ギブインの民

 ゆっくりと中を移動しながら、実質拉致同然扱いになるだろう死体の状態で連れてきた軍人達の認識を負かし傍らに陣取る。

 そんな彼らに森田は一時間の時間を与えた。

 その限られた時間の中、さらには禄に情報を与えられない状況、彼らはまず人員の把握から行っていた。

 そして、佐官位にあたる人員で話し合いを行い始める。


 その傍らで軍人達が話し合う様を眺めながら、森田は負かし加減を見ていた。

 程よく従順で、程よく反対意見を述べ、程よく信仰心があり、程よい自信の民とすべく。

 彼らの会議の内容を見聞きしながら、反応を確かめながら少しずつ少しずつ負かしていった。

 一時間後、じっくりと調整を繰り返し満足のいく結果が得られると、話し合いが終わるのを待ち再び連れてきた彼らの前に姿を現す。


「落ち着けたかな?」

 仄暗い暗闇の中から徐に姿を現しながら森田は声を掛ける。

「はい」

「それは良かった」

 そんな森田と対話を行っているのは、解放戦線東方面軍司令官ヴェンク中将。

 彼が代表して森田と話していた。

「では、まずはここは何処かというところから話をしようか」

「宜しく御願いします」

「ここはルク・ディア大陸南東に広がる山脈地帯。その地下に存在する私が築き上げた地下世界だ。

 そして、君たちは一度死んでいる。その状態の君達をここまで運び蘇生させた。」

 ここに集められた軍人達から軽く息を飲む気配こそ伝わってくるものの、既に負かされている為にそこまでの動揺は無い様子。

 森田の言葉がすんなりと何の抵抗も示さずに浸透する者が殆どの様だ。

「君達が元いた組織からすれば拉致したという形になるが、捜索されることは無いだろう。

 私が君達を選ぶ際の基準として、著しく遺体の損傷が激しい物を選んだからね。

 今頃は作戦中の行方不明者扱いだ。時間が経てばそのまま戦死者判定が下されると思う」

 森田は様子を伺いながら、更に負かす必要性があるかどうか判断する。

 彼らの反応から特に問題ないだろうと話しを続ける。

 その判断に有する間を、恰も説明を理解したかどうか確認する様な素振りを見せながら持つ。

「さて、そんな訳だが、君達に何を求めてこんなことを行ったのか?そこが気になるところだろうと思う。

 周囲を見てくれ。」

 周囲へと視線を彷徨わせる軍人の視線。

 注意深く周辺の確認をする様は、正しく戦場で培われたそれである。

「地下世界といっても、ここが出来てからまだ間もなく。

 知性を有した存在が未だ誕生しなくてね」

 中空を泳ぐ不可思議な光景を見せる原始的な生物達。

 甲冑を身に纏った様な姿の甲冑魚や、化石でしか観たことが無い様な外見の生物。例えばバージェス動物群と呼ばれる様な巨大な生物達がいた。

 それらを観て、「なるほど」とそれぞれ思う軍人。

 目の前の謎の存在が言う様に、この場所の生態系がまだまだ若いと言うことを理解する。

「一応生物は生まれて進化を続けている訳だが、人との会話が恋しくなってね。

 君達の様な死者を連れてきた訳だよ」

 人の身の事など考えないその所業はまさに神の如き傲慢さか。

 将又はたまた他人事の気持ちなど理解出来ない只の人か。

「そんな訳でどうだろうか?

 一度は死んだ身、ここでもう一度暮らしてみないかい?」

「私個人としては問題はありません」

「それは良かった」

「ただ、そうで無い者も居るかも知れません。そういった者達はどうされるお積もりでしょうか」

「死体に戻して元いた場所に返すだけ」

「そうですか」

「個別の判断に任せるから、死にたい人は今申し出てくれるかな?」

 黒色の瞳で周囲を見回しながら反応を待つ森田。

「死にたい人は居ない様だね。

 では、これからよろしく頼むよ。ヴェンク」

「はっ!宜しく御願い致します。」


 こうして、傍らで都合の良い様に返答が来る様に負かし加減を調整したお陰で、森田は自分にとって都合の良い民を手に入れた。

 程よく従順で、程よく信仰心篤く、程よく意見を述べる。

 そんなギブインの民が生まれた。

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