異世界孤児院
克全
第1話身勝手女神
「よくぞ不幸な幼い子供を助けましたね、ほめてあげます。
その尊い行いに御褒美をあげます、感謝しなさい。
お前は異世界が好きなようですから、異世界に転移させてあげます。
ああ、心配しなくても大丈夫ですよ、スキルや能力はつけてあげます。
私は心優しく偉大な女神ですからね、御褒美をけちったりしませんよ。
安心してい世界に行けばいいですよ。
では、気をつけて行ってらっしゃい、また会いましょう」
好き勝手に言いたいだけ言って、自称女神は消えやがった。
直後に眼の前の風景が変わって、中世欧州風の街中にいた。
俺が異世界転移を望んでいたと女神は言ったが、絶対に嘘だ。
俺の知識では、中世の欧州ほど貧しく危険で暮らし難い場所はない。
伊達にウェブ小説を書いていたわけではない、それなりに資料は漁っていた。
俺が生まれ変わりを望むなら、元の世界、同じ時代の日本以外にはない。
あんな安全で平和で平等な国はない。
自由を優先するあまりに弱肉強食で貧富の差が激しい国ではなく、働く気さえあれば選り好みしなければ必ず仕事があり、心身に病があれば保護してもらえる国。
あんな素晴らしい国以外に転生転移したいと思うはずがないのだ。
それを、あの腐れ自称女神は、俺をこんな所に転移させやがった。
スキルや能力を与えたと言っていたが、本当に役に立つスキルや能力なのか?
全く信じられないし、どうしていいのかもわからない。
だいたい本当に親切で優しい女神なら、スキルや能力の説明くらいするだろう。
説明をしない時点で、親切でも優しくもない事が明白だ。
「こっらぁあああああ、このぬすっとがぁあ、待ちやがれ!」
頭が痛くなるほどの大声が、真後ろから聞こえてきた。
思わず何も考えずに振り返ってしまったら、小さな子供が片手に何かの食べ物を掴んで逃げていく。
露店の店主であろう男が、顔を真っ赤にして追いかけようとしている。
不謹慎だが、アニメや小説でよくある情景だと思ってしまったが、とても生き難い世界だという証明にもなると、同時に心に浮かんでいた。
「今日という今日はもう許さん!
警備隊に突き出して、その手を斬り落としてもらうからな!」
背中に冷気が走り抜けて、脚がガクガクと震えだした。
盗みをした者の片手を斬り落とす、地球でも実際にあった刑だ。
嘘や冗談で言っていない事は、露店主の表情を見ればわかる。
何とか止めたいという思いが、無意識に心の中から沸き起こって来た。
だが、俺は生来の臆病者で、よほどのことがないと、自分に危険が及ぶような行動をとることができないのだ。
腐れ女神、本当に俺にスキルや能力を与えたというのなら、ここで助けに入れる勇気くらい与えておけ!
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