第240話 二人はウザプリ
「副学院長の言っていることは支離滅裂だ。永久を生きる私達
「元の世界では異世界への門を開けられないから悪魔の住む世界に私達を連れてきた? 自分の生徒を生贄にするような人ではないはずだ」
レッドヘルム学院の二大「俺様口調女子」の対談に、周りの生徒達は息を潜めて聞き入っている。
「そうだな。それに彼女は『神の矛盾を問い質す』と言っていたが、そのために異世界の門を開くというのも理解できない」
「私もそう思っていたところだ。そんなことをして神の真意を図れるというのか? そもそも神ってなんだ」
二人のもろかぶりしている口調に、周囲の生徒の中で「いまどっちが喋った?」「てか声色も似てないか」「中の人が同じに違いない」などと囁かれている。意外にもレッドヘルム学院の生徒たちはここ最近いろいろな事件に巻き込まれてきたせいで肝が座ったようで、誰ひとりとして取り乱していない。
「そんなことより、私が一番気になったのは……」
「ああ、私も気になった」
「「ルイード」」
二人の美女は声を揃えてウザい男の名を呼んだ。この段階で周囲の生徒たちはどちらがどちらのセリフなのかわからなくなった。彼女たちの口元が見えない背面の生徒たちなど「いまのはどっちのセリフか」で賭けを始める始末だ。
「そのルイードという者のことを知っているのか、生徒会長」
「ちょっと前に在籍していた不躾の極みみたいな臨時教員のことだと思うんだが、カミラ殿は面識ないのか」
「幸か不幸か、ないな。臨時教員? 一体何者だ?」
「ただのウザいおっさんだ……と思っていたがそうじゃないのかもしれない」
「おっさん? ふ~む。シャクティー殿にあそこまで気に入られるとはどんな男なのか気になるな」
「カミラ殿。今はあんなおっさんのことはどうでもいいのかもしれない。彼女―――シルビスをどうにかしないと」
「くくく、さすが生徒会長。一般生徒を守るために命を張るつもりか」
「そんなつもりはない」
「あれ? きっぱり否定したな」
「いやいやカミラ殿。副学院長とやり合うなど正気の沙汰ではないぞ」
「それは理解している」
人類上位の戦闘力を持つ
そんな
「では『どうにかしないと』とはどうするつもりなのだ、会長」
「連れてここから逃げるとか」
「外は私達が思い描くところでは、天使たちがいるとされている天界の真逆だろう。天界のこともよくわからないのにその反転した世界など、私達の常識が通用する場所ではない。逃げることはできないぞ」
「じゃあ、いっそ一思いに私が彼女に引導を渡そう」
「生徒会長が生徒を殺してどうする……。それにしてもシャクティー殿が指名するということは、シルビス嬢は強いのか? ああ見えて三等級の冒険者なのだろう? 以前無限回廊に落ちた彼女とガラバを助け出したことがあったのだが、その時は大して強そうには見えなかったんだが……」
「残念だが強くない」
「なん、だと……」
「彼女は胸に栄養と知性を全て吸い取られているのか、頭は弱いし空気も読めない。本当に平凡なノーム種だ。三等級になれたのも他の冒険者メンバーに付いて回って実績を積めたおかげだろう」
「ああ、なんということだ。だったらシャクティー殿に勝てるはずがないな。私達ハイエルフですら勝てるかどうかわからない相手だからな」
「そうなのだ。あのアホの子にはとても……残念なことだ」
外野からディスってくる生徒会長と吸血当主をジト目で睨みつけたシルビスは「だったらあんたらが代わりなさいよ!」と叫んだが、二人は無視している。シャクティーとやり合うなんて正気の沙汰ではないとわかっているからだ。
だがシルビスはフンスと鼻息を荒くして勝ち気な態度をしている。
「あんたら腰抜けと違って、私はルイードさんの一番弟子なんだから、負けるはずないでしょ!」
「……あんな事を言っているがめちゃくちゃ足が震えているではないか」
「……ガクガクだな」
二人の美女は思わず合掌したが、ここまでは冗談だったようで、シルビスの横に並ぶようにして前に出た。
「私はレッドヘルム一族の当主カミラ。縁あって助太刀いたす。
「私はレッドヘルム学院生徒会長のエマイオニー。生徒を守るのは生徒会長の努めなり。私も
「あんたたち……あとはまかせた!」
シルビスは目をうるませながら二人をその場に残してダッシュで逃げた。
「逃げられる場所はないといいましたよ、小さき者シルビス」
「小さき者じゃないっつってんでしょうが! せっかく一緒に戦ってくれる人が出てきたかと思ったら二人とも
しっぽにぐるぐる巻きにされて元に位置に戻されたシルビスは、生徒会長と吸血当主のジト目に迎えられた。
「「貴様、なかなかのクズだな」」
「なによ! 二人とも同じ声色で同じセリフ言わないでよ! よりによって職種も一緒の
「安心しろ」
「いくら傷ついても治癒してやる」
「私達は」
「私達は」
「「
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