第85話 女子会のウザ地雷回避は至難の業
「あ、正確にはこの女に憑依しているだけだけどね。どうする? 何も知らない純粋な修道女のこの女ごと私を殺す? ふふ、いいけどこの女が死んでも私の本体は死なないわ。また別の誰かに憑依するだけだもの」
クレメリー……いや、天使ラミエルは、魂が抜けたように座り込んでいるエランダを抱きかかえた。
「この女が私を喚び出してくれたおかげでこうして魂だけは呪縛から解き放たれて自由を謳歌しているんだけど、残念なことに本体は囚われたままなのよね。みなさん、聞いてくれるかしら?」
天使ラミエルはまるで舞台の上の女優のように、床に倒れる信者たちの上を歩きながら昔語りを初めた。
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「私達天使が罪深い人間のために奉仕するなどありえないと思いませんか?」
最初に行動を起こしたのは風の天使アザゼルだった。そのアザゼルの考えに同意した天使たちの中にラミエルもいた。
そして天使たちは神に直訴した。
「人間は他者を殺す」
「人間は怠惰だ」
「人間は堕落する」
「人間はすぐ人のせいにする」
「人間は自分のためなら人を見殺しにする」
「人間はエロい」
「だから人間はもう一度作り直すべきです」
そういった天使たちの訴えを聞いた神は、暫く考えたが
「じゃあさ、君らみんな、人間社会で百年くらい過ごしてみてよ。その間に堕落せず、誘惑に耐えられたら願いを聞いてもいいよ。あ、人間たちは純粋だから変な知恵を授けたりしないでね。彼らはエデンでのほほんとしているだけでいいんだよ」
と応じた。
「神様ってなんだか軽くない?」
「シッ、姉御、ここは黙って聞くところです!」
神に直訴した天使たちは、世界を監視する「
だが、降り立った天使たちはすぐエデンの快楽におぼれてしまった。
酒は旨い。食事も美味い。さらに人間は神の写し身であるから、神を敬愛する天使たちは自然と人間にも惹かれてしまい、四六時中いたるところでイチャコラハアハアし始める。
「えー、ちょっと天使チョロすぎない? どんだけ天国で禁欲生活してたのよ」
「姉御、黙っててくださいってば!」
天使たちは全員が人間と性交に耽け、ついには神に禁じられていたにも拘らず、人間達に禁断の知識まで授けてしまった。そのせいで人間たちは武器や魔法で争うことになり、エデンには不敬虔や姦淫など様々な悪行がはびこることになった。
グループリーダーであった水の天使ウザエルも最初は他の天使たちが堕落していくのを止めようと頑張っていたが、風の天使アザゼルにそそのかされて自分も人間の女に惚れ込んでしまう。
「てか、特にひどかったのはウザエルよね。あいつさぁ、
「マジでー? ありえないねそのウザエルっての」
「うん。それだけじゃなくてさぁ。あいつが惚れた人間の女がまぁまぁな悪女で、あろうことか神の秘密の名を教えろなんて言ったのよ」
「え、信じられない! まさか教えたの?」
「ばっちり教えちゃったのよね。ほんと巨乳に弱いんだから」
「アチャーだよね。ちなみに神の秘密の名前を人間が知ったらどうなるの?」
「生身の体で天界へ行くことができちゃうのよ。すごくない?」
「うわ、超知りたいwwww」
「さすがに堕天使になってもそれは言えないわよww」
「おい、アルダム。姉御が堕天使と女子会してるぞ!」
「いつのまに! なんで一人だけ拘束解けてるんだ!?」
「あの堕天使が一人語りに耐えられなくなって姉御を引き込んだみたいだぞ」
「あんな馬鹿みたいな神気出してる奴相手に順応してる姉御はなんなんだ……」
全員堕落してしまったので、ウザエルは堕天使たちに「ぜってぇ神にチクんなよ」と協定を結ばせたりもしたが、時はすでに遅かった。
堕天使と人間たちとの間にはチェトィリエたちのような
当然、愛するエデンの園が大ダメージを受けているのに、神にばれないはずがない。
「なにしてくれてんの、お前ら」
神は激怒して四大天使であるミカエル、ガブリエル、ラファエル、ウリエルを地上に派遣して
ガブリエルは堕天使たちを
一番手を焼いたのは風の天使アザゼルで、「神の如き強者」という意味を持つ名前の通りかなり強かった。
大天使ラファエルはウリエルと共に、アザゼルを地獄のさらに深い場所に通じるダドエルの穴に閉じこめたが、神の軍勢も相当な犠牲を出した。アザゼルは神に逆らう者の代名詞、サタンと名付けられて後世に悪しき名を残した。
「ラミエルちゃんはどうやって地獄から出てこれたの?」
「まだ出てこれてないんだってばぁ~。本体は地獄の中で、魂だけでこの修道女に憑依してるのよ。だから本来の天使の力が全然出せなくてさぁ」
「それでも人を呪い殺すくらいできちゃうんでしょ? すごーい」
「すごい?」
「う、うん。すごいなーって思うよ、ほんと!」
「ふふん。まぁ、稀人には効かないんだけどねー」
「それとそれと! リーダーのウザエルよりアザゼルのほうが強いの? あ、その煎餅美味しかったよ」
「あ、ホント。パリパリして美味しい。えーとアザゼルとウザエル? どっちも強いからなぁ。私達より格上の天使だったし、大天使並よ。リーダーやってたくらいだからウザエルの方が強かったんじゃない?」
「おい、アルダム。姉御たちがテーブルにお菓子出しはじめたぞ!? どこから湧いてきたんだあれ!」
「考えちゃ駄目だ。この枷から抜けられない俺たちにできることは姉御を見守ることだけだ。きっとなにか考えがあって堕天使と女子会してるんだ! そう思いたい!」
「絶対その場のノリでやってるだけだと思うぞ。しかし女子会なだけに地雷ワードを踏むと大変なことになる。頼むぞ姉御……」
「さてと」
クレメリー=堕天使ラミエルは、お菓子が並んだテーブルを手の一振りで天蓋付きのベッドに変えると、ケーキを持ったままきょとんとするシルビスを見て微笑んだ。
「私達天使には男も女もないの。だから相手が男でも女でも交われちゃうのよね」
「へ、へぇ……」
「そこのエランダとはもうやったし、今回は死にかけているランザとしようか、それともあなたとしようか。迷うなー」
「へ、へぇー。な、なにをするのかなぁー」
シルビスが顔をひきつらせる。
「この世に私の子どもたちをたくさん作って、私達を地獄に落とした神に復讐する軍勢を作るの。楽しそうでしょ?」
「へ、へぇー。け、けどまた大天使が来ちゃうんじゃない?」
「二度も負けないわ。今度はあいつらの羽をむしって逆に地獄の底に突き落としてやるつもりよ」
「す、すごーい」
「というわけで、子作りしましょうかお嬢ちゃん」
「───よくもまぁそんだけ喋れるもんだ」
ラミエルはここに来て初めて驚いた顔をして振り返った。
その視線の先には光の檻の中から抜け出て、ランザに手をかざすルイードの姿があった。
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