第87話 ウザエルけど、別に強くない?んだってさ
大天使ミカエル、ラファエル、ウリエル、ガブリエル。
神はこの四大天使に命じられた。
「あいつらやっちゃって」
神の威光に背いて人間と交わった挙げ句に人間に要らぬ知識を与えてエデンを汚した
「うっせぇばーか!! 俺たちのことは放っとけよ!」
「天使がそんな汚い言葉を使うとは! 恥を知れウザエル!」
大天使ミカエルがウザエルと剣を交えるだけで大地が割れて空が落ちた。
「しかも人間の女……イシュタールと言ったか!? そんな者に神の秘密の名を教えてしまうとは! その女は生きながらにして天に行き星座になってしまったではないか!」
「あぁ、それはちょっと反省してる」
「ちょっと!? 貴様との間に生まれた子供二人を捨てて天に行くような毒婦だぞ!!」
「子どもはかわいいぜ?」
「あんな身の丈千メートルを超える
ミカエルとウザエルの戦いは永遠に続くかと思われたが、ついにミカエルはウザエルを下し、他の裏切り天使たちと共に地獄に落とした。
アザゼルはさらに苦戦した。
いくつもの人間の文明が滅び、大陸が海に沈み、星々が砕け散る戦いが繰り広げられたが、ウリエルとラファエルの二人がかりで、ようやくアザゼルを倒し、地獄の奥底に続くダドエルの穴に閉じ込めた。
だが、アザゼルは穴の底に落ちず穴の途中で踏ん張りながら、何千、何万、何億という年月を耐えに耐えた。そしてついにエデンに舞い戻ってきたのだ。
アザゼルは自分を封じた大天使たちや愚かしい人間を寵愛する神に復讐するために、堕天使に成り果てたかつての仲間たちを地獄から救い出し、軍勢となって天に攻撃しようと誓った。
しかし、強い天使はなかなか地獄から出られない。強い者ほど強力に囚えるのが地獄の性質なのだ。
だからアザゼルはかつての仲間たちには劣るが、エデンに住む魔族や魔物を使役して「魔王」となった。まずは神の愛したこのエデンを破壊しようとしたのだ。
だがそんなアザゼルの前にかつての盟友、ウザエルが立ちふさがろうとは。
ミカエルに破れたウザエルは地獄で深く反省し、贖罪のためアザゼルの目論見を防ぐ役目を担ったのだ。
「まぁ、天使の力はほとんど封じられたままなんだけど、そりゃお前も同じだろ? 自分だけでは神と戦えないから魔物とか魔族を率いて魔王とか名乗っちゃったんだろ? なぁアザゼル」
「それでも私とあなたの力はこのエデンでは破格のものだと思いますけどねぇ」
そんな二人の思い出話を聞きながら、どうしたら良いのかわからなくなったラミエルは、すがるように仮面の魔法使いアラハ・ウィ……つまり、魔王になった堕天使アザゼルを見た。
「アザゼル様、ど、ど、どうしましょう!」
「落ち着きなさいラミエルさん」
アラハ・ウィは自分の背中から生えた黒い翼を消し去ると、いつものように唇の端だけ吊り上げたようにして笑った。
「まったく、自分だけ神にすがって良い子ちゃんになろうなどと、なんて浅ましいんでしょうかねぇ、ウザエル」
「おいおいテメェが言うか? まだ穴の中にほとんどの力を置いてきたままだろうがよ! いい加減人間に関わるなっての」
「あなたこそ、本来の力がまったくないじゃないですか。たかだかラミエルの光を霧散させたくらいでドヤ顔なんて。その程度の力で私を地獄に送り返せるとでも? 実際、肉体を原子分解させることは出来てもご覧の通り地獄に送り返すことは出来なかったじゃないですか」
「まぁ、それは俺の仕事じゃなかったんだよな」
ルイードは指を弾いた。そのパチンという小気味いい音と共に、ランザが立ち上がる。
「神が定めた通り、堕天使を退治するのは稀人の役目。力の大半を失った俺はその教育係ってだけだ」
「……では、どうして魔王だった私をあなたが原子分解したので?」
「いやー、ははは。まさかオメェがあんなに弱くなってるとは思ってなかったんだよ。まったくあれは焦ったね。俺が
ルイードはランザを傀儡のように操ってアザゼルを襲わせた。
神の息吹を吹き込まれて土塊から生まれたのが人間だが、その人間の中でも特に神の力を色濃く残しているのが、一握りの異世界人だった。
それらは神の力でこちらの世界に呼ばれ、「稀人」として堕天使を討つ。稀人とは神の代行者なのだ。
「いけ! ランザ! 百万ボルトだ!」
「ウザエル、いくら稀人でも電撃は出しませんよ。さあ、ボケっとしてないで戦うのですラミエルさん!」
「え……ええっ!? 私が!?」
「なんのために地獄から掬ってきたと思っているんでしょうかね。さぁ、稀人を打ち倒してウザエルもボコボコにするのです!」
「無茶でしょ!! 私とウザエルでは格が違いすぎでブヒュラアアアア!?」
泣き言を言うラミエルの横っ面にランザの拳がめり込む。
その一撃でクレメリーに憑依していたラミエルの魂が剥離し、悲鳴を上げながら地面に吸い込まれていく。
「あーあ。やはり魂だけ連れてきてもこの程度ですか。ちゃんと地獄の門を開けて嘗ての仲間たちを開放しないと、こんなのでは神に勝てませんねぇ」
仮面の魔法使いは大して残念そうでもない口調で言うと、実に不格好なファイティングポーズを取った。ボクシングのようにシュッシュッと拳を繰り出すが誰がどう見ても素人だ。
「さてウザエル……いえ、ルイード。スペイシー家の八男坊と私を戦わせますか? 受けて立ちますとも、えぇ!」
「こいつは確かに稀人だが、まだお前とやりあうには荷が重い」
「ほう? ではどうします?」
「こうする」
ルイードが指を弾くと、アラハ・ウィが現れた時と同じように空間が割れて、そこから人影が飛び出してきた。
戦士アヤカ。
義賊ユーカ。
聖女シホ。
魔術師ギルド総帥シュン。
かつてルイードと共に魔王討伐に向かい、何も出来ずに凱旋した「救国の勇者たち」は、瞳に燃えるような闘志を込めてアラハ・ウィを睨みつけた。
「やっと会えたね、魔王!」
【青の一角獣】
「前回はルイード師匠が一撃だったからなぁ。呼んでもらえてよかったぁ」
【見えない爪】血盟の血盟主にして、
「みなさん気をつけて! 仮面をかぶっている敵なんて三倍早いか変態のどちらかですから!」
サマトリア教会で教皇と同じ権限を持つ聖女シホは、そんなので殴られたら魔王でも痛いだろうなと思える巨大でトゲトゲしいモーニングスターを軽々と持ち上げた。
「あれからというもの、ルイード師匠に『何もしなかったことを黙っといて欲しかったら言うことを聞け』ってこき使われる毎日だったからな。見知らぬ孤児院の子どもを最強にしろとか、ほんと勘弁してほしかったぜ」
【魔術師ギルド】の総帥である稀代の魔道士シュンは、光り輝く炎をいくつも生み出してアラハ・ウィの周りを囲った。
「「「「ラスボス狩りだぁぁぁぁぁ!!」」」」
救国の勇者たちはかつて出来なかった魔王討伐をいよいよ果たそうとしていた。
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