第28話 ウザ熱血のガラバを指名するしかないっぽい

 イケメン三人衆の一人【元気なアルダム】。特に体格が優れているわけでもない、ごく普通のヒュム種だ。


 むしろその種族の成人男性としては小柄な部類に入るアルダムは、自分が童顔であることも熟知して「弟分のように可愛がられるイケメン」という立場を自ら確立している。


 誰よりも己を知り、その特徴を最大限に活かして暮らす彼が輝くのは酒の場だった。


 腐っても元アイドルのアルダムは、リュートを持たせればテンポの良い旋律を奏で、陽気な歌詞を声高らかに歌い、さらにかっこよく踊る。それだけでも酔い始めた人々は彼を持て囃すようになる。


 さらに彼は話術が巧みだ。見知らぬ相手ともすぐに打ち解け合い、誰もが笑ってしまうような冗談を口にして、その場で人気の中心になる。それはまさに稀人語の「馬鹿陽気な人々パリピ」であろう。


 そんな彼の日常は「冒険依頼を受ける」「報酬をもらう」「報酬全額を一晩で使い果たす」「また冒険依頼を受ける」の繰り返しだ。


 彼はそんな生活を楽しんでいたが、昨夜はあまりにもハメを外しすぎたと反省している。


「まさかルイードの親分があれほど酒に強いなんて」


 今までどんな無茶な飲み方をしても潰れることはなかったので酒豪だと自称していたが「だったら勝負するか? おおん?」と言われて挑んだ結果、完膚無きまでに潰された。


「人間って体の中にあんなに酒が入れられるもんなのかよ……」


 酔い過ぎて記憶が定かではないが、ルイードは二つ分の酒を何食わぬ顔で飲んだはずだ。どう考えてもそれだけの量が体内に入り切るはずはないのだが、ルイードは一度も手洗いに立つことなく淡々と飲み干した。アルダムは「親分に勝負を挑んだのが間違いだった」と深く反省している。


 その勝負の代償は猛烈な二日酔いとなって今彼を襲っている。


 だが、その日暮らしをしているアルダムは貯蓄がない。冒険者ギルドで依頼を受け、依頼をこなし、報酬を得ないと飯代どころか今夜の宿もなくなるので、意地でも依頼は受ける必要があるのだ。


 そこに飛び込んできたのが指名依頼だった。


 街の外にある畑の害獣退治を手伝ってほしいという女性冒険者からの依頼だそうだが、普通の頭なら「どうして俺に指名が?」と怪しむところだろう。しかし二日酔いで頭が回っていないアルダムは簡単にそれを受けた。


 そしてふらふらと待ち合わせ場所である東の大門に行くと、そこには黒いローブを着込んで顔も隠した怪しい女?と、凛とした鎧姿の美女がいた。


『黒い方だったらやだなぁ』


 顔はフードで覆い隠しているし、なにかの暗黒面に落ちて夜中に手首を切りながら笑っていそうな女のように見えて、関わりたくないタイプだ。


 それに比べて凛とした美女は、女騎士と言っても過言ではない尊厳な雰囲気をまとっているし、なんせ美人だ。


 その美女が手を振ってくれたので安心してそちらに向かう。


「どーもー。お酒臭かったらごめんねー」

「大丈夫です。あと三人来るのでお待ちを……、あ、来ました」


 現れたのは女冒険者ばかりで奇跡的に全員が美女だ。特に清楚な顔立ちをした金髪美女がアルダムの目を引いた。


 装備品からして僧侶系職種のようで、なぜか今使ってきましたと言わんばかりに鉄のメイスに血糊がついているが、そんなことは目にも入らないくらいの美人だ。


「おお!! こんな美女たちと依頼なんて最高じゃんか。俺、頑張っちゃうよ~」


 酒がまだ体内に残っているアルダムは無駄に元気よく跳ねながら応じ、美女たちと共に門の外に向かった。


 そんな一行を横目で見送ったシーマは「あの金髪女、さっきもいたような……」と思いながらもアルダムを待ち続けた。が、待ち合わせの時間が過ぎても当然現れない。今し方別の女達の所に行ってしまったのだから当然だ。


 唇の端を噛み切りそうなほど歯噛みしたシーマは「なんで来ないんだ!!」と叫んでいた。


 こんなことがあるだろうか。どちらもちゃんと依頼を受領したのにビランに続いてアルダムも現れない。これは酷い扱いを受けていると考えざるを得ない。


「この街の東のギルドは怠慢が過ぎる!!」


 頭にきたが、シーマは帝国の間者スパイでありという偽名を使っている手前、あまり派手に冒険者ギルドと揉めて、こちらの身元を調べられたら困る。だから冷静に自分を抑えに抑えて、またギルドに出向いた。


「え、アルダムも来なかったですって!?」


 エルフ種の受付嬢はあまり表情を変えないタイプのようだが、流石に眉を動かして声を張った。


「依頼は確かに受領して本人がサインしたはずですが」

「ああ、しかし来なかった。このギルドでは冒険者の斡旋をどうしているんだ。あまりにも酷くないか?」

「申し訳ございませんシーマンさん。今回依頼を放棄した二人は、ギルドの吹抜けの上から逆さ吊りにして頭を熟れたトマトみたいに鬱血させてから何度も棍棒で殴っておきますので……」


 受付嬢の鉄面皮におぞましいほどの殺気が宿っている。これは本気の眼差しだ。


「そ、そんなことよりもう一度指名依頼したい。いくらなんでも今度こそ来てくれると信じているよ」

「はい、当ギルドも全力で汚名返上させていただければと思います」

「ではガラバという男を───」

「お待ち下さいシーマンさん。ガラバを指名ですか!?」


 エルフ種の受付嬢が完全に冷静な顔を崩し、シーマの言葉にかぶせ気味に言った。


「失礼ながらガラバという男は、依頼を放棄したビランとアルダムの仲間です。当ギルドといたしましては依頼放棄した者たちの仲間をご紹介するのはどうかと……」

「しかしイケメンなんだろう?」

「……より好みはあるかと思いますが、眉が太く彫りが深い顔立ちをしているので、おそらくイケメンの部類だとは思いますが───ではなく、ギルドは依頼を完遂できる冒険者を斡旋する場所ですので、今回は別の方をご指名頂きたく存じます」

「いや、さすがに三度目の正直があると思いたい。ガラバを指名させて欲しい」

さん。失礼ながらそこまでイケメンにこだわる理由をお聞かせいただけますか?」


 もっともな質問だし、怪しまれたに違いないと思ったシーマは、焦って上辺を取り繕った。


「わ、私は彼らのファンなんだ! そう、ファン! だって彼らはアイドル冒険者だし? だ、だから指名依頼を通じて少しでも近くで会いたいと思って……」

「なるほど」


 エルフ種の受付嬢は遠い目をした。


「好きな人になんとかして近づきたい。だから仕事として付き合って親密になりたい。その気持ち、よくわかります。応援しますよ、シーマンさん」

「う、うん……」


 鉄面皮のエルフ種はなにかに共感したらしく、目を輝かせてシーマの手を握った。

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