第250話 この流れはまたウザい修行が始まるのか!?
僕たち【赤き鋼鉄の絆】に冒険者ギルドから指名依頼。
ギルドから直接指名を受けるというのは冒険者にとって名誉であり、勲章だ。周りからも一目置かれるし、ただのパーティなんかより断然格上の冒険者集合組織「
だけど、僕はリーダーとしてちょっと冷静だった。
依頼を受けるよりも、まずは僕たちの弱体化について調べるべきだ。
モーネがサマトリア教会のツテで僕たちが呪われていないか調べてくれているはずだし、ルデリッサとパウラは酒場で聞き込みしてくれている。僕の予感では追放したインリアンが弱体化に関係しているはずだが、とにかく弱いままで指名依頼は受けられない。
「すいませんカーリーさん。僕たちのパーティはこの二人を加えてまだなにも相談や訓練をしていないので、指名依頼を受けるとしたらもう少し後からで……」
「【赤き鋼鉄の絆】は固定パーティ登録されているのでギルドが指定する依頼を拒否できません」
それって、お祝いどころか強制労働じゃないか。
「期日は明日から週末まで。報酬はパーティの一人につき大金貨五枚です」
カーリーさんは表情をピクリとも変えずに話を進めてくる。
しかし大金貨五枚は凄い。この世界だと二ヶ月は遊び歩いて生活できる金額で僕の感覚だと日本円にしたら五十万円くらいの価値だ。それは一人につき!? 六人だと大金貨三十枚! そんな大仕事受けたことがない。
そして金額が上がれば上がるほど「危険な仕事」だと言うことも分かっている。これは命の危険を伴う依頼だ。
「拒否できないにしても仕事内容は聞いておきます」
「みなさんにお願いしたいのは―――」
カーリーさんが氷のように冷たい美貌で僕とイェニコル、そしてウザ絡みのおっさんとバカ巨乳を見回す。
「お願いしたいのは、お使いです」
「……え?」
「ここからウザードリィ領までの配達任務です。ミュージィ・ウザードリィ女侯の夫スサノオ様宛に、東の王朝からの手紙をお渡しする仕事です」
「どうして直接領地に配達しなかったんでしょうか」
「さあ。王朝から直接に王妃の元に届いたそうですから。きっと手紙自体が飛行する魔法便箋を使ったのでしょう」
「はぁ。配達任務ですか……」
討伐依頼のように戦うことが前提のものより危険はなさそうだが、依頼料の高さが気になる。
「郵便屋さんに届けてもらったほうがよくないですか?」
「カメアリさん」
カーリーさんの鉄面皮から凍りつく眼差しが浴びせられる。
「あなたがいた世界と違ってこちらはそれほど配達網が整備されているわけではありませんし野盗も野獣も魔獣も凶獣もいるのですから地方への配達はキャラバン体制で護衛も引き連れて行われるのが基本ですしそもそもこの手紙配達の依頼は王妃から出されたものですからキャラバンの雑多な配送物に紛れ込ませて紛失するわけにもいきませんので冒険者の出番というわけです」
凄い早口の息継ぎなしで言われた。
「ほ、報酬が高すぎると思うんですけど」
「王朝からの密書ですから、それを狙う輩がいるかも知れません。その危険をはらんでいて、しかも高貴な方からの依頼なので、報酬はかなりはずんでもらっています。それを新規加入記念として依頼して差し上げようというのです。規律上あなたたちはこの依頼を断れませんが、私も鬼ではないので断るおつもりなら引き下げます。ただし、私の心象は最悪になること間違いないでしょう」
僕はごくりと喉を鳴らして隣りにいるイェニコルを見たが、彼女の猫耳はペタッと閉じて尻尾も下がっている。完全に負け猫だ。
「大金貨五枚! 五十万ジアでこんな楽勝な依頼、断るわけないよね!?」
シルビスというバカ巨乳は受けろ受けろと僕の肩を揺さぶってくるが、僕よりこの子の胸のほうがバインバイン動いていて、ちょっと痛そうに思えてきた。誰かちゃんとサイズの合ったブラジャーを買ってあげるべきだと思うんだけど。
