第29話 ウザい横取りは許さない

 熱血のガラバ。イケメン三人衆のリーダー格である。


 三人組アイドル冒険者としてオータム男爵に見出されてデビューしたが、興行収入は雀の涙。所属していたアイドル冒険者血盟クランからの扱いも悪くなり、最終的には「男色家の貴族に抱かれてこい」と言われて、オータム男爵の手から逃げ出す選択をした。しかしそれは男爵の顔に泥を塗ったことになり、いつ報復を受けるかわからない危険な選択だった。


 ガラバは他の二人と共に「流れ者の冒険者」として居所を転々とすることで、なんとかオータム男爵の息がかかってる連中を避けてきた。彼は三人組の中で誰よりも機転が利くタイプなのだ。


 そんな彼がこの街に常駐し、しかも【ウザ絡みのルイード】の手下になったのは、とにかくルイードが尋常じゃないほど強い事と、意外に面倒見が良くて何かあれば助けてくれると確信したからだ。


「私達はチンピラ冒険者を装って新人教育するっていう必要悪、つまりダークヒーローだからね? 本当にチンピラになっちゃ駄目なんだから目的を忘れないで」


 一の子分であるシルビスの姉御に強く釘を刺されたが、ガラバたちはそもそもがチンピラではない。暇つぶし程度に新人にウザ絡みして遊んでいただけで、女を横取りしたり金を巻き上げたりするわけでもないただの「迷惑者」なのだ。


 そんな迷惑者のガラバは女好きで、太いたくましい眉をアピールしながら「眉の太い男はあっちも太くてたくましいんだぜ。確認してみないか?」を定番の口説き文句にしている。


 昨夜もその定番のセリフで引っ張り込んだケツの軽い女と、一晩中借宿でわちゃわちゃしたガラバは、宿の亭主に「うちは連れ込み宿じゃないんだぜ」と苦言を言われながらも、ちゃんと冒険者ギルドに顔を出す。


 お天道様は随分高い位置にあるので、主だった依頼はなくなっているだろうが、日銭を稼げればそれでいいのだ。


「指名依頼があります。あなたのお仲間のビランとアルダムが依頼放棄したので責任をとって確実に完遂してください。もし放棄したら当ギルドから追放させていただきます。乙女の意地がかかっているんですから絶対行ってくださいよ!」


 ギルドに顔を出すなり受付統括のカーリーからキレ気味に押し付けられた依頼は、街の外の畑に出る害獣の駆除……。しかし、どうにも怪しい。


 まず依頼人がシーマンという冒険者だが、わざわざ「女冒険者」と書いてある。様々な専門性を持つ冒険者に性差はないので、普通は性別など書かないものだし「乙女の意地」とカーリーに言われたのも引っかかる。


 それに畑の害獣駆除ならそれ専門の冒険者がたくさんいる。このギルドの中でも見回すだけで【ブラックアライグマ駆除ならラスカル血盟クランへ】とか【魔蜂駆除なら信頼と実績のキュートハニー血盟】というポスターが貼られているくらいだ。それなのに、なぜ戦闘系であるイケメン三人組を指名して次々に依頼を出すのか。そこに合理的な理由が見当たらないのだ。


 さらに不可解なのが、ビランとアルダムが依頼を放棄しているという話だ。


 ガラバはアイドル時代より前から彼らを知っているが、依頼を破棄するなど今までに一度もないし、そんなことをしていたら三等級冒険者にはなれていないだろう。


 受付統括のカーリーは「依頼人には優しくしてあげてください」とか「本当は依頼人に手を出したら駄目ですが、今回は特例としてハグまでは許します」とかよくわからない圧を掛けてくるし、相談したくてもルイードもシルビスの姉御も見当たらない。


『嫌な予感しかしないが、行くしかないのか』


 しぶしぶ東の大門に向かうと、黒いローブで全身を覆った怪しげな女と、シルビスの姉御と同じノーム種の女冒険者がいた。


 黒い方は問題外の怪しさだが、ノーム種の方は種族特有の巻き角にリボンをつけてあったり革鎧も可愛らしく花柄をあしらっている。しかも少しの動作だけでもたゆゆんと胸元が揺れように、わざと革鎧の胸元が大きく開いて「防御力を捨ててでも女らしさをアピールする」感を醸し出している。


 巨乳の女冒険者はガルバを認めて手を振ってきた。


「……あんたが依頼人かな?」

「そうそう! よろしく! あと三人来るから待っててね!」

「念の為あんたの名前を確認したいんだが、いいか?」

「えー、それは後でよくなーい?」

「は? そうはいかないだろ。一応ギルドを通じて指名依頼されたんだし、間違いがあっちゃいけない」


 ガラバは太い眉をしかめて巨乳冒険者を見た。


「そんな怖い顔しないでよぉ~」


 ふにゅんと大きな胸を押し付けてくるが、ガラバは動じなかった。


 三人組の中で一番女好きのガラバがこの恵まれた体を前に理性的である理由。それは、明け方まで宿でわちゃわちゃし、性的にすべて出しきった後の「賢者モード」だったからだ。


「ここで名前を言いたくないのなら依頼書を見せてくれ」

「あー、ごめーん。あなたじゃなかったかも~」


 巨乳の女は今までと打って変わって白けたような視線をガラバに送ると、やってきた三人組の女冒険者たちと共に、別の冒険者に声をかけに行った。


「……なんなんだ、あいつらは」


 すぐさま引っかかった冒険者は女達に囲まれて門の外に出ていったが、どうにもあの女達の言動は怪しすぎる。しかしあとに残るのは見た目が怪しい黒ローブの女だけだ。


「まさか俺の依頼人は……こっちか?」


 黒いローブの前に立つ。


「俺はガラバ。指名依頼を出したのはあんたか?」

「……」


 ローブの女は肩を震わせている。ビランとアルダムが依頼をすっぽかしたので怒っているのだろう。


「う……う……、やっと来た……」


 怒っているのではなく泣いているようだ。


「い、一応名前か依頼書を確認させてくれ」


 すっと差し出されたのは依頼書で、受領者名の所にビランとアルダムの名前があるが斜線が引かれている。


「ありがとよ。あんたがさんだな。ったく、さっきの女達は何だったんだ」

「ぐす……。あいつらはさっきから何度も男たちを引っ掛けて外に連れ出しては戻ってきてる……武器に真新しい血の跡もあった」

「なに!?」

「きっとあれは、色気で馬鹿な冒険者が油断しているうちに襲って、金品や装備を強奪する冒険者専門の強盗団だろう」

「おいおいマジかよ!?」

「ああ間違いない。私が見ていただけでも片方だけ前髪の長い男とやたら童顔の男が……」

「はぁぁぁ!? それ、ビランとアルダムじゃねぇか!!」

「はぁぁぁ!? あの売女ども! 私が指名した二人をかっさらってたのか!!」

「探しに行かねぇと!」

「邪魔した罰を与えないと!」


 暗殺しに来たシーマと、そのターゲットであるガラバに、全く別の目的が出来た瞬間だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る