第174話 ウザ生徒会とウザ人探しとウザスパイ
「あんたらが知ってるかどうか怪しいけど、学院内で行方不明者が出てる話は聞いてる?」
「え? いや、なにも……」
「だろうねぇ。教職員には箝口令が敷かれているっぽい。学院内でそんな事件が起きてるなんて世間に知られたら大問題だからね。だから誰も行方不明者を探していない」
「本当に行方不明者が? 詳しい話を頼む」
エマイオニー会長に促され、アルダムは知っている限りの情報を提示した。
―――例の公開処刑騒ぎが起きたその日のうちに、庶民クラスのシルビスと用務員のガラバが行方不明になった。
二人とも寮や宿舎生活なので学院外に出ることはないし、門番の衛兵たちが付けている出入記録を見ても二人の名前はなかった。
二人が確実に学院内で姿を消したと睨んだアルダムは、シーマやビランと共にシルビスとガラバの行方を探した。すると、二人以外にも行方不明になっている者たちがいると分かった。
上流クラスのジョージ・ベラトリクス。そして中途試験で落第した受験者三人。この四名も学院から出ることなく行方不明になっている。
「これは連続失踪事件だよな? 間違いなく学院内で人が消えているってのに副学院長は全然取り合ってくれなくてさ。調べるのに協力してくんない?」
「……副学院長が取り合わない?」
「うん。ここだけの話、俺は副学院長が怪しいと睨んでる」
アルダムのどストレートな言葉に、生徒会役員たちはもちろん、ディーゴもハッとした。
中途入試で暴れた三人と公開処刑の主犯ジョージは、どちらも副学院長のシャクティが連行していった。それは生徒会の全員が見ているし、後者はほとんどの生徒の前で行われたことだ。
「連行した張本人の副学院長に聞いても、知らぬ存ぜぬなんだよね。そりゃ怪しいって思うでしょ?」
アルダムは畳み掛けるように話を続けた。
「ちなみにシルビスは消える前に『この学院内にはなにか秘密がある』的なことを言ってた。もしかすると用務員のガラバと一緒にその秘密とやらを探してたんじゃないかと思ってる。そして学院の秘密に辿り着いたかなにかで、ここの最高権力者の副学院長の手に……」
「最高権力者は学院長なんだが」
「そんなやつ、誰も見たことないだろ」
「そ、それは、うむ……」
「実質副学院長のシャクティがここの実権者だ。そんな彼女があからさまに怪しいんだぜ?」
「……今のはすべて君の推測だろう?」
エマイオニー会長は憮然として言う。
「
「そんな偏見はないけどね。俺からすると蛇でも竜でもミミズ千匹でも、女ってだけで愛しいぜ」
「……」
アルダムはイケメン三人衆の中でも一番の女好きだ。
自分の童顔が「警戒心なく女性の懐に入り込む」のに適していると熟知してアルダムは、邪心がない(ように見える)微笑でショタ傾向にある女性たちをコロっと籠絡するのが得意なのだ。
「君の好む女性観と副学院長への評価は別だろう」
「事実を言ってるんだぜ? もしこの失踪事件に犯人がいるのなら、副学院長が一番怪しいだろ」
「……悪いが生徒会は探偵ごっこをするつもりはない」
会長は自分たちの立場を優先した。今、副学院長に楯突いて更に信用を失することは彼女たちにとって不利益でしかないからだ。
「行方不明者の探索は街の冒険者ギルドでやってくれたまえ。と言っても簡単に学院内に冒険者を入れることはないが」
「あのさぁ会長。副学院長はその冒険者ギルドの受付統括役を兼業してるって知ってる?」
「もちろんだ」
「じゃあ聞くけど、容疑者が牛耳ってるギルドに安心して依頼できると思う? 思わないよねぇ」
「それは……。だがなんにしても生徒会は関与しないぞ」
「だったら僕が」
ディーゴは軽く手を上げた。
「厳密に言えば僕は生徒会役員じゃありませんから」
「えー!?」
生徒会役員たちが驚きの声を上げ、続けて会長に非難の視線を向ける。
「保身のために生徒の問題を切り捨てるなんて最低ですよ会長」
「ディーゴさんは役員でもないのに協力すると言っていますのに!」
「……貴様ら、手のひらくるくるが激しいな!!」
女子の喧騒を他所にアルダムは顎先に手を当てて「んー」と顔をしかめた。その視線の先にはディーゴしかいない。
アルダムとしてはこのエルフ男子が何の役に立つんだろうと懐疑的なのだ。残念なことにディーゴがルイード相手にエルフの国の超兵器で闘ったシーンは、気絶していたので見ていないのだ。
「まぁ、いないよりマシか」
にへらと笑うアルダムの童顔を見つめてディーゴは内心で「ウザ……」と思ったが、それを表に出さないようにする腹芸くらい、王族として生まれ育ったので手慣れたものだ。
「そうだね。いないよりはマシだと思ってもらえる働きをするよ」
アルダムとディーゴは軽く握手した。
すっかり蚊帳の外に置かれてしまった生徒会役員女子たちは、さらにしょぼーんと肩を落とした。
□□□□□
ディーゴはアルダムと共に、学院内をくまなく探し回っている。
だが、広大な敷地にいくつも校舎があり、空き教室も無数に存在しているこのレッドヘルム学院で、人探しはかなり難易度が高い。
「ビラン先生とシーマさんも人探しを手伝ってるって?」
