第248話 追放した側、された側。それぞれの物語が始まるタイミングでウザいやつが介入してきた!(長っ)
インリアンと離別した後、モーネは沈痛な面持ちでうつむいていた。
幼馴染みの彼女からすると、インリアンを追放したのは「赤き鋼鉄の絆」としては当然のことだったけど、個人の気持ち的にはよろしくないのだろう。
それは僕も理解できる。
彼は目立ちたがり屋で空想癖の激しい男だったが、根が悪いやつではなかったから。
いつも異世界人である僕を「ったくしょうがねぇな」って悪態をつきながらも面倒を見てくれたし、この世界の常識や非常識を(半分以上間違っていたせいでいろいろ恥をかかされたけど)教えてくれたのは彼だ。
実際、旗振り役としては彼は強烈だったので、その一点だけで言えばリーダーになっていてもおかしくない。彼は物事を推し進める能力には長けていたのだ。
「黙って言うことを聞いてろ!」
「いいからやるんだよ!」
「うるせぇ! どうにかしろッ!」
……あれ。思い出が美化されすぎていたのかな。思い返したらただただワガママを言っていただけかもしれない。
まぁ、なんにしても彼の問題は、周囲と合わせれない性格でパーティ行動ができないことけどね。
後方にどっしり構え、全員が軽快に行動できるように荷物を背負い、戦闘に入れば後ろで全体を見渡しながら指示を出し、必要があればポーションで仲間を癒やしたり遠隔攻撃でフォローをしてくれたり、戦闘職の僕たちにはできない細やかな気遣いで食料調達や調理、体調管理や金銭管理までしてくれる……冒険するための要が
インリアンは全て逆に行っていた。
いつも適当な指示を出してパーティを混乱させ、頼んでもいないのに前線に飛び出して連携を無視し、荷物は自分の分しか持たず、面倒な細かい仕事は全てメンバーに丸投げして自分は何もしないけど、金勘定だけは自分がやる。そして難癖つけて多くぶんどっていく……冒険するための邪魔でしかない。今の今ですら「あいつ全然役に立っていなかったんだな」と思っている。
だけど、サマトリア教会で惜しみない慈愛の精神を叩き込まれている修道女のモーネとしては、なんとかして彼を救いたかったんだろう。それでも彼女の精神が耐えられず「インリアンの追放」に舵を切ったわけだが。
「それじゃあ、赤き鋼鉄の絆の新たな門出に乾杯でもしようじゃないか」
盾戦士のパウラがドラゴン風の顔をニタニタさせている。彼女は酒好きだから飲む口実が欲しいだけだと思う。
斧戦士のルデリッサと魔法使いのイェニコルも黙って頷き、続けてモーネも「今日は戒律を無視しても許されると思います」と顔を上げた。
悪事は勿論のこと、酒や賭博、婚前交渉までも禁じる戒律があるサマトリア教会の修道女が冒険者ギルドで酒を飲む―――のは結構普通の光景だ。
そもそも精神修行のために冒険者になる修道女なんてそういう体裁を作っているだけで、大体が破戒僧なのだ。
もちろんモーネは破戒僧ではなく真面目だ。いやぁ、真面目すぎるほどに真面目なんだよね。
教会の偉い人からも
「あなたは世の中のことを知らなすぎるので冒険者として世の穢れを知ってきなさい。冒険者ギルドに所属していれば一定のことは守ってもらえますから。そうでもしないとあなたの場合はいつか変な男に騙されて借金まみれになって娼婦に落ちてしまいそうです」
と心配されたそうだ。
その悪い男が彼女に寄生して村から一緒に出てきたインリアンだったようだが、あんな小物で良かったとも言える。
「「「おまち」」」
ギルド内に設けられたルイードの酒場の名物、全く同じ顔をした三人姉妹がエールを持ってきた。
彼女たちは三つ子らしく、誰が誰なのか当てられる冒険者は一人もいない。
噂によると
「おいおいカメアリ。給仕係に色目使ってんじゃないぞー」
こういう突っ込みをしてくるのは決まって盾戦士のパウラだ。ドラゴニュート種というのは「寡黙で冷徹な武人」と聞いていたが、全然イメージ通りじゃなかったな。
「カメアリ。リーダーとしての初仕事だ。挨拶を」
斧戦士のルデリッサが僕を肘で突くと、魔法使いのイェニコルと修道女モーネが目をキラキラさせて僕を見る。
これは困った。
最近の稀人に聞いたけど、飲み会の時には煽る音頭があるらしい。残念ながら僕がいた頃の日本(戦後昭和)にはそんなものなかったんだよなぁ。
「いいんだよ。思ったことを言ってくれ。景気よくな!」
パウラがウインクしてくれたので、僕は短い言葉で乾杯の挨拶に変えた。
「これからが始まりだ! 乾杯!」
□□□□□
あいつらは俺を追放したことをきっと後悔するだろう。
俺がただの荷物持ち? 冗談じゃない。奴らは今まで俺がどれだけ「赤き鋼鉄の絆」の為に頑張ってきたのか知らない。
実はこの俺インリアンは稀人の……いや、勇者の子孫だ。
限定的だが勇者にしか使えない
これは俺が攻撃を加えたダメージ分だけパーティ仲間の攻撃力と防御力を強化できるという
しかも、この能力を仲間に知られてしまうと強化対象から外れてしまうという呪いにも似た制約がある。
その面倒な制約がある代わりに、強化率は異常だ。俺がモンスターを斬りつけるだけでみんなの攻撃力はどんどん上がっていくし、防御力も同じだけ高まっていく。
残念なことに俺には稀人としての身体能力は遺伝しなかったどころか、一般人より劣っているため、それほど多くのダメージを与えることはできないが、「バフアタッカー」の能力があったからこそ「赤き鋼鉄の絆」は活躍できていたはずだ。
それなのにあいつらは俺を邪魔者扱いした。
みんな俺に強化された後の自分を「自分の実力だ」と勘違いしているに過ぎないのというのに!
特にカメアリ。あいつは俺が集めたハーレムを横取りした諸悪の根源だ。ただの親友ポジションにいる無能な稀人だと思っていたのに、まさか女達を掌握するなんて……。完全に誤算だった。
そうだよ。メンバーは俺が集めたんじゃないか。
斧戦士のルデリッサは
盾戦士のパウラはドラゴニュート種というトカゲ顔を除けば体つきはセクシーダイナマイトだ。いつも露出気味だからこそ、いつかあの体を好きにしてやりたいと思っていたが、結局あの鱗肌の感触もわからないままか、くそっ。
そして幼馴染みのモーネ。
ガキの頃からあいつは俺の女だ。俺のものだ。モーネに自由意志なんかいらない。俺の言うことだけ聞いていればよかったんだ。くそっくそっ。
「おやおや。荒れてますねぇ」
妙なやつが俺のテーブルに座った。ローブのフードを目深にかぶった長身の男だ。
ここは南の冒険者ギルド。あんな追放劇があった後だから東の冒険者ギルドには行けないので、別のギルドに登録し直したところだ。
そしてギルド内の
「なんだてめぇ。失せやがれ」
「まあまあそう言わずに。ヘイマスター、こちらの御仁に私から一杯」
「……なんだお前は」
男はフードを外してみせた。
「わたくし、アラハ・ウィと申します」
フードの下には目元を仮面で覆い隠し、唇の右端を吊り上げるように笑う男の顔があった。
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