第22話 ウザ絡みの目論見は達成した

 冒険者を目指す者は自分の適性にあった職種ジョブの訓練所で二週間ほどの基礎講習を受ける。職種は大別すると「戦士」「僧侶」「義賊」「魔術」といった冒険者の役割に応じたものになり、そのの訓練を経てようやく冒険者になれる。


 だがアバンは適正など度外視して強制的に救国の勇者たちから二ヶ月ほどみっちり職業訓練を受けた。その結果前述の極めつつあった。極めるというのは、万人に一人到達できるかどうかと言われている各職種の最高峰「マスタークラス」に限りなく近いレベルになったということだ。


『よし、これくらい出来るなら一端の冒険者って言えるだろう』


 もはや一端どころか最上級の冒険者にまで育っているのだが、ルイードからするとまだまだひよっこなのだ。


「究極剣奥義! ブラインドディザスター!!」


 アバンが必殺技を大声で叫びながら技を繰り出す。


『いや、なんで技名を言うんだよ。挙動がバレバレだろ』


 そう思いつつヒョイと究極剣奥義を回避したルイードは、わざと吹っ飛ばされたふりをして地面に這いつくばった。


「ぎゃああ、もうかんべんしてくれえええ(棒)」

「僕の実力がわかったか! もう迷惑な事をしないようにな!(棒)」


 アバンは事前の打ち合わせ通り勝利宣言したが、実はルイードとの圧倒的な実力差を痛感していた。


 以前の自分は実力が分かっていなかったが、今ならわかる。これまでの地獄の訓練で各職種のマスタークラス……つまり救国の勇者たちの膝くらいまでは到達したと思っていたが、アークマスターであるルイードの前では足元にも及ばないとはっきり分かったのだ。


 だが「アークマスターに相手してもらえるくらいまでには強くなれた」という自信を持つことも出来た。


 決闘が終わり、見学者たちの喝采が巻き起こる中、救国の勇者たちから受けた壮絶なシゴキの日々を思い出して目頭が熱くなる。


 戦士のアヤカからは「拳で原子を砕け」とか「オーラを感じろ」とか「剣閃で空間を切り裂け」とか無茶苦茶言われた。


 義賊のユーカからは「気配を完全に消すために呼吸を一時間止めろ」とか「しくじったら即死する罠を解除しろ」とか「すべての植物の名前と特徴を覚えろ」とか無茶苦茶言われた。


 聖女のシホからは「神に祈って悟りを開け」とか「次は解脱して生まれ変われ」とか無茶苦茶言われた。


 魔術師ギルド総帥のシュンからは「無詠唱で位階第七階層の魔法を九回使え」とか「黒魔法も治癒魔法も精霊魔法も召喚魔法も使役魔法も強化魔法も覚えろ」とか無茶苦茶言われた。


『無茶しか言われなかったな……』


 すべて出来たわけではないが、なんとか卒業できたのはアバンに才覚と根性があったからだし、稀人でもないのにそれだけの資質があることを見抜いて救国の勇者たちに委ねたルイードの先見の明でもあった。


「すげぇ決闘だった!」

「こんな戦い、初めて見た!」

「すげぇぞアバン!」

「よく見たらまぁまぁイケメン!」


 訓練場に歓声がこだまする。


 ここまで見学者が湧いているのは、派手な決闘が見れたからだ。


 本来一対一の決闘であれば派手な攻撃魔法より、地味で見た目ではわかりにくい麻痺魔法や不利効果デバフ魔法の方が効果的なのだが、見ている方は何が起きているのかわからないので退屈なものだ。


 だからルイードは【おめぇの力を徹底的に周囲に誇示して名誉回復させるために、とにかく派手にぶちかませ】と言った。


 誰の目から見ても強大な戦闘力があれば、報酬の高い討伐依頼を受けさせてもらえるだろうし、金銭が得られたら妹や弟たちはもちろん自分の村の人たちを豊かにできる………。魔力を使い切って限界以上に体を酷使したせいでこの後一週間寝込んむことになっても、彼はルイードに感謝しかなかった。


 ちなみにこの決闘の副次効果として【シルビスの懐が大いに豊かになる】という事も見逃せない。おそらく五等級冒険者なら二年はかかる貯蓄量をほんの一時間程度で稼いだのだ。


「にょ~ほっほっほっほ」


 決闘から一週間後、シルビスは「いつも倒される役目のテーブル」にふんぞり返り、五等級とは思えない立派な装備品に身を包んでルイードに見せつけていた。


「オーダーメイドで装備買い替えちゃいました~。にょ~ほっほっほっほ」

「……いくら使ったんだ。てか、おめぇはそんな重そうな鎧着込んむような職種ジョブだったか?」


 実用性の低い金ピカの鎧に身を包んだシルビスを見て、ルイードは呆れている。なぜかそのルイードの横に並んで紅茶を飲んでいるギルド受付統括のカーリーも、いつも変わらない鉄面皮のどこかに呆れの色が滲んでいる。


「シルビスのアネキは戦士っすかね?」

「おいおい、そうじゃないと黄金のフルプレートメイルとか買わないだろ」

「てかその金鎧。ヘルムの両サイドに顔が彫り込んであってなんだか造形が……」


 いつのまにかルイードが仲間に引き込んでいたイケメン三人組が、一の子分であるシルビスを囲むように後ろに座っていた。


「ん? 私のジョブ? 義賊だけど?」


 全員がずっこけそうになり、ルイードが声を荒げる。


「お、おま……アホなのか? 速度重視で手先の器用さが売りの義賊が、どうして重い鎧なんか着込んでるんだよ!」

「だってみんな私の胸ばっかり見てくるから守ろうと思って」

「お前の無駄乳は、そんな聖衣で守る価値などない!」

「言ったな! ガン見してやるからち◯ち◯出せこんにゃろう!!」

「お前の生乳をガン見したこたぁねぇから吊り合わねぇよ!!」


 二人がぎゃあぎゃあ言い合う中、ギルドの奥でそっとルイードを睨む眼差しがあった。


「あの野郎……」


 それはアバン誘拐に失敗した帝国の間者スパイにして、一時的に仲間のフリを演じていたシーマだった。






(第二章・完)

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