第189話 ウザ教師ビランは他の教師と闘う
俺の名はビラン。
トイレに行くときは全裸になりたい男。
『連合国大統領杯:全国高等学校競技大会(略称:連高リーグ)』の枠外リーグでもある「最強教職員決定戦」に、どの教職員を出場させるかでレッドヘルム学院高等部の職員会議は紛糾し、結局
ちなみに俺はこの
これは「この俺が負けるわけないだろ」的なことを思っているのではなく「負けたら出場しなくてすむ」と思ったからだ。
俺は面倒が嫌いだ。自慢じゃないがイケメン三人衆で一番のめんどくさがりだ。だから、リーグには出場したくない。
ちなみに。
俺は面倒だから王子の立場を投げ出したと言っても過言ではない。
もちろん肉親から殺されそうになった事実や、それに巻き込まれた俺のメイドが目の前で自害したこと、残されたメイドの家族が追放の憂き目にあったこと……それらの理由で家を捨てたんだが、こういう結果に至った自分の立場すべてが「めんどくさい」と思ったのだ。
本当はこの選抜も面倒だと思っているが、リーグ戦という大いなる面倒を回避するためなら、この程度の小さな面倒は受ける所存だ。
最強教職員決定戦の選手選抜は、高等部の運動場で他の職員たちに囲まれたなんともぬるい雰囲気で始まった。
本校舎からは生徒たちがわんさか顔を出して事の成り行きを見守っているが、ここから見ると雨季の枕木に生えているキノコみたいだな……。
「ぼーっとしてないで始めますよビラン先生」
シャクティさんに軽く活を入れられる。
「それではビラン先生、アンメデン先生、ジョスター先生、ダイゴーイン先生、よろしくおねがいします。
よく見たらダイゴーインとかいうの、
よく見るとジョスターという「いかにも貴族の坊っちゃん」風の男も妙なポーズをつけてこっちを睨んでいるし、ヒス女のアンメデンは「睨みますがなにか?」みたいに当然睨みつけてくる。
なんだよ、全員敵かよ。
「めんどくさいので一斉に戦う感じでやってもらっていいですか」
俺が舐めプすると、三人の選手候補からは怒りの波動を感じた。そんな短気でよく教職員をやっていられるな。
ちなみに冒険者たるもの冷静さを欠いたら負けだ。俺はイケメン三人衆の中で一番冷静なので「クールなビラン」と呼ばれているわけだがな!
「いえ。実力を見るために一対一の決闘方式でお願いします」
この場を仕切っているシャクティさんの言うことは絶対だ。
アンメデンが「わかりました」と承諾すると、ダイゴーインとジョスターも首肯した。俺も承諾せざるを得ない流れだ。
「では最初は僕がビラン先生と」
ジョスター坊っちゃんが前に出てきて俺を名指しする。
このお坊ちゃん、ただの教職員とは思えない筋肉をまとっているな。もしかして連合国にも支店ができた「アモスフィットネスジム」に通っているクチだろうか。
「コォォォ」
変な呼吸を始めたジョスターは恐れもなく間合いを詰めてきたが、俺は普通に彼の顎先を横から打ち抜いた。
「な、なにをす……」
「言わせねぇよ」
もう一発逆サイドから同じ部位を殴ると、ジョスターは白目を剥いて昏倒した。
今のは殴った顎先が力点、首が支点、頭が作用点になって脳震盪を起こした……はずだ。こういうのは冒険者になるときの職業訓練でクラスマスターから習うんだが、話半分にしか聞いていなかったのでもう忘れている。
次にダイゴーインが俺の前に立つ。三メートルはあるはずなのに、どうして職員室でそんなに気にならなかったのだろうか。
「よ……よろしくおねがい……しますわ」
女かよ! てかなにその小鳥がさえずるような癒やしボイスは! 度肝抜かれて呆然としてしまったぞ!?
できるだけ体を小さく見せようとしてすげぇ猫背だし! もしかして職員室でも目立たないように存在感を消してた!? てか見た目は小心者な乙女っぷりなのに、男気あふれる眉毛はどうにかならないのか!?
