第266話 ウザ絡みしてくる神々

 ウザ絡みのルイード。


 王都の冒険者ギルドに入り浸るチンピラ冒険者で、いつも新人にウザ絡みしては返り討ちに合う噛ませ犬―――という評価をするのは大体がルイードと接点がないよそ者か、彼にボコボコにされた恨みから有る事無い事言い回っている悪党どもだ。


 ルイードは、異世界からやってくる稀人たちの教育や、新人冒険者たちに自信をつけさせるための役柄を王国王妃に任された「特級」の冒険者であり、かつては稀人の中でも特異な能力を持った「勇者たち」を差し置いて魔王をワンパンで原子分解させた男だ。


 そんじょそこらの冒険者では到底太刀打ちできない化け物であるルイードの正体は、太古に降臨し、人々に知恵を与えた堕天使ウザエルそのものであり、各国には彼の動向を見張るために四大天使が顕現しているほどだ。そして王国王妃もその大天使の一人である。


 そんなルイードには共に堕天使となった友、アザゼル=アラハ・ウィがいる。


 自分を堕天させた神を憎み、天使を呪い、この世を混沌に陥れようと魔王を名乗ったりもしたアラハ・ウィは、ルイードにボコボコにされてからしばらくは大人しくしていた。だが、ここにきて王国や王朝を巻き込んだ戦争の引き金を引こうとウッキウキしている。


 そんなアラハ・ウィだが、ルイードが出しゃばってきたらこの計画はすぐに頓挫することを自覚している。これはアラハ・ウィにとって「ルイードと戯れるためのお遊び」に過ぎないのだ。


 それに巻き込まれているカメアリとマデカ・ソシデにとっては多大な迷惑でしかないが、かつて天使であったアラハ・ウィの視座からは、大したことではないのだ。


 だが。ルイードは着々とアラハ・ウィの計画を潰す準備をしていた。


 追放されたインリアンをそそのかして王朝と王国の間に貿易都市を作り、そこを王朝の醜女たちが住みやすい環境にすることで、スサノオがミュージィ・ウザードリィ女侯爵と結婚しても問題ないように画策したのがまずひとつ。


 もうひとつはダメ押しで王朝がスサノオの結婚を認めるように働きかけていた。


「まずよぉ、この国の主神である天照大神が自分の弟の結婚にOKっつってんだから、てめぇら人間がどうのこうの言える立場じゃねぇよなぁ? なに勝手にスサノオの結婚を認めない的な手紙を王国に送ってんだコラ」


 ルイードが絡んでいるのは王朝の社会構造の頂点に君臨する「皇王」である。


 豪奢な玉座を奪い取り、片足を土下座する皇王の肩に乗せてしおしおの葉巻をくわえてイキんでいる姿は、完全に征服者そのものだ。それを確固たるものにしているのはボサボサで目元の隠れた髪と大地龍ワンイボの革鎧、そして走獣王シャオジャンから剥ぎ取った毛皮をベストのように着込んで山賊のような出で立ちをしているからだ。


「しかしスサノオ様がいらっしゃらないと我が国の醜女たちの行き先がなく、死後に高天原神の国に行くことすらできぬのでおじゃりまして……」

「シコメシコメって、おめぇはバカか!!!」


 ルイードは皇王の額を靴の先でグリグリと押しながら激高する。


「いいかこんにゃろう! 古今東西美醜老若問わず、女の全てを愛するのが男の色道ってもんだろうがこのケセランパサランが!!」


 ルイードはきっと自分でもどう罵倒していいのかわからないほど皇王にムカついたのだろう。一緒くたにされたケセランパサランもいい迷惑である。


「それになぁ、ちゃんと王国と王朝の間にてめぇらが追放する愛されない女達を匿う貿易都市も建設中だ。ま、てめぇらからしたらブスかもしれねぇが王国の男たちからしたらエキゾチック美人なんだから、お互いにWIN-WINってこった」

「おお、それならば!」


 皇王がパアッと明るい顔をしたところで、玉座の隣で優雅にぶどうを頬張っていたノーム種の少女シルビスが横入りしてきた。


「もちろん建設にかかわる人件費、材料費、施工費、技術費、運搬費、維持費は王朝持ちだかんね。これは都市だけじゃなくてそこに通じている街道整備も全部だから」

「え」

「金額は概算でこれくらい」


 シルビスが羊皮紙にしたためた見積書を見た皇王は「いやいや!」と首を横に振った。


「これは王朝の国家予算三年分に該当する金額でおじゃる!」

「王朝の特になんの役にも立ってねぇ貴族共とか、懐に色々忍ばせてる悪徳商人どもの私財があるだろうが」

「そんなことをしたら内乱が起きるでおじゃるよ!」

「たわけかこのおじゃるペンペン丸が!!」

「えぇ……?」

「てめぇらの国を守るために防衛費を上げるのはいい。それは国を守るために必要なことだからそれはいい! だけどな、オ◯ンピックやらクソNPO法人やらなんやらから中抜されてザルのように捨てていく金はアホほどあるのに、この不況の最中に増税して国民の責任で払うべきだなんて論調で強要するなんて、クソのやることだ! まずは足元をよく見て無駄な税金が垂れ流されてないか見ろってんだこのボケが!!!」

