第10話 ウザ絡みは今日もウザいフリをする

「おうおう、受付のねーちゃんに色目使いやがってこの野郎ども」


 ルイードがウザ絡みした相手は、最近このギルドに通うようになった三人組のイケメン冒険者パーティだ。彼らはギルドの受付嬢に対して「今夜空いてる?」とか「俺たちと食事でも」としつこく言い寄り、後ろに並んでイライラしている冒険者達を完全に無視していた。


「俺様の目の黒いうちは色目使ってんじゃねぇぞコラァ」


 ルイードがウザ絡みするとイケメンたちは顔を見合わせて「ぷふー」と笑い出した。


「なんだこのおっさん、きったねぇ格好しやがって」

「俺達に絡んでくるなんて命知らずかよ。俺達は三等級冒険者だぜ!?」

「てか、てめぇは受付の美女を自分のものだと思ってんのか? 身の程を知れよ」


 イケメン三人はルイードの胸ぐらを掴みながら受付から離れた。


『よし、これで冒険者の列は正常に進むし、受付嬢も仕事に専念できるな』


 目論見通り!とルイードはニヤニヤしている。自分の策が上手くハマると気分がいいのだ。


 いつもは新米にウザ絡みしてわざとボコられ、逃げるところまでが一連のパターンだ。そうすることで「自分たちでもやれるんだ」という自信をつけてもらうのが新米にとって一番の気付け薬になるのだ。


 だが、今回の相手は新米ではなく三等級の熟練者だ。こういう場合は「自分たちの等級に驕ることなく精進しないと死ぬ」という教訓を与えなければならない。つまり珍しくルイードがボコる側になるのだ。


『死なない程度にぶん投げてやるか』と拳をポキポキ鳴らすと、ルイードの後ろからシルビスがひょこっと顔を出した。


「こんにゃろうども!! この御方をどなたと心得る!? この東の冒険者ギルドで泣く子も黙る冒険者のルイード様だぞ!」


 彼女はルイードが認めたわけでもないのに勝手に「子分その一」を名乗りはじめ、【稀人】アバンとのパーティを解消してまでついてきたのだ。


 当然アバンからは「自分のパーティメンバーを引き抜いた」と恨まれたし、望んでいるわけでもないのに四六時中ついてくるから、ギルド受付のカーリーからの視線も痛い。


 そればかりか一部の冒険者たちは「ルイードに子分が!?」「しかも巨乳の女!?」と陰ながら大騒ぎしているらしく、その噂が王妃の耳に届くのが怖い。


 だがシルビスはお構いなしでイケメン三人組を罵倒し続ける。


「なにこのパーティ(笑)、戦士三人とか脳みそまで筋肉なんですかー? 補助役なしで冒険する三等級なんて、どこのギルドで育ったか知らないけど、よっぽど楽な仕事を回してもらってたのかなぁ~? あー、もしかして受付嬢口説き落としちゃった? この程度の顔の連中に落とされるなんて、その女も安い女だね!」


 絡み方がルイードよりウザい。だがイケメンたちも負けていなかった。


「は? なにこの巨乳。よく喋るおっぱいでちゅね~(笑)。どこから声が出てるのか揉んで確かめてみようぜ」

「ははぁん、この巨乳と毎晩やりまくりか? 随分いい思いしてるじゃねぇかよ、おっさん」

「その幸せを俺たちにも分かち合ってくれよぉ~ ギャハハハ」


 イケメンたちはシルビスの上を行くウザ絡みっぷりだった。


『いかん。このままでは誰がウザ絡みの冒険者かわからん』


 むしろ自分が一番ウザくないのではないかという自覚すらある。それは【ウザ絡みのルイード】という二つ名のブライドが許さない。


「やめろチンピラども! 他人の迷惑だってわからないのか!」


 面倒くさいことに【稀人】アバンが口を挟んできた。


「すっかり落ちぶれたなシルビス。こんなおっさんの手下……ビッチに成り下がって!」

「はぁ!?」


 アバンに哀れみの眼差しを受けたシルビスが本気で切れそうになったが、ルイードはその肩を引いて落ち着かせる。そうしている間にイケメンたちはターゲットをアバンに変えていた。


「なんだこら」

「てめぇまだ新米だな?」

「ふん、しゃしゃり出てきやがったことを後悔しな、坊主」


「聞いて驚くな、僕は【稀───ぶひゅる!」


 台詞を全部言う前にルイードの拳がアバンの横っ面をぶん殴っていた。


『前回拉致されて凝りたかと思えば、まだ自分から【稀人】を名乗るとは、こいつはアホなのか』


 一発でアバンを気絶させたルイードはイケメンたちに向き直った。


「邪魔者には寝てもらったぜぇ~。さぁ、おっぱじめようじゃねぇか」


 イケメンたちは顔を見合わせた。


 ルイードがアバンを殴り飛ばすまでの動きが全く見えなかった。三等級の彼らだからこそその強さが想定以上だと経験的に理解できたのだ。


「い、いや。ちょっと俺たちも騒ぎすぎたな、と」

「そそそそそうだな」

「あ、依頼をこなさなきゃ。早く行こうぜ」


 そそくさと出ていくイケメンたちを尻目に気絶したアバンに気を入れて目覚めさせる。


「………はっ。僕は一体。ん?あいつらは何処行った?」

「ふん。覇気だけで三等級どもを追い散らすなんて、やるじゃねぇか若造」

「え、僕が? ふ、ふふ。そうとも、僕はなんせ【稀……」


 ルイードがもう一度ぶん殴ってアバンの意識を失わせると「やっぱりこいつ馬鹿だった。私の選択は正しかったわ」とシルビスが嘆いている。


 ルイードはどこでもない遠くを見つめた。


 これからいっときはアバンを管理監督しつつ、いろんな新米冒険者共や「子分その一」のシルビスを教育しなければならない。少しばかり忙しい日々になりそうだったが、魔王討伐に比べたら天と地の平和な忙しさだ。


「やれやれだぜ」


 どことなく嬉しそうに言ったルイードが前髪をかきあげながら顔を綻ばせる。その顔を見たシルビスは「イケオジ顔いただき!」と嬉しそうにガッツポーズした。





(第一章・完)

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