第251話 ウザい修行させられてるのはそっちの方かよ!
早速だけどこの僕、カメアリこと亀有紋次郎はパーティリーダーとしての決断を迫られている。
「早く依頼をこなそう」と言う斧戦士のルデリッサ。
「任務の前に鍛えるべきだ」と言うのは盾戦士のパウラ。ドラゴニュート種の彼女は尻尾まで含めると僕より体積があるので、ルデリッサに負けない迫力がある。
「お腹減ったにゃ」と場違いな事を言うのは魔法使いのイェニコル。
「インリアンを探し出して真実を確認するべきでは」と言うのは修道女モーネ。彼女の意見はごもっともだけど、この広い王都の中でインリアンを見つけるのは不可能に近い。
新しく仲間に迎え入れた義賊のシルビスと荷物持ちのルイードさんは「どうでもいいから勝手に決めて」と僕に投げてくる。確かに新入り二人に何か決めさせるのは酷ってもんだし、リーダーの僕が決断しなきゃ……。こういうのは苦手なんだけどやるしかない。
「インリアンが僕たちに嫌がらせしている証拠はないし、実際は彼が能力で僕たちを強くしてくれていたけどいなくなったから弱体化した、という話が一番しっくり来る。そもそも僕たちの実力は低かったという事だね」
僕の言葉にみんなからの反証はない。
「ちなみに僕としては彼を連れ戻すつもりはない。楽をしないで、ちゃんと彼抜きでも【赤き鋼鉄の絆】は強くならないといけないと思っている」
古参メンバーは力強く頷き、ルイードさんとシルビスは僕の話を無視してさきイカを食べながらオレンジジュースを飲んでいる……。その食べ合わせはどうなのかな。
「そ、そして冒険者として依頼を受けたからにはちゃんと完遂しなきゃダメだ。もしかすると手紙を狙った何者かに襲われる可能性もあるので先に言っておくけど―――その時は逃げよう」
この世界の騎士や日本の武士なら「敵に背を向けて逃げるなど許されない!」と言い出すだろうけど、ここにいるみんなは自分の命と金を天秤に掛けながら生きている冒険者だ。現実というものをよく分かっているだけあって、誰も反対しない。
ところでルイードさんとシルビス。ギルドの室内に七輪を出して餅を焼き始めるのはどうかと思うよ? 一体どこから七輪を。
あぁ、砂糖醤油の香ばしい匂いが日本を彷彿とさせて……。おっといかんいかん。みんな真剣に聞いているんだからこのウザい二人のことは気にせずにしっかり話さないと!
「そこで作戦なんだけど、ウザードリィ領までは馬車を三台用意して分かれて乗り込もうと思ってる。敵に的を絞らせないためだけど、なにもない可能性もある。無駄だと思うかも知れないけど、その分たくさんの報酬をもらえるし、弱くなっている僕たちとしては保険はかけておきたい。いいかな?」
これにも異議なし。
馬車に分乗するのは先頭にルデリッサとパウラ、真ん中にイェニコルとモーネとシルビス、
ちなみに手紙は荷物持ちのルイードさんに保管してもらうことにした。彼はウザ絡みしてくるチンピラだけど、冒険者としての実績は僕たちの中で誰よりも高いらしいからね。そこを信用できなかったら仲間に入れていない。
「旅路の消耗品は僕とルイードさんで今日準備するから、明日の日の出に出発していいかな?」
これにも反論なし。
みんな素直に言うことを聞いてくれるから楽だけど、その分決定した僕の責任は大きい。
インリアンだったら意見も聞かずに勝手に決めて、ミスったら自分以外の誰かに責任転嫁するだろうけど、僕はそんなに図太くなれないので慎重だ。
「ところでリーダーさんよぉ。あいつらがこっちをチラチラチラチラ見てるけど、知り合いかぁ?」
ルイードさんに指摘されたので視線を合わせると、ギルドの入り口近くに
彼らの装備からして討伐系の冒険者で、全員戦士タイプ。この冒険者ギルドでは見かけない顔ぶれだ。
うちは女の子が多いからちょっかいかけようとしているのか、それとも別の理由があるのか……。後者だとしたら冒険者に恨まれる覚えはないんだけどなぁ。
「あたしに任せて。ノームイヤーは地獄耳~♪」
シルビスはなぜか自分の角を持って耳を澄ましている。そこ、耳じゃないよね?
「あたしは義賊だよ? 五感はめっちゃ優れてるから! 特に耳!」
「あー、リーダーさんよ。このバカは角の骨伝導で音を拾えるらしいんだわ。ほっといていいぜぇ」
ルイードさんが言う「こつでんどう」とはなんだろうか。コツ電動? ここよりは進んだ文明だった1960年代の日本でも聞いたことがない単語だし、なにかの魔道具名かな?
「ふむふむ。ほうほう。あいつら、あたしたちの事を話してるよ。あいつらブッコロだってさ」
ブッコロ? ぶっ殺すって事かな?
