知らぬ間に
この世界に来て二十年。
ほぼほぼ地下の発展を進めるべく動いていたけれど、外では大変な事になっていたんだな。
周囲の惨状を眺めながら、まるで爽やかな風が流れる野原の如く歩いている森田。
認識を負かせ、飛び交う砲弾を負かせ、悠々と歩いている。
そんな中、甚大な破壊力を秘めた魔術が炸裂する。
エルフ側から投射された魔術である。
森田は遠くで発生した爆心地へと向かっていく。
良い感じの死体あるかな?
魔術に因る大規模な爆発により周囲は惨憺たる状況。
もはや個人を特定するのが困難な状態となってしまっている人だったものの残骸が、炭化している状態で転がっていた。
そんな中、爆発の影響で未だ高温となっている場所に森田は居た。
この程度かな。
炭化してバラバラになった死体を適当に見繕い採取していく森田。
後でこの現場に到着した此処に有った死体の友軍が駆けつけ、調査を行ったとしても解らない程度の量の死体を携えて、彼は次の場所へと歩いて行く。
その場所の共通点は一つ。
死体の状態が著しく破損している場所ばかり。
遺体の確認が困難な程の惨状を晒している場所を見つけては、死体を回収していった。
そんな森田の頭上を高速で飛ぶ人影が一つ。
解放勇者か。
若いね、表情が。
森田は懐かしむ。
過去の転生で生きていた世界で、必死に戦っていた頃の事を。
そして、いつからかそんな必死さとは無縁な自分になったしまったその魂の生を。
そんな感情を抱きつつ彼は死体を見繕い続ける。
親国アルプの神、国父ルルが業を煮やして前線に出てきた。
その一報が解放勇者の元に届けられてからの動きは迅速だった。
ルルとまともに相対せるのは解放勇者のみと判断されていた為、この情報を得た解放勇者は急ぎ前線に飛空魔術を使用して急行。
上空で戦闘が始まった。
ルルは魔法の領域まで突き詰めた隷属の力を行使する事が出来る。
これに抵抗出来るのは異界渡りを体験し、異能を保持している解放勇者のみ。
解放勇者はルルの隷属魔法に見事抵抗し両者は戦闘を開始する。
ダンジョンから産出した資源を用いて制作された数々の魔術道具を駆使し、ルルと戦闘を行うも解放勇者は徐々に劣勢に追い込まれていく。
国を興し国父としての責務に明け暮れるルルではあるが、昔は自らの力でこの世界を生き抜いてきた存在。
そんな悠久の経験の前に解放勇者は堕とされた。
複数の属性を含有する魔力に飲まれ散った解放勇者の身体は戦後見つける事が出来なかった。
しかし、この戦闘で手傷を負ったルルは、傷を癒やす為前線を離れる事になった。
勇者と神の離脱。これにより戦争は停滞するかに見えた。
だが、勇者の働きに奮起した対エルフ連合の軍隊と、神が傷を負うという様を観てしまった信者では、その後の動きがそれまでとはまるで違ったのだ。
山脈を越えられ本土への侵攻こそ防いでいたエルフ達だったが、長期にわたる戦争継続と神と敬う国父が傷を負う事柄により次第に追い詰められていく。
そして、勇者が敗北を喫してから数ヶ月後、親国アルプは戦争終結を打診。
ヒューマン・ビーストマン・ドワーフの連合は奴隷解放等を条件に提示。
親国アルプがこれを受理した事により、長きに渡る奴隷狩りの悪夢からの脱却に成功したのだ。
そんな最中、未開の地の地下深くで新しき神が誕生していたとは、戦争の当事者達は誰一人として思っていなかった。
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