第212話 アルダム、ウザ魔族に瞬殺される
-----ここまでのあらすじ-----
一目惚れしたアンハサ会計を公爵魔族から寝取ろう(?)と躍起になって闘っていたアルダムは、どういうわけかその公爵魔族ヤチグサと戦うことになったが、どうやらこの人はルイードの弟子みたい。さらにアンハサは「アルダムって女の子じゃね?」と言い出してシルビスたちは困惑する。
-----ここまでのあらすじ終わり-----
「アルダムが女とかありえないでしょwwww」
シルビスが「プギャー」とアンハサを指差しながら笑うが、彼女は真剣な眼差しで表情を変えない。
「……え、なにこの会計さん。
「本気ですよ。アルダムさんと闘っている時、彼(?)の急所を蹴り上げたんですが、その……男性のアレを蹴った感覚がなくて」
確かにアンハサはアルダムの股間にクリーンヒットさせていたが、アルダムは跳んでダメージを最小限に食い止めていた。だが、男がアレを蹴り上げられてノーダメージでいられるわけがない。
「いやいや、そんな馬鹿な。あいつ、女遊びが一番激しいし! それによく上着脱いでタントクップ一枚になったりしてるけど、胸なんかない……ない……え、もしかしてあのバキバキに鍛えられた大胸筋っておっぱいなの!? ちょっとシーマ、あいつのチ◯チ◯見たことある?」
「シルビスは私をなんだと思ってるんだ。あるわけがないだろ」
そこに生徒会長と副会長も参戦してきた。
「どう見ても男子だぞ」
「いや、あのおしりのラインからして骨格は女子かも」
女子たちは「アルダムは男か否か」を論じながらヤチグサ公爵が淹れてくれたお茶を飲み、お菓子を食べる。
「……なんかあっちが
アルダムはキャイキャイ騒いでいる女子たちをジト目で睨む。今からルイードの弟子と闘わされるので「これは死ぬ」と覚悟している横で、実に牧歌的な光景を見せつけられて腹が立つどころか呆れてしまっている。
「ちなみに私は魔族だが……」
ヤチグサ公爵は女子会の方は無視しているらしく、軽く跳躍しながら言う。
「……稀人なんだよ」
ルイードが新たにやってきた稀人たちの教育を副業的にやっているのは知っていたので、やっと「どうして魔族がルイード親分の弟子なのか」という疑問は払拭できた。
だが、魔族と戦う最悪な状況に輪をかけて最悪になったことで、アルダムは完全に戦意喪失した。
それでなくても基礎値が高い稀人が、それでなくても強い魔族としてこちらの世界に転生してきたら、それは軍隊を使っても太刀打ちできないような化け物に違いない。
「さて。私の妻を口説こうとした罰を受けてもらおうか」
ヤチグサ公爵は微笑んでいる。アンハサを口説いた云々というのは口実で、完全実力至上主義のヤチグサ公爵は、アルダムと戦いたくて仕方がないのだろう。
「冗談じゃない!」
アルダムはサ・ウザー鳳凰拳で唯一『構え』を取る技を使った。
構えは防御のためのものであり、攻めの一手で相手をぶっ潰していくサ・ウザー鳳凰拳には不必要なものだ。しかし、どうしても勝てない相手と戦うときにだけ使う技もある。それが―――
『やべ、技名忘れた』
長いこと使っていないのでアルダムはすっかり技の名前を忘れていた。長すぎる歴史を持つサ・ウザー鳳凰拳は、伝承されていく中で欠落した技もあるらしく、多分アルダムのお師様も「最後の切り札的なやつ」としか教えていない可能性がある。
「いくぞアルダム君!」
公爵魔族が動いたと思うや否や眼の前にいた。その疾さはアンハサの比ではなく、接近してきた時の風圧でアルダムは吹っ飛ばされ、なんの技も披露することなく闘技場の壁に激突して、首を変な角度に曲げたまま白目を剥いた。
□□□□□
目を開けると、視界に最初に入ってきたのは保健室の天井だった。
「お? おーいみんな。生き返ったぜ」
ガラバの声がすると、シルビス、シーマ、ビラン、そして保険の先生でありビランの婚約者(?)であるイノリイ先生がやってきて、全員がアルダムの顔を覗き込んだ。
「まだ死後硬直してるっぽいな」
「徐々に元に戻るらしいぞ」
「ねえねえ! シャクティさんの蘇生術、すごすぎない?」
「そうだな。あんな状態のアルダムを完全回復させるなんて……」
「魂魄が無事ならなんとでもなるって言ってましたぁ~」
