第24話 ウザ絡みアイドルたち

 流れの冒険者だったが本職のルイードよりウザかったので仲間に引き入れたイケメン三人組。


 熟練者の証である「三等級」を持つ冒険者だが、全員が戦士というバランスの悪いパーティだ。


 彼らの話を聞く限り、あちこちの街を渡り歩いて勝手気ままにギルドを荒らして立ち去っていくイナゴのようなことをしていたらしいが、冒険者としての実力は当人たち曰く「まあまあ」なのだそうだ。


 三人は顔のタイプから「熱血タイプイケメン」「クールタイプイケメン」「元気タイプイケメン」に分類され、熱血タイプの名前はガラバ。クールタイプの名前はビラン。元気タイプはアルダムと言う。


「熱血のガラバ。クールなビラン。元気なアルダム」


 今聞いた名前と顔の印象を結びつけて名付けするルイードだったが、アルダムだけが焦ったように手を上げた。


「親分! そ、その二つ名だと俺だけ馬鹿っぽくないですか? 元気が取り柄って!」


 その焦っているアルダムを無視して、シルビスが憮然とする。


「私、二つ名もらってないんですけど! てか、ルイードさんがあんたたちをスカウトしたのはいいとして、私はあんたたちのこと殆ど知らないのよね。自己紹介すべきじゃない?」

「おお、姉御が俺たちのことを気にかけて……」


 熱血のガラバは嬉しそうに太めの眉毛を動かしている。


「気にかけてって言うか、いざとなった時にあんたたちを使い倒すわけだし、特徴とか特性とか知っておきたいじゃない?」

「おお、さすが姉御は腹黒い」


 クールなビランがニヒルに苦笑する。


「てか戦士三人構成の三等級冒険者パーティってどんだけ脳筋なのって思ってたけど、あんたたち、どういうつながりなのよ」

「俺達はだったんです!」


 元気なアルダムが言うと、シルビスは呆気にとられて白目を剥いた。


 アイドル冒険者───それはとある【稀人】が異世界から持ち込んだ文化の一つで、今では人気の高い稼業だ。


 アイドル冒険者発祥の地は帝国で、その流行は国境を超えて王国にも入ってきている。そもそも冒険者は国を自由に行き来できるので、アイドル冒険者が流行るのは容易かったのだ。


 この世界でアイドルに似たような稼業は、吟遊詩人や踊り子だろう。吟遊詩人が歌いながら楽器を演奏し、美男美女の踊り子が踊ることで人目を引きつけ、その演奏と踊りの対価として僅かな金を頂くというものだ。


 しかしとある稀人はアイドルを「自分たちで歌い踊る美男美女」と定義づけ、それではまだパンチが弱かったので「アイドル冒険者」にした。


「会いに行けるアイドルとか漁師アイドルとか無人島開拓アイドルとかサバイバルアイドルとかもいるんだから、当然異世界なら冒険者アイドルがいるべきだ」


 とある稀人はそう言って複数の冒険者グループをアイドルプロデュースした。


 アイドル冒険者の人気は国境を超えて瞬く間に広がり、この街でも、南のギルドは専属のアイドル冒険者を雇い、それ目当てに冒険者を多く獲得しているほどである。


「今日も明日もかっこいいでおなじみ【ゴライオン】のホネルがダンジョンで死亡! 明日、新メンバーのファラ加入リサイタル開催!」

「美形アイドル冒険者パーティ【アルベガス】の新曲が聞けるのは南の冒険者ギルドだけ!」

「人気アイドル冒険者パーティ【サザンクロス】のジャンヌ、妊娠発覚か!?」


 連日街のゴシップ新聞はアイドルネタで事欠かない。それほどの認知がありながらも、増えに増えまくったアイドル冒険者業界の中には人気が出ないアイドル冒険者も現れはじめた。イケメン三人衆はまさにそれだ。


「イケイケ圧迫俺様推し営業が駄目だったみたいで」


 熱血のガラバがしゅんとして言うのでシルビスが「どんな営業よ?」と尋ねると実演してくれた。


「おいねーちゃん、俺のことが好きなんだろ。わかってるって、お前のその瞳の奥には俺しか映っていないんだからさ。いいぜ、この時間だけお前だけのものになってやるから金もってこい───リシャール入りまーす!」

「てめぇふざけてんのか殺すぞ」


 シルビスは黄金鎧を転売した金で買った高級短刀に手をかけそうになっていた。


「なんか不愉快! 不快指数すごい! なにその俺様っぷりは! それがアイドル!? リシャールってなに!? ルイードさん、なんでこんなの仲間に入れたんですか!!」

「え、ウザいと思って」

「ガチでほんとにウザイんですけど!!」

「けどこいつら、根は真面目なんだぜ」

「ど・こ・が?」


 シルビスの額に怒りの血管が浮いているが、ルイードは淡々と話を始めた。


「こいつらをデビューさせた稀人はまぁまぁな小悪党だったらしくてな。こいつらが売れないとわかると、男色家の貴族に抱かせて自分の足場硬めに使おうとしていたらしい」

「ふーん? そんなの、こっちの世界の商家でもよくある話じゃないですか」

「まぁな。けどよ、こいつらはそれが嫌だったらしい。心を捨てて客に媚びることもできないし、歌いたくもないクソみたいな詞や意味のない踊りの振り付けも嫌だった。だかららしい」

「そうなんですかー。………って、逃げ出した?」

「ああ。多分こいつらを起用した稀人はメンツを潰されて怒り狂って命を狙ってるかもしれんなぁ」

「ははぁん。だから定住しない流れ者の冒険者ですか。けどいいんですか? 私たちの仲間にして……」


 シルビスが心配そうな顔をするとイケメンたちは目を潤ませた。


「大丈夫っす。いざとなったらルイードさんに助けてもらえそうだし!」

「ルイードさん強いし、一緒にいるほうが安心!」

「マジバネェっす!!」


 この三人はルイードに守られたいがために仲間になったのだろう。


「めっちゃ依存してんじゃん! いいんですかルイードさん! こいつら寄生虫ですよ!!」


 シルビスが声を荒げたが、ルイードは苦笑するだけだった。


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