第17話 ウザ絡みは堂々とチクる
「とんでもない失態でした。以後気をつけましょう」
エルフのカーリーから怒られ続けて憔悴したギルドの受付嬢たちは、やっと開放されて自分の場所に散っていった。
説教された受付嬢たちは「誰がアバンの冒険者登録を担当したか」と犯人探しをしていたが、カーリーは「そういう問題ではありません。アバンの嘘を見抜けなかった全員の責任です」と更に強く叱責しまくったのだ。
精神的にボロボロになっていても通常業務に戻る彼女たちの背中を見送ったルイードは、カーリーから頭を下げられた。
二人きりのときは対等な口ぶりだが他の受付嬢がいるときは敬語を崩さないのがカーリーの流儀だ。
「この度はご注進いただき、ありがとうございます、ルイードさん」
「まぁ、な」
稀人でもないし職業訓練も受けていないアバンが、無級とは言え冒険者になっていることはギルドにとって危険である。だからルイードは内々でカーリーにそれを教えた。所謂「チクりをいれた」というやつだ。
一般市民はもちろん商人から王侯貴族まで、様々な依頼主は冒険者ギルドに対して「必ず成功する」ことを確約してもらうから多額の依頼料を預ける。「出来ないときもある」などと言った保険をかけることはない。「当ギルドに依頼すれば必ず成功します」というのが謳い文句なのだ。
つまり、冒険者が依頼をしくじったらギルドの信用問題に直結する。
だから冒険者ギルドは成功実績が多い高等級の冒険者を大歓迎し、等級が低い冒険者には便所掃除や草むしり程度の「誰でもまじめにやれば成功する仕事」「失敗してもギルドの評判に傷がつかない仕事」を回す。
アバンはそれを不服に思い、もっと割の良い仕事を得るために経歴詐称していたのだ。
「そもそも職業訓練を受けてなかったら冒険者になれねぇはずなんだがなぁ」
「そうなのですが、冒険者ギルドは基本的に詳細まで個人の経歴を調べません。ですがアバンの素養を見抜けなかったのはギルドの落ち度です」
受付嬢たちは常に冒険者を見定める審美眼を鍛えているが、アバンの底の浅さは見逃してしまった。
「だけどよ、受付の審美眼が効かなかった理由もあるだろ」
ルイードが言う通り、アバンは「一人でブラッディマングースを倒した」という証に、その部位をギルドに持ち込んだ。それだけで審美眼が狂うのは当然だし、加えてアバンは若くてイケメンだった。男が多い冒険者を相手するにあたって、妙齢の女達で構成している受付の目がイケメン効果で狂わされてしまっても仕方ない。
ちなみにルイードがアバンに「どうやってブラッディマングースを一人で倒したのか」と質問したら「実は他の冒険者パーティが倒したやつの残骸をギルドに持ってきた」という素直な回答が戻ってきたので、もう一度頭をぶん殴ったのは言うまでもない。
「それでも無級からスタートさせた受付嬢は十分な働きをしたんじゃねぇか?」
「ルイードさんがそう仰るのなら。ところでアバンはどうしましょうか。冒険者資格剥奪は当然ですが」
「それなんだが、ちょっと俺の顔を立てて欲しいんだが」
「どういうことでしょう?」
「あいつをちゃんとした冒険者にするから、少し時間をくれ」
「本気ですか? 稀人でもなければ職業訓練も受けずにズルをするような男ですよ? 他にも新人冒険者はたくさんいるのですから……」
「まぁまぁ。あいつから仲間のシルビスを引き抜いちまったような形にもなってるし、ちったぁ色つけてやっていいじゃないか」
「ですが……いえ、わかりました。ルイードさんに委ねます。しかしルイードさんが良しと言うまでアバンは依頼を受けさせません」
「それでいい。ありがとよカーリー」
「あの……ルイードさん。お礼に、と言ってはアレですが、その、目元を見せていただきたいのですが」
「ん? こんなんでよければ」
ルイードがボサボサの髪をかきあげて顔を出すと、カーリーはそれだけで「おかずとスープなしでバゲット三本咥えられるわ」とか「網膜に焼き付けたから今夜は捗るわ」と脳内大暴走するほど、なにかの気に満ちた。
滅多に見ることが出来ないイケてるシブオジの精悍な顔は、彼女にとって何よりの賄賂なのだ。
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