第4話 ウザ絡みはニチャニチャしていない
異世界からやってきた【稀人】がこっちの世界の何者かに拉致された。しかも自分がその主犯と思われている。この状況にルイードは頭が痛くなった。
「あんたが命令して下っ端にやらせたんでしょ! アバンをどうするつもりだこんにゃろう!!」
完全に決めつけにかかっているこの若い女はノーム種だ。ノーム種は頭に巻き角があり背が低いが、女性はやたらと胸がでかい。他の種族がノーム種の女をからかう時は「乳羊」とバカにするが「妻にするならノームの女」と謳われるほど甲斐甲斐しく尽くすことでも有名だ。
喋るたびに上下する彼女の胸元に目が行かない男はいないだろう。ルイードも同様だ。この突然変異のように育った部位は、カーリーのようなスタイルの良いエルフ種では絶対にお目にかかれない代物なのだ。
甲斐甲斐しく尽くす印象がまったくない目の前の女は「私の胸を見ながら喋るなクソエロオヤジが!!」と喚いている。彼女は猪突猛進して巻き角で刺してくるタイプだろう。
「おいおい、口が悪いなお嬢ちゃん。なんのことか俺にゃあ、まったくわからねぇなぁ~(棒)」
まるで「知ってるけどすっとぼけている主犯」みたいな演技しているルイードだが、本当に知らないので若干目が泳いでいる。だが、ノームの女はそんな演技を全く見抜けていないようだ。
「う、うそつけ! 知らないふりしてるだけでしょ!」
「どうかなぁ~? あんたが俺とイイコトしてくれるってんなら思い出すかもなぁ、ぐっふぇふぇふぇふぇ(棒)」
その様子を遠巻きに見ていた他の冒険者達は、心の中で『ルイードさん、演技下手すぎだろ』という共通認識を持っていた。その棒読みのセリフに見ているこちらが恥ずかしくなって俯いてしまうくらいだ。
だがノームの女からするとそんな彼らの行動は「ルイードとかいうおっさんがすごい悪者で、関わり合いになりたくないから無視しているにちがいない」と映っていた。
「こんにゃろう! 私が衛兵に突き出してやる!」
ノームの女は息巻いてルイードの太くたくましい腕を掴んだ。だが、小さな女の手ではルイードの腕を両手でも掴みきれていない。
うぎぎぎと腕を引っ張るがびくともしないルイードを、なんとか動かそうと巨大な胸で腕をはさむような姿勢になった時、ギルド受付からエルフ種のカーリーがやってきた。
ノーム種と比較すると慎ましい胸元だが、それでも女性なら誰もが羨望するくびれたプロポーションは見事なものだ。
「おやめください、無級冒険者のシルビスさん」
ルイードから見ると心なしか怒っているように見えるが、カーリーは全く表情を変えていない。
ギルドの受付を統括している彼女は冒険者たちからその無表情さ故に「鉄の女」と呼ばれている。表情だけではなく、絶対にギルド規約を曲げないことや期日に厳しいことでも恐れられているのだ。しかし、その裏で彼女の美貌と恵体に憧れる者たちが後を絶たないのもまた事実である。
「な、なによ」
わざわざ無級を強調されたことでノームの女───シルビスは憮然としたが、そんなことはお構いなしにカーリーは彼女をルイードから引っ剥がした。
「無級のあなたは疎いようなのでご忠告いたします。まず、冒険者が行方不明になっても衛兵は動きません。冒険者は根無し草で身元もはっきりしていませんから、探すだけ無駄なのです。それに、こちらのルイードさんが犯人である証拠もないのに突き出したら、逆にあなたが虚偽告訴罪に問われる可能性もありますよ」
「むううう! そこまで計算してこんなところでニチャニチャしてたのかこんちくしょう!!」
シルビスに睨まれたルイードは、麗らかな午後のひとときを楽しんでいただけなのにニチャニチャと言われるような顔をしていたのだろうかとショックを受けた。
カーリーはチラチラとルイードの顔を見ながら話を続けた。
「ここは冒険者ギルドです。人探しや拉致からの奪還を得意とする冒険者もいるので、アバンさんを救出したいのであれば依頼することをお勧めします」
「けど! こいつが絶対犯人なのに!!」
「絶対、の確証があるのですか」
「今日、私達にウザ絡みしてきたじゃん! アバンに蹴り飛ばされた逆恨みでしょ!!」
「確証は?」
「だから今日絡んできた……」
「それはそれです。アバンさんを連れ去った連中というのが、こちらの方の指示だという確証はあるのですか?」
「あ、う……」
詰められたシルビスは言葉をつまらせた。
『おいおいカーリー。俺への援護射撃にしては当たりが強いぞ。俺は嫌われ者の厄介な冒険者なんだから、あまり肩入れするなよ』
シルビスに気付かれないように、声を出さずに唇をニチャニチャ動かして意図を伝えようとしたが、カーリーは全力でルイードを無視し、シルビスが涙目になるまで冷淡に詰め続けた。
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