第211話 アルダムとウザ魔族のエキシビジョンマッチ

 -----ここまでのあらすじ-----


 一目惚れしたアンハサ会計を公爵魔族から寝取ろう(?)と躍起になって闘っていたアルダムは、どういうわけかその公爵魔族ヤチグサに認められ、魔界に連れて行かれようとしていた。


 -----ここまでのあらすじ終わり-----





「完全実力至上主義の我らにとって君は素晴らしい戦いを見せた。私や妻の良き相談役となるだろう。さあ魔界都市カグラザカに行こうではないか」

「いきなりなんなんだよ! まだ試合の真っ最中でしょうが! ほら席に戻って。しっ! しっ!」


 アルダムは公爵魔族に対して不敬が過ぎる態度をとったが、ヤチグサ侯爵は美しい顔に笑みを浮かべるだけでとがめようとはしない。


「魔界で私に遠慮なくモノを言う者はいないので実に新鮮だ。やはり貴公に決めてよかった」

「ドMかこんにゃろ! いいからどけ! おめぇの嫁をぶん殴れない!」


 アルダムはただの暴漢みたいなことを言ったが、それを聞いても公爵魔族はニヤニヤと笑っている。


「チャンスは何回もあったのに、貴公は一度も妻の殴らなかったな」

「惚れた女の顔を殴れるかい!」

「私の妻に惚れたと申すか。それはそれは……」


 ヤチグサ公爵は公然と横恋慕を口にされても笑っている。


「殴れるのに殴らなかった。顔を狙えていれば手数的にも貴公が勝っていたのは明白であろうな」


 そう言われて顔を引きつらせたのは、アルダムではなくアンハサの方だった。


 観戦しているだけの者たちには到底わからないことだが、対峙しているアンハサは「もしやアルダムは手を抜いているんじゃないか」と心做しか感じてはいた。それを公爵魔族に指摘されたので自分の思い過ごしではなかったと分かり、悔しくなったのだ。


「副学院長、どうだろうか? この試合の勝敗は決した。いや、他の試合を見た限り、この者ほどの強者は見受けられないと思うが!」


 ヤチグサ公爵が大声で問いかけると、貴賓席にいたシャクティは拡声魔法で応じる。


『闘わずに納得する生徒はいないでしょう』


 それに対して


「無理!!」


 と出場チームたちから悲鳴のような声が上がる。


 アンハサも尋常ではなく強いと誰の目からも明らかだったが、アルダムの強さはそれに輪をかけて常軌を逸しており、とても勝ち目はない。特に貴族の子息たちは「たかが連高リーグで命を落とすなど冗談ではない」と棄権するつもりだったらしく、その様子を見越したヤチグサ公爵は、早々にアルダムたちの勝利を宣言したのだ。


『……それで全生徒が納得するのであれば【シルビスと愉快な仲間たち】を当校の選抜選手として―――』

「異議ありッ!」


 なんとヤチグサ公爵が手を上げた。その横にいるアルダムとアンハサも「何言ってんだこいつ」という顔をしている。


「ここまでの戦いを見せられて私が交われないなど、公爵魔族のプライドが許さない! 私にも手合わせの機会を!」

『それはリーグ戦の出場とは無関係な話で……』

「私は彼との一騎打ちエキシビジョンマッチを所望する!」

『ああ、それはご自由にどうぞ』

「ち、ちょっと!?」


 突然指名され、副学院長からも守ってもらえなかったアルダムが蒼白になる中、会場内は割れんばかりの拍手喝采に包まれた。


「魔族って強いんだよな?」

「しかも魔族の中でもずば抜けて強いから貴族なんだろ?」

「てかヤチグサ公爵は世が世なら次期魔王だし、強いに決まってる」

「ああ、そりゃ強いわー」

「どんだけ強いのか見たいよな?」

「たしかにー」


 そんな声が飛び交う中、ヤチグサ公爵は意気揚々と上着を脱いで戦闘準備を始めている。


「アンハサ嬢はご令嬢たちと特等席でご観戦あれ」


 ヤチグサ公爵は半ば強引にステージから追い出すようにアンハサの背中を押し、シルビスたちの方に寄せた。


「え、なんでこっち来たし!?」という顔をするシルビス達に対してイケメンスマイルするヤチグサ公爵は、亜空間から立派なテーブルと椅子、そしてティーセットを取り出してステージの端に置いていく。


