第二章:稀人アバンの物語
第11話 ウザ絡みは続くよ(本人に)
「おいおい、ここは素人のガキが来るところじゃねぇぞ。ミルクを飲んでとっとと帰りな……って、無視かよ」
【ウザ絡みのルイード】が新米冒険者たちに絡みに行く。だが、最近は絡んでも嫌がられるどころかガン無視される事が多い。今回の新米たちは目も合わせずシラ~っと受付嬢との会話を進めている。
「冒険者登録に来たのでよろしくおねがいします」
「か、かしこまりました」
受付嬢はルイードの役回りが分かっているので困った目線を送っているが、ルイードはそれ以上にウザ絡みする気力がなくなって、「いつも倒される役目のテーブルと椅子」に戻った。
「ちょっとルイードさん、最近なんだかウザ押しが足りないんじゃないですか!?」
ノームの女の子、シルビスが頭の角の先でルイードを突く。
「イテッ。うっせぇな。どうにも気が乗らないんだよ。ってか、ウザ押しってなんだ?」
「はぁぁ? ルイードさんは【どんなに無視されてもウザったらしく絡み続けた挙げ句、理不尽に暴力に訴えたのに負けるクソザコ】が仕事でしょ! ルイードさんが絡めないのなら私が行きますよ!」
「なんでお前が行くんだよ。この前だって逆に相手からウザ絡みされた挙げ句、胸揉まれて泣きながら逃げてたじゃねぇか」
「そ、それはそれ! 私はまだウザ絡みの練習が必要なんですよ、こんちきしょう!」
「おまえなぁ、親分にこんちきしょうとか言うなよ」
「あれ、なんだかんだ言いつつ子分その一として認めてくれたんです?」
シルビスが目をキラキラさせた辺りでルイードは「あーもう好きにしろよ」と会話を放棄した。
「というかなぁ、お前ほんとに子分になるのか? 俺と一緒にいるとまともなやつじゃないと思われて冒険者として終わるぞ?」
「はぁ……。ウザ絡みのルイードって二つ名持ってる人が真っ当なこと言わないで欲しいわぁ……」
こんなシルビスも「子分になる宣言」あたりはルイードに対して敬語だった。それが今は敬語と不躾な口調の中間あたりをウロウロしている。
年上ではあるが、表向きは尊敬できるような仕事(ウザ絡み)をしているわけではないルイード。しかしその正体は王国の英雄だから敬うように接すると「ガラじゃないからやめてくれ」と言われ。
じゃあウザ絡みのチンピラ冒険者と接するように不躾な喋り方をすめと「もうちょっと、こう、年上相手に良い具合の喋り方できない?」と困った顔をされる。
つまり彼女もルイードもどういう態度でいれば良いのかよく分かっていないのだ。
「それにしてもルイードさん、最近元気ないですね? やる気なさげなヒモ男路線に変えたんですか? 私が稼いで食わせてやってる感とか出すべきです?」
「そんな路線を狙った覚えはねぇし、お前ごときの世話にならなくても食っていけるわ!」
「ふふ~ん、アンニュイぶっても駄目ですよルイードさん。ほらほら、新米にウザく絡んで負けるのが仕事なんですからグイグイ行きましょうよ」
「俺はお前のウザさにびっくりだわ」
「私のウザ絡みはルイードさんにしか効かないみたいなんですよね───あれ?」
先程受付でルイードを無視していた新米たちは、無事に冒険者登録を終えたらしく依頼書を貼り付けたコルクボードの前に移動している。だが、そこで一悶着起きたようだ。
「おいガキども! 邪魔だ、どけ!」
「ちょっと! 僕たちが先に見てるんじゃないですか」
「はぁーーー? 無級が三等級の俺たちに楯突くってのかコラ!」
新米に絡んでいるのは先日ルイードの前から逃げたイケメン三人組のパーティだった。
最近この街に現れて、あちこちの女を口説いたりセクハラしたり新米イビリをしているが、冒険者として熟練者と認められた三等級なので、文句を言うやつがいない。俗に言う厄介者たちだ。
「ちょっとルイードさん! ああいう連中がギルドでのさばらないように毎日ウザ絡みして縄張りを主張してたんですよね!? 私達が知らないところであいつらの方が幅を利かせちゃってますよ!」
「そうなんだよなぁ。それが悩みで」
「はぁ!? 情けない! これは【ウザ絡みのルイード】の名折れですよ! ここは一つ【俺様の縄張りで何してやがんだこの野郎ども、ぶっ殺すぞヒャッハー!】くらいのことはカマしてきてくださいよ! それともお腹減って動けないんですか? やる気出すために私のおっぱい揉みます? あはははは!」
「……お前、ほんとウザさの才能ありすぎだよ」
ルイードが萎れている理由は簡単で、子分のシルビスの方がウザいので自分の存在意義を見失いかけているのだった。
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