第5話ダイヤモンド創作

 老人の後に続きながら、視線の端に薪の束が眼に入った。

 煮炊きのための燃料か、寒さをしのぐための燃料だろう。

 この城塞都市は寒冷地帯にあるのだろうか?

 そうだとしたら、燃料代を確保するだけでも大変だ。

 それに、日本の貨幣に価値があったとしても、使えばなくなってしまう。

 何とか金を稼ぐ方法がないかと真剣に悩むが、この世界の常識が分からないから、どのような方法が使えるか考えようもない。


「ここだ、入れ」


 老人に言われて入ったのは、人通りの全くない裏路地に建つ石造りの家だった。

 じめじめとした湿気が充満し、その湿気には糞尿の悪臭がする。

 俺の知ってる、家の窓から道に糞尿を捨てる欧州の習慣通りだ。

 こんな場所で暮らすのは絶対嫌だが、自衛方法がなければ仕方がない。


「そこに座ってくれ」


 老人が視線に示した先は、安っぽい小さなテーブルセットの椅子だ。

 先程の巨漢露天商が座れば、一瞬で壊れそうな、古くて安っぽい椅子だ。

 老人は俺をドアの奥にある椅子に座らせて、自分はドア側の椅子に座った。

 俺を逃がさないつもりのようだが、何か武芸の心得があるのだろうか?

 それとも、俺が弱々なのを見抜いているのだろうか?


「さっきの硬貨を見せてくれ」


 俺は無言で指示に従い、五十円白銅貨を一枚だけ手渡した。

 五十円白銅貨を調べる老人の視線は、硬貨を射抜かんばかりに激しく真剣だった。

 まあ、この世界がどれほど地球の歴史に近いかは分からないが、地球に近いならニッケルはまだ精製できていないはずだから、それなりの価値はあるだろう。


「ちい、銀ではないようだが、銀よりも光り輝いてやがる。

 普通の方法ではどれほどの価値があるか分からん。

 これは魔法で調べるしかないようだな」


 そう言うと、老人は魔術の呪文らしい言葉を唱え始めた。

 これでこの世界に魔法がある事がはっきりしたが、だったら俺にも絶対に確かめたいことがあるのだ。

 俺は自分に念動力があるのか確かめようと、後ろに置かれている薪を呼び寄せた。

 言葉で来い言ったのではなく、引き寄せようと思い念じたのだ。


 俺は賭けに成功した、見事に薪を一本右手で握ることができた。

 次に確かめたかったのは、ダイヤモンドの生成だ。

 桁外れの高圧力と高熱を材木に加えれば、理論上はダイヤモンドを創りだせる。

 普通ならどんな世界でもダイヤモンドには不変の価値がありはずだ。

 俺に魔力があり、ダイヤモンドを創り出せれば、孤児院の運営に困る事はない。

 そして俺は賭けに成功した、一瞬で手の中から消えた薪は、ダイヤモンドになったいたのだ、これで子供たちを助けることができる。

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