第8話 ウザ絡みは無駄に戦わない
外壁の外に出た二人は、街の正面門から続く街道とは真逆の、帝国のある方面に向かって、草の絨毯を踏み歩いている。
「
「方向わかるの!? 足跡とか草でわからないんだけど!」
「冒険者は観察が命だ。ほれ、よく見ろ。草ばかりじゃなくて土があるだろうが。そこに足跡がある。複数人の、な」
「ほ、ほんとだ」
稀人の管理監督という高度な仕事をしながらも、ちゃんとウザ絡みする損な役回りで新人教育もこなす。他の誰にも出来ないルイードだけの仕事だ。
「ねぇ、稀人ってそんなに価値があるの?」
「知らずに自慢してたのかよ!?」
遥か遠い別の世界から「魔王を倒すために」送られてくる【稀人】たちは、誰もが高い身体能力を持ち魔力も多い。この世界の一般的な人々と比べて「ずば抜けて恵まれた資質を持つ」のが稀人だ。
が、あくまでも資質なのでちゃんと修練しないと宝の持ち腐れである。アバンはまさに鍛えられていない無垢な状態だと言える。
『あの程度の蹴りしか出せねぇのに、よくブラッディマングースを倒せたもんだぜ。もしかして勇者? いや、それはないな』
稀人の中には神の御業と思えるような特殊能力を授かる【勇者】と呼ばれる者もいるが、それは数十年に一度現れるかどうかのレアケースだと言える。
問題はルイードがそんな勇者たちと一緒に魔王を討伐しても、未だに稀人の来訪が止まらないということと、こちらに来たばかり稀人にあることないこと吹き込んで自国の「戦力」にしようと企む輩が絶えないということだ。
そういう輩から稀人たちを保護し、管理監督するのが「魔王すら倒した実力者」であるルイードの務めだ。
『てか、それくらい他の奴らに出来ない仕事をしないと、すぐ王侯貴族に取り立てられて種馬扱いされちまうんだよな』
王国の実権を握っている王妃が「貴様はいつになったら王家の女を抱くのか! 妾でも誰でも何人でもいいから抱いて子種を残すのが役目だぞ!」とヒステリックに言う光景を思い出してゾッとする。
「む」
ルイードが足を止めて前かがみになる。目をしかめているようだがボサボサの髪が邪魔で目の動きはシルビスにはわからなかった。
「徒歩で帝国まで帰るなんざ、随分脚自慢だなと思ってたが、なるほどな。やつら飛竜を用意してやがった」
遠くに見えるのは確かに貨物運搬用の飛竜だ。あれくらいの大きさがあれば十数人を籠に連れて運ぶことができるだろう。
「とりあえずここで待ってろ」
有無を言わさずルイードは地面を蹴った。
草に覆われた地面が爆発し、その土はシルビスの口に入る。
「うえっ! ぺっぺっ!」
何が起きたのか理解できなかったが、口に入った土を吐いている間にルイードは帰ってきた。
大きな袋を背負ったルイードは、その袋を開けて中に猿ぐつわされて気を失っているアバンがいることを確認すると、当然のように袋を閉めた。
「ちょ、なんで閉めるのよ!? てか今なにをやったの!」
「あいつらが飛び立つタイミングでコレを奪って戻ってきた」
上空から凄い怒鳴り声が聞こえてくる。飛翔した飛竜が抱えている籠の中からだろう。何を言っているかはわからないが、とにかく怒鳴っているその声は、シーマに違いない。
「一度飛ぶ体制に入った飛竜は止まらねぇからな。奪い返すには丁度いいタイミングだったぜ」
「な、なんか信じられないくらい凄いことをされた気がするけど、あの連中は飛んで行っちゃったわよ? あんたなら捕まえられたんじゃないの?」
「あぁ? 犯人を捕まえろって依頼じゃなかっただろうが」
「え」
「俺が受けた依頼はアバンの捜索と奪取、そしてオメェの同行だ」
「そ、そんなぁ」
「追加依頼はギルドにどうぞ。俺は受けねぇけどな」
ルイードは軽々とアバンの入った袋を背負い、街に戻る道を歩きだした。
「こいつ、ほんとに何者なのよ」
シルビスは理解外にあるルイードの強烈な頼り甲斐と、一瞬見ることができた精悍な顔を思い出して、思わず頬を染めた。
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