「茶菓子もあるからゆっくり間近で愉しんでくれたまえ」


 再び亜空間から柿ピーやらアタリメのような女子高校生には似合わない渋いを取り出したヤチグサ公爵は、手ずから茶を淹れる。


「わっ、ぽたぽた焼きがある。田舎のおばあちゃんちに行くと出してくれるやつだ」

「雪の宿も。懐かしいな」


 シルビスとシーマはヤチグサ公爵が出してくれたお菓子に群がったが、生徒会Aチームの面々は引きつっている。


「こ、公爵様、い、いま、なにをなさったのでしょうか」


 会長が震え声で言う。


「茶を淹れているが?」

「その前です! なにもないところからテーブルや椅子を……」

「ああ。これはとあるお方に亜空間収納というスキルだ」


 この世界には「スキル」というモノが存在しない。それを持っているのは稀人の中でも限られた一部……つまり「勇者」だけなので目の当たりにすることは滅多に無い。ましてやそれをとはどういうことか。


 生徒会Aチームは理解が及ばず頭を抱えたが、シルビスとシーマは平然としている。そんなスキルはルイードやその弟子たちが多用するので見慣れているのだ。


 だから「とあるお方」という存在を大して気にも止めなかったのだが、アルダムは違った。


「ち、ちょっと待った。その技、誰から教えてもらったんですか」


 彼が蒼白になりすぎて紙より白くなっているのは、亜空間収納を始めとする次元時空をたやすく超えてくる技を「簡単に人に教える人物」に心当たりがあるからだ。


「ん? ああ、私が師事したのは、かの勇者たちを指導して先代魔王を討ち取った立役者であられるル―――「うわああああ!」


 アルダムが悲鳴を上げる。


 この悲鳴に共感したのは会場内でシルビス、シーマ、ガラバ、ビラン、そしてシャクティ副学院長だけだろう。


「ル」の人に指導された者たちがどうなったか。


 指導を受けた稀人達は超人になり、稀人じゃないアバンやジャックも一騎当千、いや、一騎当億くらいの戦闘力を持つ化け物になった。


 そんな指導を「初期値が鍛えられた稀人並」と言われる魔族に施したらどうなるか―――アルダムの運命は決したも同然だ。


「あんたと闘っても俺、瞬殺される!」

「その様子だと我が師を知っているようであるな」

「俺たちはその子分だっちゅうの!」

「なんと! 我が師の子分とな!? それは……さぞかし強かろう」

「あ、いや、違―――「私が強さを認めたアンハサより強いのも当然であったか。まだまだ見る目がない自分を恥じ入る」


 残念ながら、アルダム、ガラバ、ビラン、シーマ、シルビス……「ルイード一味」と呼ばれている冒険者の面々は、ルイードから鍛錬されたことがないので化け物じみた能力は持っていない。だが、ヤチグサ公爵の中では「ルイードの子分=ものすごく強い」という想定が組み上がっているようだ。


「……死んだな」


 サングラスを掛けてテーブルに肘を置き、顎の下で手を組んだシルビスが総司令官風に淡々と言うと、その後ろに立って手を後ろに組んでいる副官風のシーマが「ああ」と応じる。


「あのぉ、よろしいかしら~」


 いつもの「ゆるふわ」な口調に戻ったアンハサがシルビスとシーマに尋ねる。


「あ、私達にそういう口調いらないから」


 総司令官ごっこをやめたシルビスがサングラスを外しながら手をひらひらさせる。


「あらそうですか。では普通に喋りますね」


 ストンと普通の喋り方に戻るアンハサ。


 ちなみに素の彼女を知っているエマイオニー会長とナタリー副会長は、ヤチグサ公爵が淹れてくれた茶を飲みながら「私はなんでこんなところでお茶を」「会長考えたら駄目です。流されましょう!」と小声でやり取りしていて、こちらの話は聞いていないようだ。


「で、なんですか、会計さん」

「アルダムさんのことでお伺いしたいのですが」

「あぁ、あのスケコマシ? あいつ、元アイドル冒険者ってやつなんですよー。だからほら、一応クソ童顔でもイケメンじゃないですか。だからまぁ寄ってくるわけよ。女が、うようよと。あ、生徒会役員のあなたには言っときますけど、あいつ、学院に来てからも庶民や貴族の女生徒から相当言い寄られるけど手は出してないですからね。そんなことしたらシャクティさんに殺されちゃいますからwww」

「あ、いえ。聞きたいのはそういうことではなくて」


 シルビスのマシンガントークを遮ったアンハサは、コホンと咳払い一つして、真剣な眼差しで尋ねた。


「あの方、女性ですよね?」


 シルビスは組んでいた腕からずり落ちた。











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作者:注


立て込んでいて更新が遅れております。

週末も更新できないかも。


次回「アルダムは女の子? 全話読み返して矛盾点があったら教えてね!」この次もサービスサービス!

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