第204話 アルダムのライバルはウザいオラオラ系?

 連高リーグのは、本戦同様に三人一組のチームで行われる。


 まずは制限時間三分以内で乱戦が行われ、八チーム残るまで短く繰り返される。この乱戦でチームの一人でも欠けたら敗退判定されるので、攻撃ばかりか防御にも気を配らなければならないし、敵の弱いところを攻撃する観察力も重要となる。


 この乱戦前は

「口裏合わせて強いやつを集中攻撃して落とそう」

「ひっそり人の影に隠れてやり過ごそう」

 などと、計略を張り巡らせる生徒や

「どんな強ぇやつがいるのかオラわくわくすっぞ」

「ふふふ、この私に勝てるような人がいるとは思えませんがねぇ」

 などと自信満々な生徒もいたが、大方の予想通り「チームワークの優れたチーム」が生き残る結果になった。


 そのチームワークの優れた八チームのうちの一つがアルダム、シーマ、シルビスの三人だった。


 トーナメント戦準備の空き時間。三人は固まってダラダラと話しをしている。他所のチームも同じような感じでトーナメント会場のあちこちに散っている。


「まったく誰だよ、俺たちのチーム名を『シルビスと愉快な仲間たち』にしたの」


 アルダムがボードに並ぶチーム名を見て呆れたように言う。


「シルビスしかいないだろ」


 シーマが言うとシルビスは「えへへ」と照れたように頭をかいた。まるで褒められた時のような反応に、シーマは呆れ返って責め立てる気になれなかった。


「選抜されてリーグに出るだけで金一封。さらに連高リーグで優勝したら連合国通貨で白金貨(1000万円相当)!」


 シルビスが瞳を金貨のように輝かせる。


「おいおい、ガチでやんの?」


 アルダムからすると連高リーグは「子どものための競技大会」だ。生徒で潜り込んだままルイードに放置されてはいるが、とっくに大人でしかも熟練した冒険者であるアルダムからすると、そういうリーグに出ること自体が「大人げない」と感じるのだ。


「本気でやらないと、あんたのケツにこのツノをぶっ刺して校庭走り回るわよ」


 シルビスがフンスフンスと頭の角をアルダムに向ける中、シーマは褐色の綺麗な顔を曇らせた。


「シルビス。私が本気を出したら死人が出るんだが」


 シーマは間者スパイであり、素手で瞬時に相手を殺す方法を身につけている。本気で戦うというのは彼女にとって「相手を必ず殺す」ということに他ならないのだ。


「だめー! 殺したら失格だから! シーマが本気出すのはガラバ相手の時だけでいいの! わかった?」

「ななななんの本気かな? よ、夜の方は至って普通の……」

「友達の生々しいのは聞きたくない!」

「友達?」

「え、私達、友達じゃないの?」

「い、いや……。と、友達だな」


 シーマは「友達」という単語におもばゆくなって顔を背けた。


 アバンという稀人の仲間になった時から、シルビスとシーマは見知った間柄になり、紆余曲折あって今に至るが「友達」と面と向かって言われたことはなかった。


「ガラバのアホがシーマとの結婚渋ったりしたら、私があいつの目ン玉にツノを突き入れるから! みんなでシーマの結婚資金を稼ぐわよ!」


 ぐっとシーマの手を握るシルビスの瞳は本気だ。その時、焼却炉周りで用務員の仕事をしていたガラバがブルルと震えたのは気のせいだろう。


「おいおい……シーマ、姉御。あれ見ろよ」


 アルダムが観覧席を指差す。


 そこには参戦しない生徒や教師がわんさかいるのだが、その中で一際目を引いているのは、なんとビランとイノリイだった。


「あんにゃろ、あんなにイチャイチャと……」


 アルダムがイラっとした顔をすると、その横でシーマが憤慨した。


「けしからんなビランめ! あの手、イノリイ先生の腰に回すふりして尻を触っているのは間違いない角度だ! ああ! 彼女の方もまんざらではないのか? なんと破廉恥な!!」