「俺は任せるって言ったぜぇ~?」
ウザ絡みのおっさんはそっぽを向いている。
ここにいない三人に相談して決めたいところだけど、カーリーさんの様子からしてそんなに引っ張れない。ここはリーダー権限で決めてしまうしかないだろう。
「わかりました。受領します」
「では後ほど受付カウンターにおいでください。それとルイード様」
「おおん?」
「何事もほどほどに」
「お、おう……」
このおっさんはなにかやらかしていたんだろうか。カーリーさんに忠告されてひと回り小さくなったような気がする。
しかしカーリーさんがウザ絡みに語りかけた時のあの表情……。まるで恋する乙女みたいに見えて、僕はちょっとびっくりしてしまった。きっと気のせいだろうけど。
「じゃあ義賊のシルビスさん、荷物持ちのルイードさん。【赤き鋼鉄の絆】に歓迎します。そして早速の仕事が舞い込んできたので、宜しくお願いします」
「まかせてよ。このシルビスさんがいれば安心だかんね!」
「はンっ! ウザードリィ領まで馬車に揺られて行くだけの簡単なお仕事じゃねぇか。シルビスがいてもいなくても関係ねぇよ」
「ああん? ざっけんなボケ! 道中に危険がないか常に気を張って索敵するのが義賊の領分でしょうが! 手紙一つに荷物持ちなんていらないから、あんた下りていいよ! あんたの分はみんなで分けるから!」
「メェメェうるせぇなぁ。草でも食ってろ」
「てんめぇ! ノーム種に対する最大の侮辱を!」
二人の新参が仲良く喧嘩しているところに、残りの仲間三人が同時に戻ってきた。
新参の二人が喧嘩している今なら丁度いいので結果報告を受ける。
モーネはサマトリア教会で僕たちに呪いがかけられていないか調査してもらったけど、それらしいものはなかったそうだ。
ルデリッサとパウラにはあちこちの酒場に行ってもらい、インリアンがなにか言ってなかったか調べてもらったけど、それらしい情報はつかめなかったそうだ。
「困ったな……」
「何を困ってんだ稀人のにーちゃんよぉ」
ウザ絡みがその二つ名の通りウザったく絡んでくる。
現状を隠し通した場合、後から「だったら加入しなかった」とモメてしまうのを避けるため、僕はルイードに自分たちの弱体化現象について教えた。
「ほーん。そりゃインリアンってやつがパーティ強化
スキル? それは転生者の僕でも持っていない特殊な力で、それを持つ稀人は【勇者】と呼ばれているくらいだ。それを現地生まれ現地育ちのインリアンが持っているはずがない。
「ルイードさん。彼にそんな能力はないと思うよ」
「ああん? 勇者の子孫ってこともありえるぜぇ」
子孫!?
「たまぁ~にいるんだよ、隔世遺伝して勇者の力が使えるのに、この世界で生まれ育ったってやつが。どこかの隠れ里なんて大昔の勇者の血統が今も続いてるしなぁ」
「……隠れ里だったのかい、モーネ」
インリアンと幼馴染みである彼女は、ブンブンと顔を横に振った。
「私達のいた村は決してそんな特殊な環境では……。ですけど、彼のご両親は私達が生まれる前に、かなり遠くから入村しに来たと聞いていました」
だとしたら「インリアンが勇者の子孫」という可能性はあると言わざるを得ない。
あいつがどれだけ注意しても陣形を無視して攻撃していたのも、もしかするとなにか理由があったのか? しかし、だとしたら僕たちに何か言うだろうし……。うーん、わからない。
「そういうときの対処法を知ってるかぁ?」
ルイードはニヤニヤしている。
「インリアンってやつに強化されたレベルまで鍛えりゃいいんだよ」
簡単に言ってくれるなぁ、この人。
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