探し疲れて休憩に座ったベンチで、ディーゴはアルダムに話しかけた。
ビランは前髪が長い「ちなみに先生」として、シーマは庶民クラスにいる「褐色の美女」として、どちらも高等部では有名な存在なのだ。
「ああ。実はどっちも俺の仲間なんだよ」
「冒険者の?」
「そうそう。俺たちはここの副学院長の依頼で来たんだけどさー、その依頼主が一番怪しいってどういうこったよ!」
「どんな依頼なのか聞いていいかな?」
「ん? ここの揉め事を解決しろっていう抽象的な依頼さ。最初は庶民と貴族にわかれてる生徒の揉め事の仲裁程度だと思ってたんだけど、なんか雲行きが怪しいよなぁ。実際ガラバとシルビスの姉御がいなくなるってのがなぁ」
「まさか誰かに殺されたり……」
「ははは、そりゃないな」
アルダムはビランからもらった黄色いタオルで首元の汗を拭う。朝から歩き続けて疲れているのは間違いないが、それは太陽が強すぎるせいでもある。連合国の季節は夏なのだ。
「シルビスの姉御が殺されるような目にあってれば、今頃俺たちはこの世に存在してねぇなー。連合国ごと消滅してるわぁ」
「どういうことだい?」
「あんたもこの前やりあって知ってると思うけど、俺たちのリーダーはルイードさんだ」
「……」
「シルビスの姉御はその一番弟子っていうか第一の子分っていうか。まぁ、なんだかんだで気に入られてるんだ。そんな娘がなにかされたら、ルイードさんがブチギレて無茶苦茶しちまう。それがないってことは無事ってこった」
「た、たしかにあの先生は強かったが……国の兵士ともなれば、もっと強いのがいるんだろう?」
「え」
「え?」
「いや、あれ以上に強いって、ありえなくない?」
「そ、そうなのか?」
ディーゴは認識を改めた。もしかしなくてもルイードの強さが異常なのだ、と。
「けど、姉御もガラバも早く見つけないと、いつルイードさんが暴走するかわからない。頑張ろうぜディーゴ」
「う、うん。そんなに怖いのか」
「怖いなんて簡単な言葉じゃ伝わらないね! 感情じゃなくて魂の根源から必死に許しを請うレベルで怖いからな! こんな感じで謝罪しとけば許してくれるだろうとか、そういう甘っちょろい考えでいると、細胞の一つ一つが沸騰してもがき苦しみながら死ぬ自分の姿が脳裏に浮かぶんだよ。わりとリアルに」
「アルダムのとこのリーダーは幻術士なのか」
「言ってもわかんないだろうな!」
アルダムは説明するのをやめた。
「そういやぁ、学院に隠された超兵器(笑)を探しに行かないかって誘われてたなぁ……。怪しい地下室への入り口見つけたとかで」
「地下室? じゃあ探す場所は絞れるんじゃないのかな」
二人は顔を見合わせた。
□□□□□
「今のところ、あの冒険者たちはうまく動いています」
その女性教職員は口元に薄笑みを浮かべた。その企んだ感のある彼女の顔には暗い影が射し、ルイードにあざとく迫っていた色ボケには見えない。
彼女は学院の外れにある人目につかない場所で、何者かと連絡をとっていた。
どこの国でも普及していないその通信魔道具には華美な装飾が施され、到底一般人が手にできる代物ではないと分かる。
「―――はい、そうです。王国からやってきた冒険者は六人。名前はルイード、ガラバ、ビラン、アルダム、シルビス、シーマ。そのうちガラバとシルビスが先日行方不明になりました。残された冒険者たちと『例の御方』が捜索を行っているようです。推測ですが、ガラバとシルビスは『例のモノ』に接触してシャクティに消されたのではないかと。―――はい。引き続きそちらは調査いたします」
ここで一呼吸置いた女は
「ちなみにこの冒険者たちのリーダーであるルイードという男は姿を表したり隠したり……なにをしているのか見当がつきませんが、仕事をサボっているだけのゲスなただのチンピラ冒険者です」
と話し伝えた。
先日の公開処刑騒ぎで最初に場を収めたのはルイードだが、彼女はもちろん殆どの生徒はルイードがなにをやらかしたのか理解していない。
ディーゴが生体装甲をまとっても瞬きする間もなく解除させたし、巨大なゴーレムを出現させた時も指パッチンする間もなく異空間に吹き飛ばしたので、ルイードがやった超常行為は、見られていない。もし見ていたとしても常識ある者であればあるほど理解できるはずもなかった。
「―――はい、前は手駒にしようかと思っていましたが、今は髪の毛はボサボサで、どうしてあんなのを取り込もうとしていたのか自分でも分からず……。ところで『例の御方』の方ですが、本国の方の準備は? はい、了解いたしました。こちらもぬかりなく」
女は通信を終えた魔道具を懐に仕舞うと、周囲を気にしながら立ち去った。その足取りは土を踏む音一つ、服が擦れる音一つさせない。見る者が見ればそれは
「……」
女性教職員が立ち去った後、物陰に隠れて動向を伺っていたルイードは、下ろしたボサボサ髪を掻きながら苦笑していた。
「どうやら今回の依頼は連合国だけで済む話じゃなさそうだぜ」
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