第260話 約半年(?)かけてやっと依頼を遂行するウザ冒険者たち
「ほう。貴様がここのボスか」
女冒険者は
「おいおい、ここは酒を飲むところだ。物騒なモンはしまってくれ」
俺は薄笑みを浮かべ、目の前の椅子を指さした。
「ここに座って酒を飲もうじゃねぇか。酒場で酒が飲めないってのなら、出ていったほうがいいぜ?」
めちゃくちゃ余裕がある顔つきで煽っているが、俺の心臓は爆発してしまいそうなほど鼓動を打ち鳴らしている。だってこの女冒険者、めちゃくちゃ強そうなんだもん!
普通に戦って勝てる気はしないが、酒の飲み比べなら強そうなやつがこの店には一杯いる。俺の前にいるウザ絡みのルイードだってそうだ。俺が奢ると言えば喜んで勝負してくれるだろう。
「ボスと余所者の一騎打ちだ!」
ルイードのアホンダラが叫ぶと店の客たちと王朝の冒険者達が一緒になって歓声を上げる。てめぇら仲良しかよ! てかボスって俺のことか!?
いやいやいやいやいやまてまてまてまてまてまて。
俺の「バフアタッカー」は仲間に加護を与えるが、仲間を強要する
「オメェの酒を呑んだら仲間なんだろぅ? だったらオメェがボスだろうが」
「そんな話してないだろうが!!」
ルイードはすだれのようなボサボサの前髪の奥で目をニヤニヤさせている気がする。このおっさん、俺をはめようとしてやがるな! ちくしょう、隣で呑気な顔してる巨乳のノームを人質にして逃げるか!?
「いいから勝負していけよ。こんな美人と酒が飲めるなんて羨ましいことだぜ」
いつのまにか王朝から来た女冒険者は、その口元を隠していた布を外して俺の前に座っていた。
確かに美人だ。王国近隣では見かけない顔立ちがたまらなくそそる。
だが、こいつと飲み比べて勝てる気がしない。この顔の濃さだぞ!? きっと赤ん坊の頃から水の代わりに酒を飲んでいたような戦闘民族の顔だ!
俺が内心でビビっていると、それを見透かしたようにルイードが話しかけてきた。
「おいおい、顔で飲めるかどうか判断してんじゃねぇぞ。なんせ泉谷◯げるや蝶野◯洋だって噂じゃ下戸らしいぜ?」
「誰だよそれ!」
「斎◯工も下戸なんだってなぁ? 居酒屋でメ◯ィラスと呑んでたのによwwww」
「それも誰だよ!!」
「あ、けど顔が濃い代表の平◯堅は飲めるから注意しとけ」
「だから!! 誰!」
ルイードと俺が喧々諤々やっていると、女冒険者は机をトントンと指先で叩いた。まさかそんな簡単な動作で分厚い木のテーブルに亀裂が入るとは!? どういう指先してんだよ!
「おい、酒はまだか」
「あ、はい。すぐに。おい、店中の酒もってこい!」
俺が泣きそうな顔で指示すると、店主は薄く頷いた。あいつが頭の切れる男なら俺の酒は水で薄めてくれるんじゃないか、という期待―――は見事に外れて、普通に樽のウイスキーが転がされてきた。マジでこいつ使えない!
「私より弱かったら、殺す」
「じじじじ上等だ」
死にかけのセミみたいな声を出してしまったが、これは武者震いだぜ!
俺達の前にウイスキーグラスが置かれる。氷なんか入っていないので、ウイスキーストレートで何倍飲めるか勝負らしい。
「だがな、酒は大人しく味わって飲むもんだぜ、美人さんよ」
「黙れ」
「はい」
「一杯呑んだらこのテーブルを一周走る。その間に次の酒を注げ。戻ってきたら呑む。そして走る。その繰り返しで何杯行けるのか勝負だ」
そんな飲み方をしたらどうなるのか、酒を飲んだことがないやつにだって想像がつく。
「どっちみち殺す気かこんにゃろう……」
「ボス、ちょっと耳を貸せ」
いつの間にか俺のセコンドみたいになっているルイードが顔を寄せた。
「テーブルを周るときは全力で走るやつのほうが当然疲弊する。無理に早く走る必要はない。遠心力で体が引っ張られない程度に走れ。わかったな、ぼうや……」
あら……やだ……なにこのいい声!?
錆びた鉄のような男の色気あふれる声色が俺の耳朶を打って、思わず妊娠しそうになったぞ!?
「何をコソコソ話している!」
「あんたにも忠告してやろう」
ルイードは女冒険者の耳元に近づいてなにか囁いた。
あら……やだ……なにその蕩けた顔。突然濃い顔がメス顔になってんじゃん? って、寒気がして目線を変えるとノーム娘から殺気が漏れてる。こいつらどういう関係なんだ?
そんなこんなでルイードにかき回されている気がしてならないが、俺と女冒険者の酒勝負が始まった。
「死んでいく男に名乗っておこう。貴様を潰す女の名前はマデカ・ソシデだ」
「俺様の名前はインリアン。潰れたらてめぇの穴という穴に安物のウイスキー流し込んで道端に捨てといてやるぜ」
「レディー、ファイト!」
誰ともなく合図し、俺と女冒険者―――マデカ・ソシデの飲み比べは始まった。
■■■■■
ドラゴニュート種の盾戦士パウラとサマトリア教会の修道女モーネは、繁華街の一画が大騒ぎになっているのを見に来た。だいたいこういう騒ぎを起こすのは冒険者だと相場が決まっているがあわよくばインリアンであって欲しいと思って覗きに来たのだが、それは正解だったようだ。
「なにやってんだあいつ」
「……さあ」
酒場の前には、インリアンが白目を剥いてしゃがみ込んでいるのだが、口だけじゃなく鼻や耳からも噴水のようにウイスキーを吐き出している。
その横にいるのは東方の顔立ちをした屈強そうな女冒険者だが、そちらも白目を剥いている。女の矜持で嘔吐はしていないようだが、いつ決壊するともわからない表情をしている。
「と、とにかくインリアンを捕まえて手紙を取り返そうぜ」
「そうですね」
「あれ? バウラとモーネじゃないか」
そこに合流したのがカメアリと半鬼人種の斧戦士ルデリッサ、猫人種の魔法使いイェニコルだ。
この三人は、紆余曲折ありながらもルイードのおかげで
ちなみにミヒトとしては、正当に商売として買い取った手紙なので渡すことを断固として拒んだが、カメアリが金貨を何枚か差し出したら渋々応じた。
これは闇オークションに関わった後ろめたさもあり、もし憲兵が来ても知らぬ存ぜぬを決め込むためには、手元にある物的証拠……手紙が邪魔だったからだ。
「手紙は取り戻せた。早くウザードリィ領に届けに行こう」
「あれ。じゃああいつは持ってなかったってことかよ」
バウラがインリアンを指さしたがカメアリは目をしかめる。
「ん……インリアン? なにやってるのか知らないけど、今は捨てておこう。僕たちはこれを早く配達しないといけないんだから」
「依頼を受けて何ヶ月も経った気分だわ」
ルデリッサが苦笑する。
ようやく依頼の品を取り戻せた【赤き鋼鉄の絆】は、納品を間に合わせるため、飛び出すようにして王都を後にした。
その様子を眺めていたルイードは、自分やシルビスが置いていかれていることに苦笑しつつ「やれやれだぜ」と零した。
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