第20話 ウザ絡みを頼るなって話

「なぁネェちゃん。いつ仕事終わるんだよ」

「終わったら俺たちと飲みに行かね?」

「もちろんおごるからさ。俺たち三等級だし金はあるぜぇ?」


【ウザ絡みのルイード】以上にうざったい流れ者のイケメン三人冒険者が、ギルドの受付嬢に絡むのは最近あたりまえになりつつあった。


 しかしこの迷惑者たちのせいでギルドは混雑している。彼らの後ろに並んでいる冒険者たちはイライラを隠せない表情を浮かべているが、相手は熟練の証である三等級の冒険者であり、そもそもが面倒事に巻き込まれるのを恐れて何も言わない。


 だが、これでは冒険者ギルドが正常に業務遂行できないし、他の冒険者に対して示しもつかない。だから受付統括のカーリーが割りこむしかなかった。


「そろそろおやめください。後ろが使えておりますので」


 致し方なく言うカーリーに対しても三人組のニヤニヤは止まらない。


「なに? じゃああんたが来てくれる?」

「あんたでも全然いいよな。いや、むしろいい!」

「すけべな体してるじゃんか~」


 カーリーの変わらない表情がピクリと動くほどに三人組は無節操に口説く。


「やめろ! みんなの迷惑だッ!」


 三人組の横から強めの口調を浴びせる者がいた。


「「「ああん?」」」


 三人が口を揃えてそちらを見ると、そこにいたのは無級冒険者のアバンだった。


 最近姿を見せないと思ったら少し精悍な外観になっている。だが装備品はシルビスが買ってきた安物のままだ。


「クソザコの分際で三等級の俺たちに文句言うとか、命が惜しくないみたいだなこいつ」

「聞いたぜぇ。お前【稀人】じゃないことがバレて逃げてたんだってな。この詐欺野郎が」

「嘘つきは俺たちが粛清してやんよ!」


 そんな受付前の喧騒を「いつも倒される役目のテーブル」に座ったまま遠目に見ているだけのルイード。その対面に座ったシルビスは「行かないんですか?」と怪訝な顔をしている。


「ルイードさん、あんな連中にウザ絡みの立場を取られちゃっていいんですか? それにアバンはやっと職業訓練が終わっただけだし、ボコボコにされますよ?」

「まぁ黙って見てろ」


 ルイードはしおしおの葉巻をくわえ、指先を弾いて火を付ける。その口元から紫煙がこぼれた時、受付前の状況が変わった。


「僕が何者であれ、そんなことはお前達がみんなの迷惑になっている事とはまるで関係がない。受付の用件が終わったのならさっさと失せろ」


 三人組の顔に怒気が満ち、サッとアバンを囲む。その展開の速さと連携の上手さはさすが三等級だけあり、アバンは逃げ場を失った挙げ句、三人同時に相手しなければならない状況になった。


「ちょ! ルイードさん! あの馬鹿アバンボコボコどころか殺されちゃいますよ!」

「大丈夫だ。連中は武器を抜いていないし、いくら冒険者同士の争いでも殺しちまうと犯罪者だってことは十分わかっている」


 余裕で葉巻を燻らせるルイードを横目に、袂を分かったとは言え一緒にパーティを組んでいた男がやられる姿は見るに堪えないとまぶたを綴じるシルビス。


 だが、「ぐえっ」「のわっ」「ぎゃあ」と悲鳴を上げながら吹っ飛ばされたのは三人組の方だった。


「僕を舐めないことだ。僕自身は稀人じゃないけど、アヤカ師匠、ユーカ師匠、シホ師匠、シュン師匠…………救国の勇者たちに鍛えられたんだからね」


【青の一角獣】戦士のアヤカ。

【見えない爪】義賊のユーカ。

【サマトリア教会】聖女シホ。

【魔術師ギルド】総帥シュン。


 その名前だけでも冒険者達は震え上がる。基礎能力が高い異世界からの転移者【稀人】の中でも、さらに特殊な力を持つ【勇者】……その中でも更に魔王討伐を成し遂げた【救国の勇者たち】の四名だ。


「ばっ、馬鹿な! 救国の勇者たちに鍛えられただと!?」

「てめぇごときがどうして救国の勇者たちとつながれるってんだ!? デタラメだ!」

「いやまて、いまのやつの攻撃が見えなかったぞ!?」


 三人は顔を見合わせて後ずさった。


 この三人は腐っても三等級冒険者であり、命を張る天秤の価値がわかっている。こんな所でこんな相手とやりあっても得られるものは少ないと瞬時に判断し、


「親分! 助けてください!」

「あいつめちゃくちゃ強いです!」

「ボコボコにしてやってください!」


 三人のイケメンはギルドの床を滑るように駆け込み、ルイードの足元にすがってきた。


「……はぁ? なんであんたたちをルイードさんが助けなきゃいけないのよ。てか馬鹿ですか? 馬鹿ですよね? 赤の他人に頼るくらいなら最初からウザ絡みなんてしてんじゃないですよ。それと、勝手にルイードさんのことを親分って呼ばないでよね。それ言えるのは一の子分であるこの私だけなんだから!」


 シルビスは脊髄反射のようにきついセリフを吐き飛ばした。


 誰が見てもルイードがこの連中を助ける義理なんてない。シルビスからしても彼らがこの騒動をルイードに押し付けるつもりなのだとしか見えなかった。


「おおん?」


 ルイードは葉巻を上下に動かして怪訝な声を出した。


 シルビスは「ほれみたことか」と大きな胸を突き出してドヤ顔しながら「ほらルイードさん、このバカタレどもに言っちゃってください!」と促した。


「なんだてめぇら情けねぇ。あんなガキ一匹に舐められてんじゃねぇぞ~(棒)」


 ルイードはやっと出番が来たかと言わんばかりに立ち上がった。

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