第十一章:無能な仲間を追放した冒険者パーティ。テンプレ通りに弱くなった挙げ句にザマァされるけど、なにも悪いことはしていないのでルイードが助ける物語

第246話 無能な仲間とモメてたらウザいのに絡まれた件

 僕の名前はカメアリ。


 出身はこの世界じゃないし、本当は亀有紋次郎というちゃんとした名前もある。


 最初の頃、この世界の名前の順番が日本と違って「名前+名字」だと分からずに亀有と名乗っていたせいで、それが名前だと思われたまま今に至る。ちなみに名字は家名と呼ばれ、貴族しか持っていないからどのみち名乗ったら僭称ってことになってた。もうどうでもいいんだけど。


 いきなり光に包まれてこの異世界に飛ばされた僕は、なにをしていいのかもわからず戸惑ったけど、そんな僕を救ってくれたのが今の仲間だ。


 僕は「稀人」という特別な存在らしいけど、この世界には何十、いや、何百という稀人がやってくるから珍しくはないらしい。


 それには鍛えないとちょっと強い程度の一般人でしかない。特殊な技能を持っている稀人は「勇者」と呼ばれるけど、僕はそんな力はなかったので地道に鍛えないといけない。


 仲間たちは僕の成長を自分のことのように喜んでくれる善人ばかりで、彼らと一緒に成長してきた。


 斧戦士のルデリッサ。


 鬼人種オーガとヒュム種のハーフで背は百八十センチもあるし筋骨隆々と、見た目はちょっと強面だけど、実はすごく乙女趣味で可愛らしい女性だ。


 ルデリッサは僕を抱きしめていないと寝心地が悪いって言ってるけど、胸が大きい彼女に抱かれていると悶々とするので僕としては困っている。


 次は盾戦士のパウラ。


 ドラゴニュート種と呼ばれる珍しい人種で、見た目は人間のように二足歩行するドラゴンなんだけど、彼女もまた出るところは出ているセクシーボディーなのに「服を着る習慣はない」ってほぼ全裸に軽く装備をつけているだけだから目のやり場に困る。


 次は魔法使いのイェニコル。


 猫人種フェルプールの彼女は酒を飲むと完全にエロモードに入るのでいつも僕が捕食対象になっている。いつか彼女のお誘いを拒否できなくなりそうな自分がいる。


 そしてサマトリア教会の修道女モーネ。


 厳しい戒律の中で生きてきたヒュム種の彼女は、冒険者になって精神修行している。先々月彼女から告白されて僕とは恋人の関係になった。けど、彼女の戒律的に婚前交渉はNGらしいのでまだキスもしていない。清い関係だ。


 最後はのインリアン。


 モーネと同じヒュム種で(僕もヒュム種なんだろうけど稀人だから同族とは思われていないっぽい)、モーネとは幼馴染み。ただ自己評価は高いけど冒険者としては僕よりお粗末で、困った人なんだ。


 なにがお粗末なのかって


 ・冒険者職業訓練で示されたジョブは「ポーター(荷物運び)」なのに、なぜか戦闘職のような事をしようとする。


 ・しかし攻撃力、防御力、素早さ、器用さ、魔力、察知力などすべてが人並み以下なので戦いの場では邪魔でしかない。逆にインリアンの無謀な動きをフォローするためにみんなが危険になることも多々ある。


 ・ポーターも重要な役割だというのに、全然荷物を持とうとしないので、みんな自分の荷物を自分で運んでいる。突発的な戦闘になったら荷物を下ろす所作一つが命取りなんだけどね……。


 ・自分の意見は正しいと思いこんでいるので、確証もなく物事を決めつける。察知能力は低いはずのに斥候職スカウターみたいに「右から敵が来る!」とかって言うけど、来た試しがない。


 ・さらに幼馴染みのモーネとは「結婚を誓った仲だ」と勘違いしているらしい。モーネは「そんな約束したこともないしお互いの両親も顔合わせすらしていない」とのこと。僕の世界ではストーカーと呼ばれる種別の人なんだよね。思い込みが激しいというか。


 ・他の女性メンバーに対しても「あいつらは俺に惚れている」と思いこんでいるらしく、僕の存在はインリアンを持ち上げるための噛ませ犬で親友ポジション、らしい。断っておくけど一度も彼と友達付き合いしたことはないし、なんだったらあんな男と友達になろうとは思ったこともない。


 じゃあ、どうしてこんなやつと仲間になっているのかと言うと、モーネが優しいからだ。


「あの人、故郷でも定職につけず暮らしていけなかったくせにプライドだけは高くて」

「わお……」

「けど、幼馴染みだし、拒絶するのも夢見が悪いので、もうしばらく面倒を見ませんか?」


 斧戦士のルデリッサは「カメアリに任せるわ」と言い、盾戦士のパウラも「オレもカメアリに任せる」と言い、魔法使いのイェニコルは「他の男と組むのは嫌だけど、カメアリがいいなら私もいいにゃ」と素っ気ない。


「みんなさ、僕がリーダーってわけじゃないんけど……」


 いつの間にか僕は彼女たちのリーダーになっていたらしい。


「え、だけど私達はもうパーティー登録もしてあるチームですし、リーダーは必要ですよ」


 モーネは不思議そうな顔をして僕を見るけど、登録されていたことなんて聞いてない。しかも登録名が「赤き鋼鉄の絆」だと……。誰が決めたのこれ?


