第206話 幕間に潜むウザイやつ
レッドヘルム学院でのほほんとリーグの予選を行っている最中、世界の果てでは今も熾烈な戦いが繰り広げられていた。
堕天使の輝かしい姿になったルイード……ウザエルは、仮面を外したアラハ・ウィ……アザゼルと殴り合い、その度に世界の理や時空間が破壊されて、周辺はとんでもない状況になっていた。
この二人が殴り合う余波で、ダドエルの穴から呼び出した魔物たちは怯えながら自ら穴の中に逃げ帰っていくし、救国の勇者たちを含むルイードの弟子たちは、生き残っている魔物や魔族たちを救いながら、この世界の終焉を止めようと空間補修をかけ続けている。
「くっ、うちのラーメンを後世に残すためには、勇者たちを手伝うしかない!」
迷宮のラーメン屋である堕天使アルマロスと冒険者のトライセラ夫婦は、命より大事な屋台を捨てて救国の勇者たちの手伝いを始める。その二人をサポートするのは各地のダンジョンマスターたち(
「無理をするな!」
堕天使アルマロスは前掛けを投げ捨てながら常連客のダンジョンマスターたちを心配するが、彼らは苦笑するだけだ。
「俺達の好きなラーメンを守るためさ」
ラーメンに命をかけるダンジョンマスターたちと店主たち。
その様子を見て熱く奮い立ったのはミュージィに預けられている破壊神スサノオだ。
「いい加減にしやがれぇぇぇぇぇ!!」
堕天使二人の間に割って入り、無駄な破壊を止めようとしたその瞬間、スサノオは百万回死んでは生き返り、へなへなと地面に落ちた。
世界創生の頃から生きている堕天使たちの猛烈な戦いは、スサノオの持つ神気では到底及ばない領域で行われていた。
アラハ・ウィがスサノオを殺し、ルイードが蘇生する―――その繰り返しを一瞬で百万回もやられたら、蘇生する際に生じた僅かな間違いが大きくなり、最終的にスサノオは小さな女の子の姿になっていた。
「いや、なんで!?」
ウザードリィ領の領主ミュージィが思わず突っ込む。
彼女はスサノオと共に腕に自信のある冒険者たちを引き連れてこの場にやってきたのだが、堕天使たちの想像を絶する戦いを目の当たりにすると「近寄れないわ」と確信し、ただの傍観者になっている。それは大量のゴーレムを破壊されて呆然としているエルフたちも同じだ。
「こんにゃろめ! まだ穴を開放するってのかアザゼル!」
「せっかく
「ザマァwwww」
「あなたは仲間である
「全部の堕天使が赦されて天に戻れるのなら救うさ。だが今のやつらを出してもこの世界を滅ぼそうとするだけで、また封印されるオチしか待ってねぇんだよ!」
「次は四大天使に負けませんとも、えぇ」
「無理だな。あっち見てみろ! 余裕ぶっこいてるぞ!」
破壊と再生を繰り返す空間の中で、エルフ種の
「そろそろ終盤か。ところでウリエルの方は大丈夫か?」
紅茶を飲みながら王妃が問うとカーリーは「自分の千里眼で見ればよろしい」と態度が冷たい。
「なんだ? 当たりが強いなガブリエル」
「ウザエル様を見殺しにしようとする熾天使など」
「見殺しではないと言っている。これはウザエルが神に赦されるための贖罪なのだと何度言えばいい?」
「神にではなくあなたに赦される、でしょう?」
「……なに?」
「神の愛は無限です。神はウザエル様はもとよりアザゼルですら赦されていることでしょう」
王妃とカーリーが睨み合うと、ドゥルガーが大きな体をくねくね動かして仲裁に入る。
「もう、だめですよ喧嘩なんてしたら。外の世界はウリエルちゃんが守っているので大丈夫ですよー。ほら、二人とも睨まない睨まない」
だが、二人の剣呑な空気は変わらない。
「そもそもガブリエルはウザエルにのめり込み過ぎなのではないか?」
「は? ミカエルこそなんですか。かつての恩師であり始まりの熾天使であられるウザエル様を見下すなど」
「堕天した天使だぞ。神に背いた裏切り者だということを忘れたか」
「そのわりにはルイード様を王城に呼ぶとすぐイチャつこうとされてますよね」
「き、貴様、そういうところで千里眼を使うのはよくないぞ!」
王妃とカーリーのやり取りを見てドゥルガーは「ふふふ、仲良しですねー」と微笑んでいる。
熾天使たちの様子を見て、ウザエルとアザゼルは殴り合う手を止めた。
「ふう。馬鹿らしくなってきました。ここであなたと殴り合っても無駄ですな」
「そうだろーよ。穴は開放できないし俺を殺すことも出来ないなら、そりゃ全部無駄だバーカバーカ」
「……それに、私達が共倒れになることを望んでいる者が見ているようですからねぇ」
「んあ?」
「くっくっくっ。神気を広げてもその連中は姿を隠しますからわかりませんよ。堕天した闇の力を広げないと」
「……」
「神の赦しを請うために堕天使の力を封じている貴方にはできませんよねぇ? いいでしょう、お教えしますとも」
アザゼルはどこからともなく仮面を取り出して目元を隠し「仮面の魔法使いアラハ・ウィ」の姿に戻ると、固唾をのんでこちらを見ている冒険者たちの方を指差した。
「胸糞悪い
「!」
ルイードは瞳を黄金色に輝かせて冒険者たちを睨みつける。だが光るその目では隠れている者たちを見抜けない。それはアラハ・ウィの話を聞いていた王妃達も同じだった。
「まさか神が作り給うた
アラハ・ウィは指先をクイッとするだけで冒険者の一人を浮き上がらせた。
「ひっ!? な、なんだこれ!」
「演技もお上手ですねぇ。どうやってダドエルの穴より深い奈落の底から出てこられたのかお伺いしてもよろしいですか? 私の仲間たちを助けるヒントになりそうですし」
「なななな、なんの話かわからねぇ!」
「では質問を変えましょう。なにを企んでここにいるのですかね? 貴様たち【悪魔】が」
アラハ・ウィの言葉に反応したのか、その冒険者は背中から黒く光る翼を生やした。
堕天使は天使が堕落して闇に落ちた者だが、悪魔はそうではない。光ある所には影ができるように、神が天使を生み出したその時から存在する天使の対極にある存在だ。
「私達
アラハ・ウィに追求された悪魔は不敵な笑みを浮かべると霧散してしまった。
「むむ? ルイードさん、追跡できますかね?」
「無理だな……。てかマジで悪魔かよ」
「どうやらこんなことをしている場合ではなさそうですねぇ」
アラハ・ウィとルイードは、ここにきて世界に迫る危機を感じた。
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