第18話 ウザ絡みは先行投資する
「受付を統括しているカーリーに筋を通したから一応追放はされないが、正式な冒険者になるまで依頼は受けられないぜ」
カーリーとの話を終えていつもの席に戻ってきたルイードは、同じ場所でうつむいていたアバンの肩を叩いた。
「……ふん。あんたみたいなチンピラ冒険者が僕に貸しを与えてどうするつもりだよ」
ルイードはアバンの頭を平手打ちした。
「言葉に気をつけろ若造。このルイード様がてめぇの教育を引き受けてやろうってんだ。嬉しくて涙がちょちょぎれるだろうが! それとも前言撤回して貧しい故郷に戻りたいのか!?」
「う……」
時間は遡ってルイードがカーリーに直談判する直前。
ルイードはアバンに「お前がそこまでして冒険者になりたい理由って、なんだ?」と尋ねた。
アバンは「僕の義務だから」と答えた。
冒険者という根無し草稼業に就いている者たちの大半は金のため、名誉のため、もしくは普通の仕事に就けないはぐれものだから……と言った個人的な理由を述べるものだが、アバンの答えは意外すぎた。
気になったルイードが話を深堀りすると、彼は貧しい村の期待を一身に背負っていた。
魔王や魔族が魔物を率いて戦争していた頃と比べれば、今はとても穏やかで平和だ。しかし世の中を一枚めくってみると、領主貴族たちは戦後の権力争いに使うために税率を上げ、領民たちにしわ寄せが行く時代になっていた。
そんな時代に地方の名もない村に生まれたアバンは、悲惨な環境で生きていた。
「妹は病気で体が弱いし、弟たちは小さな手で毎日石塊だらけの畑を耕している。父親は魔物に襲われた怪我のせいで満足に働けず酒浸り。母親はそんな家にいるのが嫌で流れの商売人の馬車に乗って消えてしまった。あんな親たちのことはどうでもいい。僕は妹や弟たちを腹一杯にしてあげたい。そして弟と妹の面倒を見てくれている村の人達に報いたい───って、えぇ?」
アバンの語りを聞いたルイードは嗚咽を漏らし、ボサボサ髪で隠れた涙顔を手の甲で拭っていた。
「う、うるせぇな。歳を取ると涙腺が緩むんだよ!」
「まだ何も言ってない……」
「わかった。俺様がおめぇを
それでカーリーに筋を通し、アバンを鍛えることに相成った。だが、アバンはこんな状況でもまだルイードに噛み付いてくる。
「大体あんたが僕に何を教えるっていうんだ。剣の技か? 盾の壊し方か?」
「
アバンは少し驚いた顔を上げてルイードを見た。あの粗暴でヒャッハーな【ウザ絡みのルイード】が、まるで教会の神父様のように落ち着いて安らぎを含んだ声色を出しているからだ。
「まず、ちゃんと妹とか弟の所に戻りたいんだったら、危険を顧みず稀人だと言ったり、俺みたいな連中に正義を振りかざしたりするな。お前がやるべきことはちゃんとした冒険者になって金を稼いで妹弟に良いものを食わせてやることだろう?」
「それは……そのとおりだ」
「俺がお前に教えてやれることは目的のための近道だ」
そこに「おつかい」からシルビスが戻ってきた。
彼女は小柄な体に似合わない盾と剣を抱えている。
「言われたもの揃えましたけど! 残金は私のものって約束、大丈夫ですよね!?」
「おう」
ルイードは苦笑しつつ、シルビスが持ってきた武具をアバンに渡した。壊されたものより小ぶりな円盾と、刃の部分がやたら肉厚なショートソードだ。
「はぁ? もしかして私がさせられたおつかいって、この偽物野郎のだったんですか!? 稀人だとかいって私をパーティに勧誘していばってたこの口だけ野郎の買い物を私にさせたんですか! これって重大な私への裏切り行為ですからねルイードさん。後で私の肩を揉んでくださいね!」
「なんで俺が肩揉みせにゃいかんのだ。てか、お前さ、アバン誘拐の犯人が俺じゃなかったら奴隷にでもなんでなってやるって言ってたよな?」
「ルイードさん。ノームには『三歩歩いたら忘れる』って特技があるんですよ」
「そんな特徴聞いた事ねぇよ! 乳ばっかでかくなりやがって頭の中の養分まで乳に取られてんじゃねぇのか?」
「すべてのノームの女性に謝って! ノームの女はみんなこうなんだから! 特に私に謝って!」
二人がぎゃあぎゃあ口論している間、アバンは渡された武具を持って憮然としている。
「僕に同情して施しているつもりかもしれないけど、あんたみたいなチンピラに情けをかけられるなんて耐えられない」
「はぁ? 同情なんかするかよ。これは投資だボケェ」
ルイードはいつもの【ウザ絡みのルイード】に立ち戻ってしおしおの葉巻をくわえた。
「お前に与えた剣と盾。ギルドへの口利き。これから一端の冒険者にする手間。全部ちゃんと後で請求するんだから覚えておくんだな」
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