一柱だってことは薄々勘付いてたぜ」とか言ってたの、もうおかしくておかしくて。あんな神威の中を人間の肉体が耐えられるわけないじゃないですか。それは私自身が最大の神威を持つ存在だからなんだと、どうして気が付かなかったんですかね?】
「え、じゃあ取り憑かれる前と今じゃ性格が様変わりしてたのは!?」
【本質的な部分は何も変わっていませんよ。口は悪いけどウザエルが大好きで周りをちょこまかついて回る飼い犬のように愛らしい少女っていう設定のままです】
「うそーん……」
【さて、天照大神が怒るのでそろそろ天に帰って仕事をしなければなりません。楽しいひと時でしたよウザエル】
「全然楽しくないんだが……」
【おやおや、それほどまでにシルビスを気に入っていたのですか】
「は? んなわけねぇだろ」
【そうですかねぇ。あなたにとって保護欲に駆られる存在だったのでは? わかっていますよウザエル。あなたはなんだかんだと悪態をつきながらも人間が大好きで、しかも小柄で巨乳で乳輪小さめでお尻大きめで跳ねっ返りな性格の女が大好きですものね】
「おい、後半は性癖じゃねぇか!」
【覚えていますか? あなたが最初に交わった人間の女イシュタールを。彼女に私の秘密の名前を教えてしまったせいであなたは堕天使になったわけですが、この姿はあの女に似ていると思いません?】
「……」
【ふふふ。一本取った気分で実に清々しく天に戻れます】
「二度と顕現すんなよ! 大体神様が気安く人界に降りてくんなっての! そこのお前もだからな!」
呑気に煎餅をポリポリ食べていた天照大神は微笑を浮かべた。
「何万年経っても仲が良い親子の会話ですね」
先程の神威と神音が混ざったような声色ではなく、普通に聞こえる言葉で天照大神が弄ってくる。
神は創造主でありその御手によって生み出された天使ウザエルはたしかに子だと言える。だが、この子供は人界に降りてからというもの絶賛反抗期だ。
「もしかしてここんとこのドタバタは全部あんにゃろうの仕業か!?」
息子の様子を参観しに来た親のせいで、随分と慌ただしい日々を過ごすことになったルイードは、憮然としたままボサボサの髪をかきむしった。
「おお、久しぶりに見ましたよ、イケオジフェイスのチラリズム」
「やっかましいわ。おめぇも高天原にさっさと帰れ! 皇王が気絶したまま目覚めねぇし、おめぇらの神威からこの小虫を守るのにも疲れた!」
「はいはいわかりました。うちの弟をよろしくお願いしますよ」
「よろしくしねぇよ! なんで堕天使の俺がよその神の保護者みたいな真似しなきゃいけねぇんだよ!!」
「そう言いながら世話を焼いちゃうところが好きですよ」
天照大神は光の柱に包まれるように消えた。
「ったく……」
ルイードは平穏が戻ってきたことを悟り、王朝と王国が一触即発の危機だったことも、カメアリとマデカ・ソシデとアラハ・ウィが対峙していることも忘れ、大きくため息を付いた。
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その後、王朝と王国の間に建造された貿易都市インリアンは栄えに栄えた。
王朝では醜女扱いされて暮らせないという女性たちは、スサノオのお墨付きということでこの都市にこぞって訪れ、そんなオリエンタルデエキゾチックな女性を醜女どころか「セクシィ」と考える王国、帝国、連合国の男たちも集まり、モノや金が流通して一大都市となったのだ。
もちろんスサノオはミュージィと祝言を迎え、神の身でありながら人間の婿になるという快挙を成し遂げたわけだが、それに大反対していた王朝の一部貴族たちは、皇王が行った大幅増税政策への対応に追われ、それどころではなくなっていた。
カメアリたち「赤き鋼鉄の絆」は王国所属の一等級冒険者として世界に名を馳せ、そんなカメアリには
全員同時にご懐妊したので家事の働き手がいないのだ。
「やってしまった」
頭を抱えるカメアリ。出産時期をずらすなんてことが不可能だったのは、全員と同時に結婚してしまったからであり、誰かを優先するということができる空気ではなかったのだ。
かと言って家政婦を雇うというカメアリの案は妻たちに却下された。「自分の家に他人を入れたくない」というのが彼女たちが言う理由だが、だからと言って家事を怠る訳にはいかないので、カメアリがやるしかない。
日中深夜を問わず仕事がある「冒険者」稼業をしながら、炊事洗濯、それと全員が暮らせるようにと王都に購入したでかい屋敷の掃除と管理……無理である。
「そこで他人ではなく身動きが取れる立ち位置ということで、新たな奥さんを迎えていただきました」
「え?」
元修道女なのにすっかりハーレム推進派になってしまったモーネが連れてきたのは、なんと王朝の冒険者マデカ・ソシデだった。
マデカ・ソシデは深い琥珀色の肌を真っ赤にしながら照れているが、カメアリは「どうしてこうなった」と思考停止している。
「あ、あのときの言葉を証明してもらいたい」
「へ?」
「うちのパーティメンバーと比較しても月とスッポンの美女だと言っていただろう」
「!」
言った。言ったけど、それをここで言う!? とカメアリは蒼白になる。だが妻たちはそれに対してキレ散らかすようなことはなかった。
「そりゃハーフオーガ、ドラゴニュート、フェルプールと結婚しちゃう男だからな」
「カメアリの美醜はヒュム種の常識からはかけ離れているようだし」
「別に気にならないニャ」
「私も気にしません。サマトリア教会も『汝、すべてを愛せよ』と教えていますし」
それぞれルデリッサ、パウラ、イェニコル、モーネの弁だが、それはそれとしてどうやって王朝に戻ったはずのマデカを連れてこれたのか。
「彼だ」
マデカが窓の外を見るのでつられて見ると、相変わらず見窄らしい格好をした大男ルイードが去っていくところだった。
カメアリは女性五人を養っていく甲斐性を見せなければならなくなったが、これが後の世に伝わる「稀人カメアリ十三の試練」の一つとなるのであった。
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