第三項 神たる条件は文化と信仰

死を経験した者達

 戦争が終結し、奴隷解放戦線が緩衝領域として機能する様、軍事力を置けないくする条約が締結される頃。森田は戦場を離れ自らが生み出したギブイン達が住まう地下世界に戻ってきた。

 負素によりその存在を希薄にされ、あたかも無い物として扱われている死体達は、負素に拘束され森田の周囲を漂いながらここまで一緒に持って来られている。

 ミチズを生み出す為に用意した地下空間にて、存在の希薄化を解き死体を現出させると、そこには一千程の死体が綺麗に並べられ置かれていた。

 綺麗にとは言っても、戦場から運んできた遺体だ。

 その状態は酷い有様、それもそうだろう、森田が遺体の確認が困難な状況だと判断した場所から持ってきた物ばかりなのだから。

 だが、森田にとってすればそんな事は関係ない。

 生きている状態へとする為に今の状態を負かせば良いのだから。


 ルク・ディア戦役が始まり終わるまで凡そ十五年。

 最初は解放勇者が居た都市の奴隷狩りへの抵抗が初まりだ。

 一地方の都市国家だったこの場所で、エルフが行っていた奴隷狩りに対して初めての防衛成功。そこから始まる反エルフ反隷属の機運。

 徐々に広がる防衛網と勇者が広める様々な技術。

 徐々に奴隷狩りの成功率が低下していくエルフ達。

 そんなエルフを追い詰め囲う為の奴隷解放戦線は、エルフが住まう樹海を囲う山脈を取り囲む様に展開されていた。

 山脈の裾野を闊歩する対空兵器を積み込んだ多脚戦車と、それを運用する為に必要な設備を内包する拠点が彼方此方に建造され、山の麓は軍事拠点だらけとなった。

 自然豊かだった場所は切り開かれ、物資輸送の為に道路が整備され、大規模輸送の為に線路が引き魔力を動力源とした列車が走り始める。

 長距離の観測を容易にする為に、航空魔術士と呼ばれる兵科が誕生したりもした。

 迫撃砲による砲撃に、弾着観測による命中精度の向上は親国アルプへと甚大な被害を齎していく。

 砲弾の雨による樹海焦土作戦だ。

 これにより森の恵みを失ったエルフは困窮する。

 強力な個の力を保有するエルフではあるがその数は少ない。

 それ故に彼ら自身が住まう樹海全てをカヴァー出来ないが故の作戦であった。

 奴隷解放戦線による包囲と、そこから放たれる樹海を焦土と化す驚異の弾雨。

 散発的な抵抗こそ成功させるエルフ達だったが、戦線の完成後に降伏の決断をする迄それ程の期間を要さなかった。

 国父ルルを押さえる為に出陣した解放勇者の損失こそあったものの、ルク・ディア戦役は対エルフ側の圧倒的優位性を確保して終結した。


 そんな戦争を渡り歩いてきた森田。

 奴隷解放戦線が構築される頃より秘密裏に現地に入り死体を見繕ってきた彼は、停戦条約締結を見守る事無く、この暗闇に支配された地下世界に帰ってきた。


 虐げられる恐怖、奴隷として連れ去られる恐怖からの脱去を掲げて命を投げ打ってきた英霊が、冥界へと誘われるが如くこの地へと運ばれる。

 そして今、そんな彼らを復活させようと、森田は死を負かす。

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