ミチズに道を
森田は今滞在している山、認識範囲にある化石を次々とギブインへと死を負かし増やし続けていた。
その結果として得られたのは、地下に出来上がったトンネル内の中空を浮かび飛ぶ様に泳ぐ古代魚達の姿や、同時期に繁栄していた様々な動植物である。
彼らが生きていた時代であれば、ここは海の中だったのだろう。
その当時の再現が、山の中を移動する為負かす事に因って造成された、格子状に造られたトンネルの中だというのが、何とも不可思議な光景と印象を植え付けるものである。
この辺りに生きている動物なり植物なりはいない様だ。
山を下るか。
下るとは言っても、趣味よろしく楽しい楽しいハイキング気分での登山の帰り道ではない。
山の中を通る地中を、重力の負かし方を和らげての落下である。
さて重力と一言で言えば簡単だが、森田が行っている負素を利用したこの移動術、その制御は複雑だ。
この惑星の引力と自転で発生する遠心力、さらにはそこに公転で発生しているベクトルやら、他の惑星からの影響なども考慮しなければいけない。
そう言った訳で、森田はこの移動法をするにあたり気付いている事があった。
この世界…、少なくとも俺に影響を与えうる範囲にある重力を発生する対象が、この惑星と衛星、それに恒星しかないというのは本当に楽で助かる。
と、そんな事を思いながら、重力を制御しながら落ちていく。
この世界は非常に小さいのだ。
この惑星と衛星と恒星、その程度しかない世界。
森田がある程度落下し標高を下げていくと、地中に生きて蠢いている生命を発見。
この世界に彼が転移してきてから、始めて認識した動物であった。ギブインを除く。
さて、その動物は何かというとミミズである。
この世界のこの場所にいるミミズ、他の世界のミミズと同様の生態を保持している。
その為、今森田が居る場所の土壌は肥えている。その為地表部分では豊かなとは言いがたいかも知れないが、植生が広がっていた。
これよりさらに標高を下げていけば、他の種の動植物も認識範囲に捉える事が出来るだろう。
それはそれとしてまずは目の前のミミズ。
森田はこのミミズをどうするのか?
地中を本拠とするにあたっての問題点、それはどうやって移動する為のトンネルを造り、そして維持するのか。
その問題点をこのミミズに託す事にすると判断した様だ。
今までと同様に負素の力を持ってして負かし使役下に置く。
そして、フォルビキュラの時同様に手を加えていく。
まずは大きさ。このミミズ本来の大きさのままではとてもではないが森田が通れるだけの空間を持つトンネルは作れないだろう。いや、作れなくはないだろうが実用的ではない。
まずは大きさを替える。変えるでは無く替えるだ。
遺伝子情報を負かす。今の形で納めるべく機能している遺伝子情報を負かすのだ。
それと同時に実際に成長をさせていく。
遺伝子情報を弄る事により大きくなる事に対応出来るだけの下地が出来ている為、負素を注入して巨大化させても問題なく活動出来る。
さらに手を加えていく、トンネルの壁の強度を上げる為にミミズから分泌される体液の粘度も調整していった。
その結果生まれたミミズは、太さ三m長さ六十mもある巨大なミミズであった。
そんなミミズの体表は非常に粘度の高い体液に覆われており、体表を離れ乾燥する事により非常に堅くなる。
このミミズが地中を進むだけで直径三mの強固な壁を保有したトンネルが出来上がるのだ。
また、移動しトンネルの壁を補強できるため維持管理も容易である。
名前は、道を作るミミズでミチミミズ…ミチズにしよう。
ミチズを生み出した事により地下世界を縦横に走り回る地下道が造成されていく。
土を食み土中を移動しながら壁を強化する。
そして食した土を固め排泄、ミチズが食す事により押し固められた土は様々な用途に使用される事になる。
この押し固められた土は、後にミチズ石またはミチズ鉱石と呼ばれる様になり、鉱物資源として重宝される様になるのだが、それはまだまだ先の話。
さて、そんな巨大なミチズを生み出す為に、森田は自身の力で周囲に巨大な空間を生み出していた。
今いる山に地下通路を作り維持する為に数匹のミチズをこの場所で生み出すと、森田は周辺の探索へと向かっていった。
そんな場所にも深海の海を泳ぐが如く古代魚達は飛んでくる。
地中ではミチズが土を食むガリガリともゴリゴリとも音が反響しながら、古代魚達が水の流れる音では無く空を切る音も流れている。
元々地下世界は人が思うよりも賑やかであったのだが、森田の出現によって生み出されて行く様々なギブインの活動によってその様は大きく変わっていくのだった。
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