体がピクリとも動かないアルダムは、それぞれが口にしている内容を咀嚼し、自分が一度は死に、そこから蘇ったことを理解した。
まさか風圧だけで死ぬとは。情けなくて死にたくなる。
「って、死んだけどな!(ぽよん)」
ガバッと起き上がったアルダムは、驚く面々を無視して「はぁぁぁぁ(ぽよんぽよん)」と深い溜め息を吐いた。
「なんだよあの公爵魔族、ありえねぇだろ。稀人で魔族でしかもルイードさんの弟子とか、勝てるわけないじゃんか。なぁ?(ぽよよん)」
アンニュイに苦笑するアルダムを見て、一同は顔をひきつらせている。
「誰か早くシャクティさんを呼んできてくれ。蘇生に失敗してる!」
ガラバが慌てたように言うと、
シルビスとシーマは汚物でも見るような眼差しでアルダムを見るし、ガラバも「気持ち悪い」と顔に書いてある。
「な……、なんだよ。俺はどうなっちまったんだよ(ぽよん)」
ベッドから飛び出して保健室にある姿見の前に立ったアルダムは「ひっ(ぽよよん)」と短い悲鳴を上げた。
胸がある。いつものピチピチのタンクトップから零れそうな抑圧されたおっぱいがある。起き上がったアルダムを見て全員が顔をひきつらせたのは、この胸のせいだろう。
「なななな、なんだと!(ぽよよん)」
アルダムは自分の胸を触って「おお、いい形」と感動しつつ、嫌な予感がして股間に差を伸ばした。
「ひぎゃああああああ!(ぽよよよよん)」
その場に崩れ落ちて四つん這いになったアルダムは、青ざめているガラバに向かって手を伸ばした。
「な、なんで俺、女になってんだよガラバ……(ぽよん)」
「知らん。そしてキモい」
「てめこのぶっころすぞ!(ぽよよん)」
「いやー、実はさぁ」
ここでシルビスが種明かしする。
「アンハサ嬢がアルダムのことを女の子だって言うもんだから、シャクティさんが蘇生する時に間違えたんじゃない?」
「はぁぁぁぁぁぁぁ!?(ぽよよよよん) 俺が女ぁ!? 誰がどう見ても童顔の美少年だろうが!(ぽよん)」
「ふむ。アンハサはお前の股間を蹴った時にアレがなかったと言っていたが。本当は男装していたペチャパイの女だったというオチではないのか」
シーマにそう突っまれたアルダムは「バカ言うな!」と憤慨する。
「拳法家が相手なのに弱点をぶらぶらさせて戦えるか! ああいう時はアレを体内に押し込める技ってのがあるんだよ!(ぽよん)」
「……想像できない」
人体の構造上そんなことができるのかとガラバは頭を抱える。
「くそっ、まさか俺がTS(
そう言いつつ、自分の胸をモミモミしているのは男の性であり、アルダムが男だったという現れだろう。
「―――ちょっとトイレ行っていろいろ確認してくる(ぽよよん)」
アルダムがウキウキと高揚しながら言ったその時、保健室にヤチグサ公爵とシャクティ副学院長がやってきた。連れてきたのはもちろんイリノイ先生だ。
「これはこれは。見目麗しくなったものだ」
ヤチグサ公爵はフフフと笑う。
「アルダム君。君の流派が負けたのではない。私が稀人の力で押し勝っただけの話だ。だからそんなに気を落として男をやめたりしなくてもいいんだぞ」
「てめ……(ぽよよん)」
「くくく。動く度にその胸がぽよんぽよん動いて大変そうだな」
「ちくしょう! ぶん殴ってやりたいけど勝てる気がしない!(ぽよよん)」
暫く事の成り行きを見守っていたシャクティはシルビスに耳打ちする。
『アルダム君は女ではなかったのですか』
『本人曰く、男だったみたいです』
『ふむ、困った』
『どして?』
『性転換は死者蘇生の時にしか出来ないので、男に戻すのならもう一度殺して蘇生するしかないのです。ちなみにこれは神の御業なので私がやったなんて内緒ですよ』
『誰に言っても信じてもらえないからいいんですけど、どーします? もっかい殺します?』
とんでもないことをすらすらと言うシルビスだが、シャクティとしては簡単に地上の生命を奪うことは道義に反することである。もちろん、ここに四大天使のリーダー格である
「このままでもいいか(ぽよよん)(もみもみ)」
「そのままにしておきましょう」
アルダムとシャクティの意見が一致してしまったので、ガラバは「あぁ……」と頭を抱えて蹲ってしまった。
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