第16話 ウザ絡みがパワハラしてもあたり前だよね
魔王討伐後も別の世界から不定期に送り込まれてくる「稀人」を統括していると言っても過言ではない勇者たち。
その勇者たちはルイードと共に魔王討伐に参加し、今は【青の一角獣】
『あいつらにアバンの釘刺しはお願いしたが、稀人じゃないってどういうことだ?』
ルイードは髪をクシャクシャにかきむしりながら質疑応答することにした。
「ん? んー? えーと、なんだっけ。ああ、そうそう。俺様耳が遠くなったかなぁ? ……今なんつった?」
「僕は血盟主の皆さんが言う質問に答えられなかったんだ。あの方々は僕に【セーレキで何年生まれなのか】とか【元の世界のどこに住んでいたのか】とか【好きなゲイノゥージンは】と質問してきた。だけど僕は何一つ答えられなかった。問われている事柄すら理解できなかった。だからバレたんだ。僕が稀人じゃないってことが」
「バカかてめぇは!!」
ルイードはアバンの頭を平手で叩き、力強い小声で叱りつけた。
「痛っ! パ、パワハラ? だぞ!」
「うっせバーカ! これはパワハラじゃなくてただの傷害だボケェ! てかお前、稀人を名乗るってことがどういうことかわかってなかったのか!?」
稀人はその基本能力の高さから、あらゆる分野が喉から手が出るほど欲しがる人材、いや、人財だ。なんせ帝国が「国家間戦争の火種」という危険を犯してでも王国に忍び込み誘拐していこうとするくらいの価値が稀人にはあるのだ。
もちろん本物の稀人なら各方面を鍛えていけば、この世界の誰も勝てない力を持つことになるので、どんな障害も乗り越えられる。
だが、そうじゃない者が稀人を名乗っても、良いことはほんの少しだけで、様々な陰謀に巻き込まれて不幸になる未来しかない。それがルイードがこれまでに何人も見てきた「ニセ稀人」の末路なのだ。
「だ、だって稀人を名乗っていれば女の子からはモテるし……」
「それは愛されてるんじゃなくて子種をよこせって言われてんだよバカ」
稀人の基礎能力の高さは子供にも遺伝する。稀人の子供が増えれば増えるほど国は豊かになると言っても過言ではない。稀人ではないルイードですら王妃から種馬扱いされて『英雄の子種プリーズ!』と言われているのだから、稀人の子種は更に価値があるのだ。
「ほ、他の冒険者達からも舐められないし……」
「相手によっちゃあ舐めプされるぜ」
冒険者たちが稀人に舐めたことをしないのは「今は弱い稀人でも鍛えたら化け物のように強くなる」ということを知っているからだ。強く成長した稀人に復讐されたら絶対勝てないので、機嫌を損ねたりしないように関わらないようにしていると言ったほうがいいだろう。
だが、街から街に流れる非定住型の冒険者は違う。基本的に一期一会なので「こいつが成長する頃にはどこか遠くの空の下だぜ」と稀人であろうと弱い相手は舐めてくる連中もいる。イケメン三人組がそのいい例だ。
「で、どうすんだお前。あれだけ散々稀人自慢してたのに、実は普通の人なんですとかバレたら、この街にいられないぞ」
「あんたにも負けて惨めだし、他の国に行こうかと」
稀人だったら王国が国外に出さないだろうが、ただの人であれば国外に行く手もある。基本的に根無し草の冒険者は、ギルド会員証さえ見せれば国から国に移動するのに苦労しない。どこの国も優秀な冒険者に定住してほしいので来る者は拒まないのだ。
「お前、その程度の実力しかない無級の分際で国の外に行って通用すると思ってるのか」
「う、うるさいな。そんなことは僕自身が一番わかってる!」
「冒険のイロハとか戦い方を教えてくれる師匠はいねぇのかよ」
「僕の村にはいなかった」
「……今のジョブは?」
「ジョブ?」
「いやいやマジかよお前。戦士とか魔術師とか僧侶とか義賊とか、冒険者としての特性のことだよ! 自分の基礎能力と素養から目指したい職業訓練を受けて、それを卒業してようやく冒険者になれるんだろうが! って、もしかしてお前、職業訓練も受けてなかったのか!?」
「……適当に戦士ってことで登録してた」
ルイードは天を仰いだ。
卒業証書や免許書があるわけではないので、職業訓練を受けてちゃんと卒業したかどうかは自己申告だ。むしろ、冒険者として生き延びたいのなら「卒業していないのに冒険者になる」なんて選択肢はありえない非常識なのだ。
「その話が本当なら今すぐ冒険者を辞めろって言うところだが」
あまりの驚きにすっかりウザ絡みモードから素になっているルイードは、真面目な低い声で続けた。
「お前がそこまでして冒険者になりたい理由って、なんだ?」
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