 プンプン怒っているシーマに対して、アルダムとシルビスがジト目になっているのは当然だろう。シーマは自分とガラバが「喫茶店で乳首当てゲームをする」くらい公然わいせつカップルであることに気が付いていないのだ。


「ガラバはもう手遅れとして、ビランまでイチャコラカップルになるなんて……。俺はあんなにはならないぜ! あえて言おう、愛などいらぬと!!」


 三人衆の中で一番女好きであるアルダムは、確かにガラバやビランのように女性に傾倒して盲目になるような雰囲気はない。だが、シルビスはヘラッと言った。


「こういう普段『ぼく遊んでるから女のことなんか全部わかってまーす』みたいな男ってさぁ、本気で惚れたりすると、面倒くさいストーカーになったりするんだよねー」




 □□□□□




 選抜試合トーナメント戦。


 八組のチームが戦うわけだが「シルビスと愉快な仲間たち」の相手は、なんと生徒会だった。


 レッドヘルム学院の生徒会役員は、タイプの違う美女ばかりで構成され、中等部・高等部のヒエラルキーの頂点に君臨している。


 女性たちはこれまで「エルフの国の王太子ディーゴの正妻の座」を(勝手に)巡って生徒会内だけで争っていたが、ディーゴがゴーレム少女に流れてしまって生徒会活動にも顔を出さなくなってしまったので、傷心のままこの場に出ているようだ。


 エマイオニー会長、ナタリー副会長、アンハサ会計が「生徒会Aチーム」で、ミラージョ風紀委員長とアンジェリーナ庶務と見知らぬ男子生徒が「生徒会Bチーム」と書いてある。今回シルビス達があたるのはBチームのほうだった。


「んー? 生徒会じゃないあの男子は誰だ?」


 アルダムは生徒会役員よりその男子生徒に注目したようだ。


「あいつはジョスター先生の息子でジョゼというやつだ。武芸に秀でていたおかげで生徒会メンバーの尻を眺められるポジションに入れたらしい」


 シーマの口ぶりからしてあまり好意的ではないとわかる。


「あいつはビランの秘技を見様見真似で体得したと吹いている。いけ好かない男だ」

「なるほど」


 シーマは冷酷に見えて心内は情熱的な女だ。仲間を小馬鹿にされるのは我慢ならないらしい。


「なら俺がいっちょ揉んでやるとすっか。姉御とシーマは生徒会のお嬢ちゃんたちを頼むわ」


 アルダムはコキコキと首を鳴らして前に出る。


「天下無双のサ・ウザー鳳凰拳でボッコボコにしてやんよ」

「あんたがアルダムか。噂は聞いてるけど―――背ぇ低いなぁ?www」


 アルダムはカチンときたが、ジョゼの表情を見るに『わざと俺を怒らせて冷静な思考を奪う作戦か』と読み解いた。


『こういう手合いは口先だけで世の中を渡ってきたような奴だ。本気を出すまでもないね』


 戦闘開始のゴングが鳴る。


 アルダムはすぐさまジョゼを拳の射程距離内に捕らえ、横っ面を拳でぶん殴った。


 だが、まるでスライムを叩いたかのような感触に包まれて、拳はジョゼに当たらなかった。


 アルダムはこの現象に心当たりがある。ビランが使っていたよくわからない魔力放出技だ。


 体の表面に魔力をまとい、神経や筋骨を魔力で底上げするというその技は、真似しようにも魔力が拡散してしまって無理だった。


「なるほど、ビランの技をほんとに盗んでたのか」

「俺は天才だからッ!」


 ジョゼは不自然なポーズでバゥンと跳び上がった。その跳躍力は普通の人間の常識を超えている。


「オラオラオラオラオラオラオラ!」


 ジョゼはアルダムの頭上から魔力の塊を連打した。それは紛うことなく無属性魔力攻撃オーラシューターそのもので、当たれば致命傷は免れない。


「でかい口をきくじゃないか、小僧!」


 アルダムは目に見えないその攻撃から逃れるために大きく後ろに下がり、制服の上着を脱いでタンクトップ姿になった。

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