第148話 強引な予定調和がウザい【セルジ、皇女レティーナ、アモスEND】
トライセラがダンジョン最下層のラスボス部屋で堕天使アルマロスが作るラーメンと戦って(?)いる頃、セルジも知らないうちに皇王争奪戦の勝敗は決していた。
結果:公爵子息の中に該当者なし
リュウガは冒険者アイラと結ばれ、ユーリアンはエチル(元)王女と結ばれた。唯一頑張っていたのはセルジだけで、彼はレティーナとの縁を結ぶべく、細く頼りない糸を手繰り寄せようと奮闘を続けていた。
だが、レティーナとはダンジョンや宿場町でもまったく出くわさなかった。何故か。それは単純に彼女がダンジョンに潜っていなかったからである。
セルジにとっては運が悪いことに、
これは「レティーナがダンジョンで危ない目に合わないように」という配慮もあっての仕掛けだろうが、結果的に公爵子息の魔の手からも救っていたと言えるだろう。
それに加えてルイードがすべてを放り出して王朝に行ってしまったせいで、【
セルジとレティーナの間には細い糸すら落ちていなかった。今後も二度と交わることはないだろう。
だがセルジはレティーナがダンジョンにいるものだと思い込んでいつまでもいつまでもダンジョンに挑み続け、結構後になって「レティーナ皇女結婚!」というニュースが飛び込んできても心折れることなく「皇王になれなかった僕はダンジョンで生きる人生なんだ」と言い出し、様々な二つ名を持つことになる。
・ダンジョン特化型一等級冒険者。
・増え続けるウザードリィ領のダンジョンをすべて踏破した男。
・ダンジョンブレイクスルー。
・糸目の冒険者。
加えて王朝公爵位を持つことから【ダンジョン貴族】とも呼ばれるツワモノとして名を馳せた。
□□□□□
「レティーナさん。僕と結婚しませんか?」
アモスフィットネスジム本店の一角でタオルを畳んでいたレティーナは、ひょいと現れたアモスにプロポーズされて困惑した。
何言ってんだという顔をするレティーナに対して、アモスは少し照れながら「結婚するべき理由」を早口で語り始めた。
「僕は貴族の子だし、レティーナさんは王朝の皇女。どちらも家督を守るために絶対結婚させられます」
「本当の僕やレティーナさんの事を理解できる人なんてこの世界にはいません。僕たちは見た目の性別と心の性別が違うのですから」
「だけど僕たち二人は理解者同士です。しかもですよ! 元いた世界が同じだから、この世界とは違う価値観を二人とも持ってるわけです」
「あと、僕は小柄で童顔だから、セーラー服とか着たら男嫌いのレティーナさんでもワンチャンありなんじゃないでしょうか?」
テレテレに照れまくりながら説得を試みるアモスに対して、レティーナは「ふむ……」と冷静に考えてみた。
「確かに私達の理解者は少ない」
「ですよね!」
「今の君は生物学上おち◯ちんホルダーだが、なぜか触れたくないと言うほど嫌いでもない」
「言い方……」
「それとセーラーよりブレザーがいい」
「あ、はい」
突然アモスはスンと真顔になったが「ここで素に戻ったら駄目だ」と頭を振り、レティーナを口説くためにまた言葉を紡いだ。
「そ、それに僕は御隠語ボインゴ先生のファンですし!」
レティーナは「ペンネームはまともにしておけばよかった」と後悔したが、アモスは止まらない。
「だってこの世界の人達は先生の偉業を知らないんですよ! 『高天原オティンティン館』のガマン
レティーナは「私はどうしてそんなものを書いてしまったんだろう」と彼方を見ながら二度目の後悔をしつつ、手をかざしてアモスのプレゼンを止めさせた。
「そんな必死になって私を口説く理由はなんだ? アモスはそんなに皇王になりたいのか?」
「いえ、それは全然なりたくないです」
アモスはまたスンとなって拒絶する。
