第27話 ウザ元気なアルダムにご指名入ります

 クールなビランが女性冒険者たちとキャッキャウフフな依頼を楽しんでいるであろう頃、シーマはイライラしながら東の大門前で周囲を見回していた。


 あれだけ集まっていた冒険者たちは任務地に散ったので、今はまばらにしかいない。


『ギルドから依頼は受理されたと通知がきたが、ビランは来ないじゃないか! 依頼破棄は報酬の半分を支払う罰金が課せられるというのに!』


 オータム男爵から暗殺依頼を受けたシーマは、イケメン三人衆を個別に呼び出して始末するつもりだった。


 今回の暗殺依頼はターゲットの名前しか分からず、相手の顔も素性もわからない。彼女の経験則で「下手に嗅ぎ回って相手に知られて警戒されると暗殺しにくくなる」というのがあったので、ターゲットの名前で指名依頼を出し、ビランはそれに食いついた。


 改めて依頼書の写しを見るが、しっかりビランのサインがしてある。この写しは魔法紙で、誰かがギルドで依頼を受領するとそのサインがこちらにも転写されるようになっている。だから間違えるはずがない。


『まさかビランに気付かれたのか!?』と不安になるシーマだったが、ここで終わらせるわけにはいかない。


『ビランは後回しにして別のターゲットから先に始末するほうが賢明だな」


 オータム男爵からの依頼書を広げてもう一度書いてある名前を確認する。


「ふむ……。次はこのアルダムとかいう男にするか」


 しかし今回の一件で、顔もわからずに待つ姿勢では失敗する可能性があると理解した。だからまずはアルダムの顔を確認したい。


「ギルドに居座ってやつが来るのを待つか」


 シーマはしょぼしょぼと東の冒険者ギルドを目指した。


 ちなみにギルドに着いても彼女はフードを取らない。一時的にパーティを組んでいたアバンやシルビスはもちろん、前回の依頼を邪魔した【ウザ絡みのルイード】に顔を見られているシーマは、かなり周囲を警戒しているのだ。


 もしも自分が帝国の間者であることが周知されていれば、衛兵を呼ばれる可能性も高い。だからフードは外せないのだ。


 しかし、いくらフードをかぶって顔を隠していても、全身を包み隠す黒ローブ姿の者がギルド内に長居していること自体が目立つ。そのことにシーマは気付かず「私は完璧に気配を消している」と錯覚していた。


 だからエルフの少し偉そうな受付嬢が近寄ってきた時、ビクッと体が跳ね上がった。


「そんな驚かなくても」

「い、い、いや、なんでもない。ちょっと居眠りしていたから!」

「ならいいのですが。害獣討伐依頼を出されていたですよね? どうされました?」


 シーマは「よく依頼人を覚えていられるものだ。さすがプロの受付」と感嘆したが、シーマが黒いローブで顔と姿を隠しているのがので、嫌でも覚えてしまっただけである。


「あ、ああ。実は依頼を受けた冒険者が待ち合わせに来なくてな……」

「え、ビランさん、行かなかったんですか!?」


 冒険者ギルドは依頼達成率百パーセントを目標に掲げている。だからその依頼に適さない冒険者に任せることはないし、依頼を放棄すれば重いペナルティも課している。もちろん依頼未達成になるケースもあるが、その場合はギルドが責任を持って別の冒険者を紹介して追加料金無しで完遂させる。もちろんギルドにとっては赤字だ。


「あの前髪野郎、後でシメておきますね」


 エルフ種の受付嬢がドスの利いた声を出したのでシーマは思わず息を呑んだ。


「どこかで行き違いがあったのかも知れません。もちろん、当ギルド所属の別の冒険者に事を当たらせます」

「それであればビランではなく別の冒険者をもらいたい」

「ご指名ですか? もちろんです。どなたでしょうか?」

「アルダムという男が腕も立つと聞いたんだが」

「……まぁ、腐っても三等級冒険者ですから。しかしもっと堅実で確実に任務遂行できる冒険者が他にもいますよ?」

「いや、アルダムにしてくれ。聞けば随分と男前なんだろう?」

「見てくれはビランさんと違う系統のイケメンではありますけど、本当にいいのですか? 害獣でお困りなのであればちゃんとした冒険者を───」

「いや、イケメンがいい……」


 シーマは自分が男探ししている色ボケ女に見られているような気がしてだんだん声が細くなった。


「イケメンならルイードさんが一番ですけどね」

「はぁ!?」


 受付嬢のトンデモ発言に思わずフードを脱ぎそうになった。


「あら、ご存知ありません? 【ウザ絡みのルイード】という冒険者なんですけど」

「知って……るけど、あれはイケメンか???」

「ふふふ、まだあの方の顔をちゃんと見ていないようなのでこっそりお教えしますけど、シブオジのイケオジなんですよ。あ、これ内緒ですからね!」

「あれは新人にウザ絡みしてくるただのチンピラだろ?」

「あまり教えるとライバルが増えるのでこれ以上は言えません。それで、本当に指名相手はアルダムでいいんですか?」

「あ、ああ。そうして欲しい」


 この受付嬢のルイード推しは奇妙だが、そんなことよりなにより、まずはオータム男爵から与えられた任務を遂行せねば、安心して眠ることも出来ない。


『アルダム、ビラン、ガラバを暗殺したら、次はルイードだ。私が落ちぶれて暗殺稼業をやらさせているのも全部あいつのせいなんだからな!』

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