第259話 物事を極めてウザい方向に持っていく人っているよね
俺の名はインリアン。
遠いご先祖様が異世界からやってきた「稀人」の中でも極一部しか持っていない
バフアタッカー。
俺が攻撃を加えたダメージ分だけパーティ仲間の攻撃力と防御力を強化できるこの
「おめぇら、今夜はとことん飲め!」
「あざぁぁぁぁっす!!」
古物商のミヒトに手紙を売っぱらったお陰で懐は温かい。だが、その金を溜め込むなんてカッコ悪いことはしない。こうして歓楽街のチンピラ共に呑ませてやったほうが後々俺の利になるからだ。
なぜなら、俺の酒を呑んだ連中は全員「仲間」に認定され、バフアタッカーの対象になる。この店の男や女はみんな冒険者崩れで荒事を得意とするチンピラどもだ。いざとなったら捨て駒に使えるってわけだ。
どうして俺が警戒しているのかって言うと、カメアリたちが俺を追いかけ回しているみたいだからだ。この歓楽街に入るときにも、露出狂のトカゲ女とカメアリに寝取られやがったモーネらしき姿を見かけた。
まぁ、奴らにとって依頼品である手紙を盗まれたのは洒落にならんことだろうし、血眼で俺を探しているのは理解できる。しかし追放した俺をわざわざ追いかけるなんて、カッコ悪いことこの上ない。心の底からザマァァァwwwwと叫んでやりたいところだ。
「おっと」
繰り返すが、俺の「バフアタッカー」は俺が攻撃を加えたダメージ分だけパーティ仲間の攻撃力と防御力を強化できる。いまのままじゃタダ呑みさせただけでなんの役にも立ちゃしない。だから俺はさっきからテーブルの足を拳で軽く叩き続けている。
俺の与えたダメージを何倍かした力が仲間に分配されるので、この程度でも連続してやり続ければそこそこ強くなるからな。
モーネはまだいいとして、トカゲ女が現れたら俺一人じゃ勝ち目がない。そんときはここにいる連中に守ってもらわなきゃ……。
「おい、さっきからガツンガツンうるせぇんだよ」
「んあ?」
「テーブルの脚を殴ってる音がうるせぇって言ってんだ」
「なんだてめぇ、俺に喧嘩売って……あれ?」
そう言いながら俺は文句をつけてきた男の顔を思い出していた。
カメアリ達と一緒にいたやたらガタイのいい胡散臭いおっさん! 他所の国の冒険者達を一蹴した手練! なぜか我が師アラハ・ウィ先生と対等に話していた男!
「ななな、なんであんたがここに……」
「ああん? 俺がどこで飲もうと俺の勝手だ。てめぇに断る必要があんのか、おおーん? それともなにか、この俺様に絡もうってのかこんガキャあ」
「でたよウザ絡み。酒飲むとすーぐ絡みだす」
おっさんの隣りにいるノーム種の美少女がめんどくさそうにそっぽを向いた。
いかん。このおっさんはとにかく強そうだ。いや、強い。うちのお師匠様と対等かもしれないと思うと、ここは穏便に回避するしかねぇ!
「べ、別に文句はねぇ。あんたも呑んでいってくれ。な? 俺のおごりだからさ!」
「とっくに貰ってるぜぇ」
やべぇこいつ! この店で一番高いアルマン・ド・ブリニャック・ブラン・ド・ノワールを三本も空けてやがる! 手紙を売っぱらった金だけじゃ支払えない酒だぞ!? てかなんでそんな高級酒が場末の歓楽街においてあるんだよ!!
てか、思い出した。
このおっさんは東のギルドの有名人「ウザ絡みのルイード」だ! どうしてカメアリのパーティにいたのかわからないが、こいつはヤバい。
「新人冒険者に喧嘩ふっかけては金品をカツアゲしたり、若い女冒険者に無理やり借金を作らせて肉奴隷にする極悪非道の冒険者がなんでここに……」
「いやまてこら。そこまでのことはしてないぞ」
「う、うそ付くな! あんたがギルドから放置されている理由は、とんでもねぇ武器を股間に持ってて、あの受付統括のカーリーさんも強制的に従えてるからって話を聞いたぞ」
「え、なにそれ……」
「あんたと揉めると、下半身で作った権力も相手にしなきゃならんって聞いてる。女の冒険者達は大体下半身の武器でやられた後だって聞くし、王妃様もあんたのえちちフレンドだって評判だ。そんな下半身カースト上位のやつに絡まれたくないから、穏便に頼むぜ……」
「え、え? ちょっとまって、なにその噂。どこ発信? いやマジで教えて」
ウザ絡みのルイードが何故か焦ったようにオロオロしている隣で、ノーム娘がニヤニヤしている。きっとこの娘が噂垂れ流してるんだろうな、と思ったその時、酒場のスイングドアが力いっぱい開いた。
入ってきたのは……ああ、やばいやばいやばい。あいつら王朝の冒険者じゃねぇか!
その先頭を歩いている小柄な女がリーダーか?
口元を布で隠しているが目元はこのあたりの土地では見たことがないくらい濃い。そして腰には二本の
「……」
女は足を止めてウザ絡みのルイードを睨みつけた。
「貴様、先刻うちの者たちを新年あけまして悪即斬って言いながら殴り飛ばした男だな」
「そんなこともあったっけ?」
「丁度いい。獲物に逃げられてムシャクシャしていたところだ。貴様の首を肴にして酒を呑んでやろう」
ウザ絡みのルイードも普通じゃないが、この女も異常だ。
「おいおい。余所者が大きな口叩くじゃねぇか」
「入ってくるなり上等だこのやろうども!」
俺が酒を飲ませてやった店の連中も、なぜか殺気立って武器を手にする。
「なんだ貴様ら。仲間か?」
王朝から来た女冒険者が小馬鹿にするように言うと、ルイードが立ち上がって胸を張った。
「おう。今この時、俺たちはこいつの仲間になってるからな」
「!?」
ルイードが俺を指差すと店の全員が頷いた。え、俺のスキルにそんな精神強制力あったっけ!?
「ほう。貴様がここのボスか」
女冒険者は
どうしてこうなった!!
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