第2話 ウザ絡みは強いぞ!

 ウザ絡みのルイードは、ゆっくりギルドの裏口に回った。


 そこには受付嬢たちを統括しているエルフ種の美女、カーリーがいつものように待っていた。


「おつかれさま」


 彼女は粗暴な男より少し背が低いが一般的な女性からするとかなりの長身で、スタイルも抜群。男好きのする体つきをしているが、冷淡で無表情なその美貌が「手を出したら死ぬかもしれない」と思わせる。


「あいよ」


 先ほどとは打って変わって愛想のいい笑顔で応じたルイード。その柔和な雰囲気をもしも先程のイケメン冒険者たちが見たら、あまりの変わりようにびっくりすることだろう。


「どうだったかしら、さっきの自称【稀人】は」

「どうもこうも、ありゃあ無級から五等級に上がるまで半年はかかるな。それにいっときは簡単な依頼だけ任せといたほうが良い。調子に乗ると死ぬタイプだ」

「勇者の素養なしってことね」

「まぁ最近の【稀人】には碌なのがいないが、それだけこの世が平和だってことだ」

「それでも彼───アバン君はここに来るまでの間に一人でブラッディマングースを倒してきてるわよ?」


 ブラッディマングースは、冒険者ギルドが指定する四等級討伐対象の魔物で、同じく四等級の冒険者パーティなら勝利し得るがその勝率は半々、と言われている相手だ。


「ブラッディマングース程度で良かったな。前に来た稀人の時は一等級討伐対象のネガタイガーだったから焦ったぜ」

「そうね。あなたが助けてくれなければ貴重な【稀人】がこちらに来てすぐ殺されるところだったのよね。お礼を言うわ、ルイード」

「それは前回聞いたよ」


 苦笑しながらポリポリと頭をかいたルイードは、照れ隠しに野暮ったい前髪をかきあげた。


 普段は隠れているルイードの精悍な横顔を見て、カーリーは少しだけ頬を染め目元を垂らしたが、当人に気付かれないうちに元の鉄面皮に戻した。彼女からすると新米のイケメン冒険者よりも、渋くて整ったルイードの顔のほうが好みだったし、このギルドの受付嬢たちも完全同意することだろう。ルイードはイケメンシブオジとして彼女たちからの人気が高いのだ。


「ウザ絡みのルイード。損な役回りよね」

「ん?」

「魔王討伐したんだから、爵位をもらって悠々自適の隠居生活も出来たでしょ?」


 王国の今代最強である冒険者ルイード。


 彼を中心とした勇者パーティによって魔王が討伐されても尚、異世界からは勇者である【稀人】が転移してくる。


 そういった異世界人がこちらの常識がわからず苦労しないよう、またはこの世界に混乱を招いたり自分の力に溺れて悪事を働かないように、管理監督するのが魔王討伐を成した彼の役目だった。


「爵位なんかもらってもなぁ。あんなギラギラパツパツの服を着て化粧して社交界に行くようなタイプに見えるか」

「王国から支給される給料だけで不労生活が出来たでしょ?」

「魔王討伐で金なら腐るほどもらってるし、仕事も何もしないなんて、ヒマすぎて死んじまうぜ」

「ふーん? 王侯貴族から若い女をあてがわれたりもしたでしょ? どこの家も自分の家にあなたの優秀な血を取り入れたいはずだし」

「こう見えて俺は普通に暮らしたいタイプなんでな。そういう家とつながると、すぐに政治のコマにされるだろし、面倒だ」

「けど美女もいたわけでしょ?」

「あんなもん、みんな化粧で顔を隠……って、今日はやけに突っ込んでくるなぁ?」


 カーリーは口が過ぎたと思ったのか、少し目を泳がせて咳払いした。


「今日の一行パーティ、なにかと問題を起こしそうなので、いつもどおりよろしくおねがいしますね? 【ウザ絡みのルイード】さん」

「おう、任せとけ」


 陽光に照らされたルイードの笑顔は、どんなイケメン冒険者たちの笑顔も霞むほどカーリーの胸をキュンとさせたが、さすが受付嬢を統括する立場にあるだけあって、彼女はそれを顔に出すことなく舌先をちょっと噛みながらデレるのを堪えた。

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