依頼の手紙に関することなのか、僕たちに対する恨みがあるのか、今はわからない。けど、気をつけた方が良さそうだね。
「おいおい、気をつけるだけかよ。めんどくせぇから聞いてくりゃあいいじゃねぇか、おおん?」
ルイードさんはズンと立ち上がり、男たちの方に大股で歩いていってしまった。
「おうおうおう、テメェらよその冒険者だな? 誰に断ってこのギルドでデケェ面してやがんだ、おーん?」
あの人、基本的にいつでもウザ絡みしてないと生きていけないタイプみたいだなぁ……。
「でけぇ顔なんかしてないだろうが!」
「入り口の端っこでひっそりしてるだけなのに絡んでくるな!」
「そうだそうだ!ギルド職員でもねぇくせに随分偉そうに幅利かせてんじゃねぇか!」
男たちは当然の正論を返してきたがルイードさんには馬耳東風だ。
「俺様に喧嘩売ろうってのかテメェら。ぶち殺すぞ?」
「上等だこの野郎! 先に絡んできたのはお前だからな。後悔するなよ!」
「けっけっけっけっけっ。お前らみたいな雑魚をこの俺様が相手すると思ったか! ―――へい、ボス、出番だぜ」
ルイードさんは僕を手招きしている。
いやいや……、いろいろおかしいでしょ。自分から絡みに行っておいて、ザコと蔑んだ相手をボスに相手させないでくれないかなぁ。
しかもあの人たちは絶対雑魚じゃない。装備品の使い込み方を見れば分かるけど、三等級以上の熟練者に違いない。弱くなった、いや、弱い自分に立ち戻った僕一人で相手しろなんて、無理だ。
「リーダー、私が……」
「いやオレがやってやる」
「にゃ」
「私も手伝います!」
駄目だ駄目だ。僕の周りにいる女の子たちに、こんな馬鹿げたことで怪我なんてさせられない。
彼女たちの方が僕より強そうという気もしないでもないけど、とにかく日本男児として女性を巻き込むのは本意じゃない。だから立ち上がって入り口にいる男たちの前に向かう。
「ははぁん、インリアンを追い出してハーレムパーティを作った稀人サマってのはお前か」
男の一人が僕を小馬鹿にしたように言う。
「なるほど、インリアンになにか焚き付けられて僕たちに因縁をふっかけに来たのかな?」
「いや、因縁ふっかけられたのは俺たちの方だが」
それ、ほんとそう。うちのルイードさんがすいません。
「おうおうおう、とにかく表に出やがれドサンピンが! いいか、俺たち【赤き鋼鉄の絆】のリーダーカメアリ様は超強いからな! 後で泣きわめいても許しちゃ貰えねぇぜぇ? なんつったってカメアリ様は稀人さんだからなぁ~? へっへっへっ、ビビッたか? どうだ?」
まるで自分のことのように自慢しながら相手を煽り倒したルイードさんは「じゃどうぞリーダー」と僕に場所を変わる。これだけ相手を怒らせて発破かけたのに自分は何もしないつもりかい!?
「ちったぁ揉まれてこいや、リーダー」
僕にだけ聞こえるように耳打ちしたルイードさん。その真意はわからないが、どうやら僕を試しているらしい。
いいだろう。僕だって稀人だ。やれるところを見せてやる!
□□□□□
俺の名はインリアン。
勇者の子孫でスキルを使える超有能な冒険者だ。
俺の使う
しかしこの能力を仲間に知られてしまうと強化対象から外れてしまうという制約があるので、嫌われながらも前に出て戦わなきゃならない。まぁ、俺が「嫌われないように前線で戦える男」になりゃあ、何も問題ないって話だ。
だが、俺は絶望的にセンスがなかった。
「今までもそんな攻撃で敵にダメージを与えていたんですかね? そんなものじゃ仲間への強化も大したことなかったのでは?」
あぶれていた俺に救いの手を差し伸べてくれた魔法使いのアラハ・ウィは、辛辣なことを言いながら呆れている。
この胡散臭い男は無料で俺を鍛えてくれている。
こいつの望みは、俺が盛大に【赤き鋼鉄の絆】の連中をザマァしているところを見ることらしい。とんでもなく趣味が悪いやつだぜ。
だが悔しいことに実力はすごい。魔法使いとは思えないほど強い。
下手な魔物はただの魔力を浴びせるだけで消し飛ばしてしまうし、未来予測でもしたのかってくらい危機察知能力も高い。
そして格闘技も化け物じみている。一昨日なんて誰もが憧れる一等級冒険者の「ファイヤーライガー」と雪崩式垂直落下式ブレーンバスターの掛け合いしてたもんなぁ。ファイヤーライガーに対抗出来る冒険者はペガサス・キッドしかいないって言われてたのに、あんな芸術的な格闘を見せられたら俺じゃなくても「こいつ魔法使いだったっけ?」ってなるだろ。
「ほらほら、インリアンさん。もっと腰を低く落として」
「俺、どうして格闘技やらされてんだ……」
「考えるな、感じろ、ですとも、えぇ」
いい。黙って従う。そして強くなって、絶対カメアリたちを見返してザマァしてやらぁ!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます