第2話恐怖耐性と勇気付与
「おい、やめろ、許してやれ、まだ小さい子供じゃないか」
「やかましいわ、俺だってこの商売に生活がかかっているんだ。
家には俺の稼ぎを待っている女房子供がいるんだよ。
毎日毎日商売物を盗まれては、黙っていられないんだ」
露店主の言葉は、俺の胸を激しくえぐった。
そうだ、その通りなのだ、この世界はとても貧しく生きるのが厳しいのだ。
下手に誰かに情けをかけたら、自分どころか家族まで飢えることになるのだ。
それを分かっている心算で、実際には分かっていなかったのだ。
「すまない、余計な事を言った」
くそ、糞、くそ、糞、腐れ女神が、全部お前が悪いんだ!
能力やスキルを与えたと言っていたが、もっと役に立つ能力とスキルを寄こせ。
無尽蔵に金や食糧を生み出す能力やスキルがあれば、ここで子供を助けられた。
せめて金や宝石を持たせてくれていれば、子供も助けられ、商店主に損をさせる事もなく、上手く事が収まっていたのだ。
そう思って無意識にポケットを探ったが、予想通り何も入っていない。
ほんの少し期待したが、腹立たしいほどの予想通りに、全く気が利かない。
読んだことになる小説の能力には、他人の物を盗むものや、周囲の貴金属を集めるものがあったが、俺は他人の物を盗むのは嫌だ。
いや、生きるために食べ物を盗まなければけない子供を、貶めている訳ではない。
盗まなければ死んでしまう状況なら、俺もたぶん盗んでしまうと思う。
でも、情けない話、他人のために自分の矜持を捨てて盗みができるかといえば、できないと思う、いや、現実盗みをする気にはなれない。
薄情者の本性が露になって情けなくなる。
そういう意味でも、あの腐れ女神が大嘘つきだというのが分かる。
俺が本当に子供好きで生来の優しい男なら、罪を犯してでも子供を助ける。
だが俺は、自分の矜持、プライドを優先してしまう。
言い訳をさせてもらうなら、自分が誰かから何かを盗むことで、その誰かが飢えて死んでしまう可能性があると、思ってしまうのだ。
本当に思い返せば思い返すほど、あの腐れ女神の事が憎くなる。
金や食糧を生み出す能力やスキルさえあれば、俺にだって子供が救えたのだ。
せめて、俺が死ぬ前に貯めていた、老後資金を引き出す余裕をくれていたなら、それでこちらで有利に換金できるモノを買って持ってこれたのだ。
全ての貯金を金や銀に換金して持ってこれたら、いや、定番の胡椒を買って持ってこれていたら、この子を救ったやれたんだ。
そう思って無意識にもう一度ポケットを探ったが、何もない、本当に何もない。
だが、そう、あれが、あれがあるのではないか?
あれならば、少しは金に換えられるのではないか?
何時の背中に背負っているバックパックの中にあるアレなら、この子を救えるかもしれない!
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