「インリアンね」

「インリアンだぜ」

「インリアンにゃ」

「ごめんなさい。インリアンです」


 固定パーティ登録をすると、冒険者ギルドに毎月固定の諸経費を払う義務が生じるのと、ギルドが指定する依頼を拒否できなくなる。その代わり、パーティ全体で等級を上げやすいので、個人で頑張らなくても三等級くらいなら頑張って上げることができる。


 反対するわけじゃないけど、僕らは個人個人でもそれなりの実力がある冒険者だしなぁ……。まぁそれよりなにより、僕にも一言くらい相談してくれてもいいのに、と思う。


「安心してくれカメアリ。リーダーはお前だ」


 盾戦士のパウラがグッと親指を立てる。ドラゴニュート種の指は六本あるから僕から見ると不思議なグーを握っている。


「え、どうして?」

「パーティ登録する時、オレがカメアリの名前を書いたからだ」

「そうじゃなくて、どうして僕をリーダーに?」

「ん? お前以外にオレたちのリーダーはいないだろ? 変なことを言うやつだな。ちなみにオレにリーダーは無理だぜ!」


 ドラゴニュート種は僕と考え方が違うんだろうかと思ったけど、他のみんなも首肯している。


「いやいや、経験的には斧戦士のルデリッサとか」

「私にはカメアリほどのカリスマはないし、カメアリ以外の男に命じられても不愉快なだけだわ」

「そ、そんなことはないと思うけど……。魔法使いのイェニコルは?」

「リーダーとかめんどくさいにゃ」

「ですよね。じゃあ修道女のモーネは……」

「私には必要な時に冷酷な判断ができません。戒律に縛られていますから」

「だったらインリアン……は、ないな」


 僕ですら彼がリーダーをやるのは無理だと判断する。彼に任せたら無理難題が飛んでくるだけで危険に陥ることが目に浮かぶし、なんだったらこの仲間を抜けたくなる。


「おい!!! どういうことだよ!!」


 噂のインリアンが大股で大声を上げながらやってきた。


「今、受付で確認したけど、なんで俺がリーダーじゃないんだ!? 登録したのは誰だよ!」

「オレだけど、なに?」


 盾戦士のパウラがぶっきらぼうに言う。


「どうして発案者の俺がリーダーじゃないんだよ。意味がわからない!」

「意味なら分かるだろ。お前じゃリーダーは務まらない。オレもみんなもカメアリになら全部任せられると言っている。お前もそうだろ、インリアン」

「確かにカメアリと俺は強い友情で結ばれているがこいつは異世界人でこっちの事はよくわかってないし、大して鍛えられてもいないからちょっと強い程度じゃないか。それに俺のモーネにちょっかいかけてるし、最近調子に乗りすぎだと思っていたところだ!」


 うーん。


 僕は調子に乗っていただろうか。むしろ恋人のモーネ以外には手を出していないし、モーネにも戒律があるからなにもしていない。


「それにカメアリはとんでもなくサボり魔じゃないか! こんなやつにリーダーを任せたらみんな路頭に迷うぞ!」


 僕はこの世界で無力で無能で無学で無知だということを理解している。だから、毎日依頼をこなした後に冒険者ギルドの訓練場で体を鍛えたり勉強もしているわけだが、インリアンは「カメアリがやる気ないから複数の依頼を受けられない」と言っている。


 自己研鑽についてはみんなも理解していることだと思っていたし、決してサボってるわけじゃないんだけど、人一番効率が悪い効率厨に理解してもらうのは難しいなぁ。


「仕方ない。カメアリ、俺と決闘してリーダーを決めようぜ」

「決闘?」


 冒険者ギルドの中がざわめいた。


 決闘には最低限のルールがある。

 ・衆人環視の中、日時を定めて行われる。

 ・相手を殺害すると普通に殺人罪で衛兵にしょっぴかれるので適度な加減が必要。

 ・相手が戦闘不能もしくは降参したら終了。死体蹴り行為は禁止。

 ・暗黙の了解で敗者は勝者より立場が低くなる。そこに冒険者等級は関係ない。

 ・対決後の復讐や報復はご法度。そんなことをしたら他の冒険者たちにリンチされても仕方ない。


 つまり、決闘とは負けた側がかなりリスキーな勝負だ。さすがに相手がインリアンでもそこまでの屈辱は味あわせたくない。


「なぁインリアン。そんな物騒なことしなくても、話し合いで……」

「おいおいカメアリ。俺に負けるのが怖いのか」


 なんで強そうに言うかなぁ。戦士系の僕と荷物持ちのインリアンのどっちが強いかって、僕のほうが強いのは明白なんだよなぁ。


 普段インリアンの戦い方を見ていると反面教師になってくれて「あんなことをしたらだめなんだな」とわかりやすくもある。それくらいにインリアンは戦闘に向いていないのに、なぜか前衛に立って目立とうとする。


 それで敵の攻撃を受けたら盾戦士のパウラを叱責し、戦闘中でもお構いなしに修道女モーネに治癒魔法をかけるように強要するので邪魔で仕方ない。


 なんなら周りをちゃんと見ていないから魔法を詠唱中のイェニコルにぶつかってキャストキャンセルすることも多いし、斧戦士のルデリッサが戦っている最中横からしゃしゃり出てくるせいで苦戦させられることはほぼ毎回だ。


 インリアンの役目は荷物や食料を運び、守り、パーティが円滑に活動できるように補助することだ。戦うことじゃない。そんな運び屋ポーターと戦士系の僕が決闘するなんて、ある意味「容赦ねぇな!」だし「大人げない!」って感じがする。


「よぉ、オメェら。おもしれぇ話してんじゃねぇか。おおーん?」


 そこに現れたのが、無精髭を生やした前髪バッサバッサの大男。


 このギルドで有名なチンピラ冒険者「ウザ絡みのルイード」だった。

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