ウザ絡み冒険者ルイード
紅蓮士
第一章:ウザ絡みの冒険者
第1話 初心者にウザ絡みしてくる冒険者
「おぅ、にいちゃん。いい女連れてるじゃねぇか」
背は高く、筋肉質で、粗暴な身なりの冒険者が太く低い声で言う。ボサボサの髪は目元を隠し、路地裏で昼間から飲んだくれて倒れていたとしても違和感のない風体だ。
それを受けて若くて意思の強い目をした「いかにも新米のイケメン冒険者」は憮然とした顔をするし、彼の後ろにいる二人の女達は危険を察知してイケメンの背中に張り付く。
その様子を見て粗暴な冒険者は「よぉ、ネーチャンたち。そんな青っちょろい若造より俺のパーティに入りな。手取り足取り、夜の作法も教えるぜ! ヒャーハッハッハッ」と下品に大声を出す。
すると当然イケメン初心者冒険者はこう言う。
「僕の仲間に手を出すな」
粗暴な冒険者はその返しに満足したように少し表情をほころばせながらも「言うじゃねぇか若造」と余裕ぶった振りを続ける。
「てめぇ新米だろうが。先輩冒険者の言うことは聞くもんだぜ? ああん?」
イケメンは誰か助け舟を出してくれないのかとギルドの中を見渡すが、助けに動こうとする者はいない。仕方なく受付嬢の方を見るが、淡々と「冒険者同士の諍いにギルドは関知しません」と返される。
イケメンは自分の反応を待つように待機している粗暴な冒険者に向き直って「やれやれ」と声に出す。
「おっさん、怪我したくなかったら僕たちに関わらないでくれ」
粗暴な男は『ふむ、このセリフをきっかけにするか』と一呼吸置いて「てめぇ、生意気な!」と腰の短剣を抜く。
この短剣は、素人が一瞬見た程度ではわからないように巧妙に刃を潰してある。万が一当たっても大怪我させることはない代物だ。
「アバン、やめよう。このおっさんが死んでしまうよ」
「そうよアバン。【稀人】のあんたは強いんだからさ……」
イケメンの後ろにくっついている二人の女は、口を揃えてイケメンの強さをアピールする。
「大丈夫だよ、手加減するから」
イケメンは白い歯を見せながらニコッと笑い、素手で粗暴な男と対峙した。
『稀人ねぇ。こいつの性格は分類Cってところか。さて実力はいかに』
粗暴な男は普段は絶対にしない舌なめずりして見せて、短剣を不必要に大きく振り上げた。
「死ねやぁぁぁぁぁぁぁぁ」
この程度のことで殺そうとするなんて、どんだけ短気なんだよと自分のセリフに内心苦笑しながら、粗暴な男は刃の潰れた短剣で襲いかかる。
「!」
イケメンは粗暴な男が隙だらけにしている腹に向かって蹴りを繰り出した。
『おいおい、この近距離で足技かよ。初動から攻撃までの動作が見え見えだってぇの……』
そう思いつつも粗暴な男は蹴られ、タイミングを合わせて自分で床を蹴って勢いをつけ、後方に目一杯跳んだ。
蹴られて派手に吹っ飛ばされた風に見せた粗暴な男は、誰も座っていない「いつも倒される役目のテーブルと椅子」を薙ぎ倒しながら倒れ、起き上がりながら驚いた顔をしてみせる。
「こ、こいつ、強ぇ……! ち、ちくしょう、おぼえてろよ!」
そう捨て台詞を吐き捨ててギルドの正面玄関に向かってほうほうの体で逃げようとする。
「まったく、弱いおっさんだ。ねぇ、あの人はなんて名前?」
アバンと呼ばれたイケメンは鼻で笑いながら受付嬢に尋ねた。
「はい、【ウザ絡みのルイード】と呼ばれている方です」
いつものように淡々と受付嬢は応じる。
「ウザ絡みね。確かに」
アバンが言うと後ろの女達が笑う。
その三人組をジト目で睨んでいる受付嬢を横目に「おいおい、その顔やめろよ」と声に出さずに唇だけを動かして指示を出した粗暴な冒険者───ウザ絡みのルイードは、痛くも痒くもない腹を擦りながら冒険者ギルドから飛び出した。
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