第191話 ウザ教師ビランは体育館裏に行く
俺の名はビラン。
目玉焼きは両面焼いて端っこが焦げているくらいのほうが好きな男。
『連合国大統領杯:全国高等学校競技大会(略称:連高リーグ)』
名が示すとおり高等学校競技大会なので、本戦は高等部生徒によるリーグ戦だ。つまりその前後にある「最強教職員決定戦」とか「最強用務員決定戦」はオマケ……なんだがなぁ。
教職員戦の方は勝敗によって翌年の入学者数に影響が出るので、どこの学校も本気で挑んでくる。そのためにわざわざ冒険者や戦闘士を臨時教員として採用して送り込んでくるというのだから「教職員」とは何かと問いたい。
なんにしても相手は戦いのプロである可能性が高い。と、なると……。俺がプロ相手に無様な姿を晒したら、ルイードの親分から何を言われるかわからない。
そう考えたら自主練くらいはしておかないとヤバいと思い立つ。俺はガラバやアルダムと違って先が読める男だからな。
勿論自主練なんてめんどくさいのでやりたくはない。しかし、さらに
ちなみに俺の自主練は普通だ。
軽く高等部運動場の外周を走り込み、本校舎を一階から屋上まで何往復かするくらいで―――
「普通じゃないから呼び出したのです」
副学院長室でシャクティさんが蛇の目で俺を睨んでくる。この人の目で睨まれると、今にも捕食されそうな生命の危機を感じて脂汗が滲み出てくるんだが。
「走り込み? 騎馬クラブから無断で
「……大袈裟です」
冒険者たるもの、必需品をザックに入れて武具を身につけるとそれくらいの重さにはなる。それで走れなかったら三等級とは言えないだろう。
「校舎の上り下り? あなたが外壁を指の力だけで這い上がったり這い下りたりしているのを見た女生徒から、ビラン先生が女子更衣室を覗いていたという訴えが」
「……濡れ衣です」
冒険者たるもの、どんな崖でも登り降りできないと行き止まりに追い込まれたら終わってしまうじゃないか。ちなみに女子更衣室だと知らずに外壁を這っていたので故意によるものではない。
「変な訓練は自重してください。今度やったらルイード様に言いつけますよ」
自重もなにも、ルイードの親分ならもっとすごい次元で訓練すると思うんだが。
思えば俺たちルイード一味は誰一人鍛えてもらっていないな。あれだけいろんな連中に超常の力を与えている親分が、一番身近にいる俺たちを鍛えない理由はわからない。
「―――以上です」
三十分に渡る説教から開放された俺は「人目につかなければいいんだろ」と思い立ち、体育館裏に移動することにした。そこは大きな建物の裏側なのに日当たりが良くて、適度に広いし、人も来ないし人目にもつかない最高の昼寝スポットとして活用させてもらっている。
だが、今日は運悪く先客がいた。
制服を着崩して街のチンピラみたいな風体をしている男子生徒が、あろうことか保健室のイノリイ先生を押し倒して上着を脱がせている最中だった。
「!?」
涙を流しながらカタカタと歯を鳴らして震えているイノリイ先生を見た俺がキレないはずがない。
「てめぇの皿は何色だァァァ!!」
「え、ちょ、まって!? 何言ってんのこの先生!?」
こんな光景を見せられても黙って見逃すほど俺の正義感は死んでいない。膝の皿をくり抜いて二度と歩けないようにしてやる。
「だ、駄目ですビラン先生!!」
イノリイ先生が悲鳴のような声を上げた。
「違うんですビラン先生! この子は私を助けてくれたんです!」
「は?」
慌てながらイノリイ先生が説明を始める。
それによると、イノリイ先生の上着の中に虫が入り込み、それを見たこの男子生徒はパニクる先生から上着を脱がし、虫を追い払おうとしていたそうだ。
「私、虫が苦手で」
涙を拭い、はにかみながらイノリイ先生が言うと、生徒はムカデのような羽蟲をぶら下げて見せてきた。
「イノリイ先生が暴れるもんだから取り押さえて脱がしてたんだよ。この虫に刺されると腫れるから」
これは俺が早とちりしたらしい。危なくこの生徒の両膝の皿の色を確かめるところだった。
「ジョゼ君よかったですね」
「え?」
「ふふん♪ ビラン先生はお強いので、私が止めなければあなたは下手をしたら死んでいるところでしたわ」
イノリイ先生は自慢気だ。
「簡単に生徒を殺そうとすんなよ……」
ド正論だな少年。
「そうそう! ビラン先生は我が校代表として最強先生大会に出るんですよ」
急にバカっぽい大会になったが最強教職員決定戦な。いや……あんまりバカっぽさは変わらないか。
「へぇ」
ジョゼと呼ばれた生徒はジト目で俺を見る。嫌な目で見てくるなこいつ。なんかむかつくから、やっぱ皿を抜くか。
「ちちちちちょ! ちょい! なんすかその殺気は! 教師の目つきじゃないでしょ! 殺し屋かっての!」
「殺し屋? 俺は臨時採用の教員で、本業は冒険者だ」
「ああ、どーりで」
生徒はなにか納得したようだ。
「あ、俺は二年B組のジョゼっす。ジョスター先生の息子って言えばわかります?」
「……」
あの筋肉教師……息子がいたのか。熱い視線送ってくるからそっち系かと思っていたが勘違いだったようだ。
「ビラン先生、明日の大会は応援に行きますね!」
ほわほわした声で言うイノリイ先生に癒やされそうになったが、俺は技の鍛錬をするためにここに来た。彼女が言うように、明日が試合日なのだから猶予はない。
「ここで鍛錬するから場所を空けて欲しい」
「はーい」
「ういーっす」
二人は端に避けて仲良く座り、期待の眼差しで俺を見ている。
「……?」
「「どうぞ」」
どうぞ、じゃない。
秘伝の技を披露するわけには……いや、こいつらに見られてもわかりゃしないか。
なんせ、ただの魔力をぶつけるより「地水火風」などの属性を含んだ魔法呪文を使ったほうが断然効果がいい。そんなことは幼等部でも知っている常識だからな。
だが、恥ずかしながら代々うちの家系は「魔力は高いが呪文構築がクソ下手な脳筋」なので、呪文がまともに発露しない。その欠点を補うために編み出された技が
しかしこの技はバカにしたものではない。なんといってもご先祖様はこの技一つで連合国体制から独立して「ビー大公国」を建国したのだから。
ちなみにこの技は魔力の塊を相手にぶつけるだけではなく、身体強化系の魔法に近いこともできる。それに魔力を呪文に変換していないので「詠唱不要」「魔力消費が少ない」「魔法障壁や魔法封じの影響を受けない」などのメリットもある。
―――まぁ、言うは易しというやつで、やってみたら難しい。ちなみに一族で免許皆伝になったのは当代で俺だけだ。
「見ていてもいいけど、邪魔しないでくださいよ」
イノリイ先生に釘を差しつつ、俺は魔力を放出する。
この時、宙に魔力が拡散しないように体表に留めなければならないのだが、これがまた難しい。この俺でも子供の頃からやり続けて七年かかった。
次は体にまとわせた魔力で自分の筋肉や神経を強化していく。
これができれば五感が爆上がりし、身体強化魔法に負けない能力を得られる。ちなみにこの状態を約三分以上維持すると、神経や筋肉が限界を超えてしまい三日三晩動けなくなるので注意が必要なので、まさに『切り札』だ。
「へええええ」
ジョゼが感心したような声を出すと、立ち上がって魔力を放出し始めた。
「!?」
嘘だろこいつ……魔力を拡散せずに留めやがった!
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