第26話 ウザクールなビランは間違える

 ビラン。ルイードの子分になったイケメン三人衆の一人だ。


 金色に輝く前髪の片方を垂らしてわざと半顔を隠しているが、切れ長の目元とスラリと伸びた鼻梁、形の良い顎からして誰もがイケメンと認める男だ。


 稀人が持ち込んだ「イケメン」という言葉がこの世界で定着して久しいが、一般的にエルフ種はイケメン揃いでヒュム種人間は個体差が大きいとされている。だが彼はヒュム種でありながらエルフのような端正な顔立ちを持ち、しかも戦士系職種ジョブなので体つきは惚れ惚れするほど逞しい。これでウザ絡みせず寡黙に佇んでいれば、どんな女性も一瞬目を奪われる。そんな男がビランである。


 いや。


 言い加えるなら、その顔立ちの印象でルイードから「クールなビラン」という二つ名を付けられたことを本人は気に入っているらしく、事あるごとに「俺、クールなビランって言うんだけど」と自己紹介しているため「それを自分で言うか……」と周囲を呆れさせなければ、いい男である。


 一言で言えば「残念イケメン」と言えよう。


 そんな残念イケメンのビランは、ギルドの依頼掲示板を眺めていた。


 普段なら依頼もそこそこに「誰かしら新人に絡んでやろう」とするところだが、ルイードから「俺が指示するまで絡むんじゃねぇ」と釘を刺されているので、大人しく依頼をこなして日銭を稼ぐことにしたのだ。


 イケメン三人衆と呼ばれている他の仲間はいない。


 熱血のガラバは昨夜たらしこんだ街の女としけこんでいるし、元気なアルダムは明け方まで酒場でどんちゃん騒ぎしていたのでまだ寝ているはずだ。


 三人組はそれぞれ財布を分けているが、ビラン以外の二人の金遣いの派手さは目を覆いたくなるほどだ。


 ビラン以外は金に困ったら冒険者ギルドで依頼を受ければいいとしか考えていないのだが、装備品の補修・宿代・飯代・渡航費などを全く考えていないから宵越しの金を持とうとしない。


 だから、こうしてビランは他の二人を補うために一人で依頼を受けようとしている。普段の言動を見ると残念イケメンで初心者に絡むチンピラ冒険者なのだが、実は仲間思いで性根の悪くない青年なのだ。


「ふっ。俺がちゃんとしてねぇと、あいつらが路頭に迷っちまうからな」

「ビランさん、自虐的な独り言を楽しんでいるところに申し訳ないのですが、少しよろしいでしょうか」


 珍しく、いや、初めて受付嬢の方から声をかけられる。


 ビランは片方の顔を隠している長い金髪をふっとかきあげながら、振り返った。


「なんだいベイビー。夜のお誘いなら───」

「指名依頼です」

「んあ?」


 この街に来てルイードの子分になり数日経ったが、目立った依頼をしてきたわけではない。そんな自分に指名依頼が来るということは……。


「依頼人は女性かな?」

「そのとおりです」

「じゃ、やる」


 依頼内容も見ずに即決した。見た目がクールでも冷静沈着に物事を推し量るタイプではないのだ。


「では、こちら、お願いします」

「了解。ところで今夜俺と食事でも」

「ではお気をつけて」

「えー、ちょっ、無視しなくてもよくない?」

「ルイードさんに言いつけますよ。ってかその邪魔そうな前髪切ったらどうですか」


 けんもほろろに追い返される。


「んー、こう見えてもアイドル冒険者なんだけどなぁ」


 ビランたちは十人中十人が「イケメン」と評価する顔立ちの良さから、稀人のオータム男爵にスカウトされ、よくわからないままアイドル冒険者になった。


 しかし禄に指導も宣伝もされずまったく売れなかった挙げ句、貴族の男の情夫になれと命じられて逃げ出した。いくら大金持ちで稀人の男爵から命令されても、嫌なものは嫌である。


「そもそもなんだよレッスン料が毎月大金貨10万ジア一枚って。なんで俺たちが金払ってまでアイドルやんなきゃいけねぇんだ。売上なんか銅貨1ジア一枚もらってねぇのに」


 ブツブツ文句を言いながら歩き、やっと依頼書に書かれた内容を見直す。


「ふーん。大した報奨じゃないが、まぁ、女の子からの指名依頼ってのがいいよな」


 依頼内容は街の外にある畑を荒らす害獣駆除。依頼人は女性冒険者で、募集要項には「一人では手が足りないので高名なビラン様に加勢をお願いしたい(はーと)」とあった。


 このハートマークがすべてを物語っている。依頼というのは建前で自分に会いたいファンなんだろうとビランは理解し、待ち合わせ場所にスキップしながら向かう。


 待ち合わせ場所───街の東側にある大門前は、街の外で仕事する冒険者たちの待ち合わせ場所になっていて、早朝と夕方は人でごった返している。


 依頼人は「門の左側で待つ」と書いてあったが、そこには二人の冒険者がいた。運が悪いことに二人とも女性だ。


『んー』


 ビランはどちらに声をかけるか困った。


 一人は黒いローブを着込んで体の線がわからないどころかフードで顔まで隠した人物。背丈から女性であることはわかるが、怪しげに姿形を隠しているところから、ビランは「陽の下で顔を晒せないブスだな」と判断した。


 もう一人は清楚な顔立ちをした金髪美女で、装備品からして僧侶系職種だ。鉄のメイスを持っているのである程度は接近戦も出来るようだが、僧侶は魔術師や義賊よりは接近戦が出来ても戦士には及ばないというのが世の常だ。


「やぁお嬢さん。依頼を受けたぜ」

「どうも~」


 ビランの顔をみた金髪美人僧侶はパアッと顔を明るくした。イケメンの笑顔はコミュニケーションのとっかかりに効果覿面なのだ。


「それじゃ早速いこうぜハニー」

「あと三人来るので待ってね~」


『ん? 依頼内容には「募集人数:少」とあったのでてっきり一人だと思っていたが、複数人だったのか』


「おまたせ」

「ちーす」

「ほう、今日はこういうメンツか」


 現れたのは女冒険者ばかり。どれもこれも顔立ちが悪くない。


『きたこれ。今日はハーレムじゃねぇか!』

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