第234話 シルビスさん、ウザい仕掛けを見つける
天照大神の神使、通称ニワトリ少女は逃げていた。
ルイードとアラハ・ウィ、そして王国王妃が勢揃いしていた野営に天照大神の親書を持っていったはいいが、やれ「妾のために薪を拾ってこい」とか「おいおい火も熾せねぇのかよ」とか「魔法を使うのは邪道ですとも、えぇ」と責められながらこき使われたので、嫌になったのだ。
「まったく、どうして天照大神の神使たるわしが、よく知らん別の神の神使どもにこき使われるんじゃ」
この世にはいくつもの神がいる。
世界を生み出した創造神は神や神使でも見ることが出来ない高みにいるが、その下には天使を率いる「神」や悪魔を率いる「魔神」、東方を守護する天照大神を頂点とする「高天原の神々」など、数多くの神格が存在している。
つまり彼女が仕えている天照大神とルイードたちを生み出した「神」は同列のはずであり、その神使であるニワトリ少女とルイードたちも同列だ。なのに格下のように扱われるのが許せなかったのだ。
「そもそもなにが好きで野営なんかしておるんじゃ。わしらの神業があれば森のど真ん中に宮殿でも作れるというのに!」
ニワトリ少女は野営に疲れ、神の力を使って森のど真ん中に宮殿のような館を作り出したら、ルイードが一瞬で吹き飛ばしてしまった。
「無粋なニワトリだなこんにゃろう! 自然の中で不便を楽しむのが粋なんじゃねぇか!」
「わしにそんな面倒な趣味を押し付けるな!」
そんなこんなで、王国王妃が所要のために転移した頃合いに便乗して逃げ出した。彼女の役目はルイードたちに親書を渡した時点で終わっているので問題はないはずだ。
「早よぉ王朝に戻って檜風呂で身を清めたい。あぁ、巫女服が焚き火臭い!」
―――それは復讐しなきゃだよ!
「なぬ?」
ブツブツ文句を言いながら飛んでいたニワトリ少女は、ピタリと飛空するのを止めて空中で辺りを見回した。
―――キミのムカつき、よくわかるよー
「なんじゃ貴様……、もしや悪魔の類か?」
―――僕の名はパズズ。キミが言う通り悪魔だよ!
「ふん馬鹿め、わしは別の神の神使で光側なんじゃぞ! 取り憑きたければ人間か荒振神にせい!」
―――僕が求める依代って、身近にいないんだよねぇ。キミなら相性が良さそうだなと思って。
「いらん! 去れ!」
―――そんなこと言っていいのかなぁ? 実は連合国のレッドヘルム学院で……
パズズが頭の中でとんでもないことを口走る。それはニワトリ少女が驚愕して思わず地上に落ちてしまうほどの内容だった。
「稀人たちがいる異世界とこの世界をつなげるじゃと!?」
□□□□□
その頃、シルビスは生徒会役員たちと共にレッドヘルム学院の中に囚われてしまった学生たちを集めている最中だった。
幼等部(八十名)、初等部(百二十名)、中等部(二百四十名)、高等部(四百八十名)、最高学部(千二百名)の二千を超える学生、そして教職員も含めるとニ千五百名にもなる人員を軽く収容できる大講堂は、レッドヘルム学院最大の施設であり連合国内でも五指に入る巨大建造物として有名である。
「船頭多くして船山に上るとも言う。事態に気がついたエマイオニー会長を中心に我々学生自治会は幼・初等部の保護に回ろう」
大人の風格を持つ最高学部の面々は、現場責任をエマイオニー会長に預けて生徒たちの中に入っていく。
「こういう場合、教職員がどうにかすんじゃないの?」
シルビスが怪訝な顔をするが、ナタリー副会長は頭を横に振った。
「教職員の大半は家名も持たない市井の者ばかりです。ここは貴族たる私達が愚民を率いるべき場面ですわ」
「会長、この副会長の選民思想、叩き直したほうがいいですよ!」
シルビスはナタリーを指差しながら嫌そうな顔をしたが、今の今まで教職員たちが何も行動してこなかったのは事実であり、彼女たちが率先して生徒を保護するために動いてきたことは間違いないことでもあった。
「この大講堂には災害時の寝具や食料の備蓄があるわ。外に出られない状態が続いたとしても、ここにいる全員を一週間飢えさせることはないわ」
アンジェリーナ庶務が自慢げに言う。
「こういう時は我先にと考えるクズが出てくる。風紀委員長の名に掛けて、そういう手合いはこの背刃刀で成敗する」
ミラージョ風紀委員長はフンスと鼻息荒く模造刀の柄に手をかけた。斬れないし刺さらない模造刀だが、この鉄の塊でぶん殴ったらただではすまない。
「ついに我がボビッチ家相伝の古流剣術、飛天ウザルギ流を使う時が!」
「ウザ? てかそんな剣を振り回すのやめてよ?」
シルビスが本能的にミラージョ風紀委員長を往なす。
イケメン三人衆のアルダムはサの国に伝承されている『サ・ウザー鳳凰拳』の継承者だが、どうやらウザが付く流派は太古の昔に天使ウザエルが人に与えたものだとか……そんなトンデモ流派の技はろくなものではないとシルビスはわかっているようだ。
「副学院長が見当たらないのはやはり……」
エマイオニー会長は「いつもならどこにいてもひと目で分かる巨大な蛇人種」が見当たらないことに、深刻な顔をした。
妙な怪しい魔法を人知れず使っているという噂が立つほど、最近の副学院長は様子がおかしい。この学院封鎖事件も彼女の仕業なのではないかと思えるほどだ。
「ねぇ、ちょっとこんなに人が密集してるの珍しいから上から見たいんだけど」
シルビスは大講堂の正面にある講壇を指差した。
「好きにしろ。しかし二千名以上の視線が集中することになるぞ」
「私可愛いから目立っちゃって玉の輿」
「……さっさと行け。あまり目立つなよ」
エマイオニー会長に釘を差されながらスキップして壇上に向かったシルビスは、気がついてしまった。この講堂の床には複雑な魔方陣が描かれていることに―――
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