「い……いきます」
でかい図体に似合わない内股のなよなよパンチが飛んできた。
ここで俺は「こいつにわざと負けてやろう」と思い立っ―――
「モルスァ!」
突然パンチが早くなって空気圧が先に来た!
慌てて回避して振り返ると、ダイゴーインの拳は校庭の固い土をえぐっている。あんなので殴られたら致命傷だぞ!?
「い……いたい」
ダイゴーインは膝を落として涙目になっている。見た目と言動が一致しないやつだな……。
よく見たら腕毛も指毛も一本たりとも生えていないスキンケアされた手が赤くなっている。あ、教職員でも派手じゃない薄ピンク色のネイルもしているじゃないか。てか、そこに気を使うのなら、どうして鹿の角みたいな眉毛は手入れしないのか……。
「見せて」
「え」
俺は巨大な彼女の手を取る。
「副学院長、ダイゴーイン先生の治療を」
「わかりました」
シャクティさんは魔法でアッと言う間にこの巨神兵の手を治癒した。俺としては「医務室に連れて行け」という意味で言ったんだが、まさか治癒魔法を使えるとは。
「ジョスター先生とダイゴーイン先生は敗退ということで」
「……」
シャクティさんに言われて退いた二人の教員は、なぜか俺に熱い眼差しを送っている気がするが、決してそちらを見ないようにして最後に残ったアンメデンと対峙する。
彼女はすごい形相で俺を睨んでくるな。ほんと、この女に何をしたんだ俺は。
「あなたは私のことなんて覚えていないでしょうね!」
俺は今までに抱いた女の顔を思い出して並べてみたが、こんなヒステリックな女性とアハ体験した覚えはない。
「あなたたちのデビューシングルは大量買いして握手会にも行きましたし、デビューダンジョンライブも最前列で見ていました」
俺は全身から血の気が引いていくのを実感した。
まさかアンメデン先生は、俺達がアイドル冒険者していた頃の……ファン!?
「なんの告知もなく突然解散とかありえません。運営に何度抗議の手紙を送ったことか! やっとあなたのことを諦めて別のアイドルに気が向いたというのに、あなたは私と同じ職場にやってきました。正直運命かと思いました。私はずっとあなた推しで推し変も推しマシもせず同担拒否を貫いていたんですよ!!」
まったく理解できない単語が彼女の口から呪詛のように漏れてくる。
「それなのに、あなたは私のことを全然覚えてくれてませんでしたね!!」
この学院にいる女生徒でもこんなに思い込みの激しいタイプはなかなかいないんじゃないだろうか。というか、それ以前に教職員としてこの性格はどうなのか。
俺は思わずシャクティさんをジト目で見てしまったが、この蛇女、そっぽ向きやがった。
「それでアタマにきて他のアイドル冒険者のグッズを買い漁っていたら、借金が膨らんだのでどうしてもリーグに出て金一封が欲しいんです!」
「俺は全然関係ない話だった」
イラッとしたので俺はアンメデンの首筋に手刀を入れて気絶させた。
しまった。全員に勝ってしまった。
「全然実力を見ることが出来ませんでしたね」
シャクティさんは残念そうに言い、しゅるしゅると蛇の下半身をうねらせながら前に出てくる。
「我が校の教職員代表となるわけですが、ちゃんと実力は測っておきたいと思いますので、私とお手合わせ願います。ルイード様の配下なら、随分と鍛えられていることでしょう。楽しみです」
「副学院長が出ればいいんじゃないですかね?」
「怪我したら業務に支障をきたしますし」
「治癒魔法が使えますよね?」
「ではいきますよ」
質疑応答を一方的に打ち切ったシャクティさんは、キレイな黒目を蛇のような縦型に変えた。完全に戦う気満々のようだ。
ちなみに冒険者ギルドの受付嬢は全員美人だが、同時に戦闘のプロでもある。そうじゃないと荒くれ者の冒険者達と対等に話ができないからな。
そしてシャクティさんの本業でもある「受付統括」はそんな受付嬢の頂点であり、ギルドマスター代行とも呼ばれている実質的なトップだ。その戦闘力は稀人以上で、魔王を討伐したとされている「救国の勇者たち」ですら頭が上がらないらしい。
つまり―――俺、死ぬのかな?
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