「このままだとどこかの女の人と結婚させられて苦労するのが目に見えているので、どうせならわかり会える人としたいと思ったんです。立場とか考えてません」
「ふむ。しかし私と結婚したら自動的に王朝のトップだぞ」
「う、うーん」
「それに私は破壊神スサノオの生贄らしいから、幸せな結婚生活は望めない」
レティーナは皮肉っぽく苦笑した。自分がタイミング悪く三百年に一度の生贄だったとは知らなかったのだが、それが分かって虚無感に襲われているのだ。
「君と結ばれて帰国しても、子供を作ったら私は生贄として殺される。残された君は他国から来た貴重な稀人だし皇王になっているから、この国に戻されることもない。きっとすぐに別の女をあてがわれ、その後の人生は種馬のように腰を振り続けることになる。それでもいいのかな?」
「そうはならないと思います。だってルイードさんが行きましたから!」
嫌がる
ルイードはアモスやチルベアの師匠だ。
彼が本気を出せば破壊神だろうが東の大国だろうが、別次元の彼方に吹き飛ばしかねない。
「……一応、今の私を育んでくれた国だし、知り合いも多いから、国ごと滅ぼすとかやめて欲しいんだが」
「じゃ、ルイードさんを止めに行きましょう! あ、あれですよ! 結婚してくれなくても、王朝にジムの支店を作るとかなんとか理由つけて僕は絶対行きますからね!」
心根が女子高生のアモスは顔を真っ赤にしながらも、どうやってでもレティーナと結ばれようと必死に提案を続けている。その様子が可愛らしく思えてレティーナは目を細めた。
「確かに君とならワンチャンできそうだな」
「やることしか考えてないとこは、やっぱり中身は男ですよね!」
「失礼な。ほれ、今の私は女だぞ」
「おっぱいを持ち上げないでください!」
□□□□□
翌日、アモスはフィットネスジムのスタッフを集めた。
「王朝皇都支店を作ります」
一同から「おぉ……」という低い声が漏れる。
スタッフの大半は「アイラ武勇血盟」に所属していた元冒険者の「女」なのだが、このジムで鍛えすぎて性別不明な猛者ばかりになっている。
「支店長のアイラも王朝に嫁ぐことになったし、あっちの国に支店を出そうって……」
アモスが顔を赤くしながら報告していると、その屈強な女達から太い声のヤジが飛んできた。
「そうじゃないとおもいまーす」
「支店を出すのは口実だと思いまーす」
「レティーナ様と結婚するんですよね、アモスさん!」
二人の関係は一夜にしてバレバレになっていた。
「じ、実は、あの、レティーナさんと、その、契りを……きゃっ♡」
隣に立つレティーナは、アモスが内股でモジモジするのを呆れた眼差しで見ている。
「きゃっ、じゃない。今の君は男だぞ。もっと堂々としないか」
「だけどレティーナさんも男みたいに僕を押し倒して、あんなことやこんなことをしたじゃないですか!」
「……うむ。相手が男でも、中身が女だと思うと空想補完で頑張れるものなんだな」
「人気ラノベ作家先生が僕っ子JK相手に……事案です!」
「人聞きが悪い! それは前世の立場であって今は関係ないだろう!」
「けど、僕にブルマ履かせようとしたじゃないですか! てか、なんであんなの持ってるんですか。大体、僕の世代はブルマなんて履いたことないんですよ!?」
「そうでもしないと男と肌を合わせるなんて、想像しただけで吐き気がするじゃないか。まぁ、君の場合は案外なくてもいけたかもしれないが。なんせ私は女の歓びを知った人類初の男だからな」
「僕だって男の人の感覚を知っちゃった女ですよ!」
二人のあけっぴろげな会話を聞かされて、アモスフィットネムジムのスタッフたちは「幸せに爆散しろ」と羨望半分憎しみ半分の言葉を漏らした。
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