「え、王朝うちそんなことやってない……」

「言い訳無用だこんにゃろう! さっさとレティーナに代を譲って隠居しやがれ!」


 レティーナは男子しか王位を継げない王朝にあって唯一の皇女殿下であり、その夫となるアモスは次期皇王が確定しているし、付け加えるならふたりとも稀人で、なんだったらもとの性別は転生時に男女逆転しているという面倒な設定、いや、運命を背負っている。


 ちなみに前世で作家だったレティーナは王朝に戻ってから「ツンデレ王妃がおっさん冒険者に陵辱されて二秒で完堕ちアヘ顔する成人向けエロ同人誌」というジャンルを開拓したが王国王妃の横やりで販売終了させられ、それにもめげずに最近では「オスガキくんをわからせるエロ同人誌」という新機軸を生み出し、陰の女性たちから神のように崇め奉られている。


「さて。王朝の政治はどうにかなったし、あとは手紙か。カメナアリはうまいことやってっかな?」

「あのさぁ、おっさん」


 シルビスがジト目で見てくる。取り付いていた外なる神が落ちて元の心に戻ったはいいが、取り憑かれている方がマシだったと思えるほどに言動が悪い。


 そんなシルビスを無言のまま、ジト目で睨み返すルイードだったが「その女だれ」と言われてビクッとなった。


 嫌な予感がして玉座の横をゆっくり見ると、にこにこ顔で手をひらひらさせている美女がいた。


 終始笑っているその美女の姿はどう見ても神族で、その証拠に羽衣は重力に逆らってふわふわと空中に漂っているし、彼女自身も地面に足をつけていない。つまり浮かんでいるのだ。


 土下座していた皇王も「え、いつの間に? ここのセキュリティ、ガバガバ?」と狼狽えているところからして、知らない人物のようだ。


「おいおい、わざわざ気配も神威も隠して現れるんじゃねぇよ……天照大神」

「お久しぶりね~」


 皇王が驚きのあまりに腰を抜かす。この国を守護する八百万の神の頂点に君臨する最高神が、まるで人間のような姿で眼の前にいるなんて誰が信じられようか。


「あんたクラスの神族がわざわざ外界に降りてくるなんて、どうしちまったんだ?」

「うふふ。あなたのところの神様に物申したくて」

「んなもん、上の世界でやってくれ。それに俺は降ろされた身分で神との対話はできねぇんだよ。知ってるだろうが」

「大丈夫よ~」

「は? 大丈夫じゃねえっつってんだが」

「じゃあ言うわね~」

「ああもう! どうして神族ってのはこうも人の話を聞かねぇんだ!!」


 その次の瞬間、天照大神から光が溢れる。


【神族会議を無断欠席して遊んでいるなんて、そろそろが過ぎるのでは?】


 一気に玉座の間に神威が吹き荒れ、皇王は一瞬で白目を剥いて倒れてしまった。ただの人間に神の威圧というのは致死の力なのだが、その中を平然としていられるルイードは、元天使だからなのだろう。


【あなたのタスクも私に回ってきているのでそろそろキレそうです。お戻りください】


 にこにこ顔のまま強烈な気配を示す天照大神は、一体誰に向かって言っているのか。その視線の先を追ったルイードは「は?」と目を大きく開いた。


【バレたか】


 シルビスは薄笑みを浮かべて瞳を黄金色に輝かせた。










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 作者:注


 あまりに理不尽だったので、やること精算して転職したのが今年の6月。しかし運が悪いのことに転職先はひどいのなんのってもう。ってことで短期決戦ではありましたが、そんなところで人生の残された時間を費やすのはもったいないのでまた転職しちゃいます。


 この2022年は会社に翻弄され続けた一年でした。ちゃんと自分の仕事に向き合いたいし、余暇に小説を書ける心のゆとりが欲しい! 前職で我慢して耐え忍ぶことに懲りたので、俺はもう我慢しないぞォォォォ!!


 あ。


 何度も書きましたが、この物語はちゃんと完結させますしもうオーラスなので、何卒お付き合いの程を!!



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