園長と隊長



――隊長! おはようございます!


「ああ、おはようみんな」


 うっそうとした森の中、ジャパリ島の大自然に囲まれながら一人の男性が大勢のパークの前で立っていた。


 正しく整列された彼女たちは尻尾の一本、頭部の耳に至るまでしゃきっとさせながら隊の頭である男の言葉を待っている。元が知性や理性を備えている獣でありながら、ヒトの世界に順応する彼女たちの強さを実感する。


 ネコの耳、鳥の翼を思わせる羽、蛇を連想させるパーカー姿の少女、自身の体より大きい尻尾。どれもこれも獣だった時にその威光と威厳を放っていた強力なフレンズばかりだ。


 服装を正し、支給された帽子を深くかぶりなおす。


 整列された隊員たちの前に敬礼のポーズで副隊長が前に出た。特徴的な犬耳とオレンジと白の二色模様の”毛皮”を纏った少女はパッとした笑顔を向けてくれた。


「隊長さん! おはよーございます!」

「ああ、おはようドール副隊長。点呼を頼むよ」

「はいっ! それじゃあみなさん、点呼を……」


 ドールの言葉に沿うように肩を並べているフレンズたちが数字を喋りあげる。小さい数字から大きくなるにつれて、前に言った者の数字に倣って大きな数字で応える。


 以前、もっと言えば半年くらい前までは点呼の数字なんて片手で数えられるくらいだった。保安調査の仕事はセルリアンと戦う以上、命の危険性と隣り合わせだ。普段はのんびりと暮らしているフレンズたちにとって、そんな探検隊に対してかっこいいなどのあこがれを持つことはあってもわざわざ入りたいと思う者はいない。


 ゆえに、この探検隊への入隊は強制ではなく任意だ。隊長がパーク側が厳選(ピックアップ)した”資料”でフレンズを選び、招待券を送る。それらに送付された資料を読んでもらい、危険性を十分に理解してもらってから入隊に同意するかをゆだねるのだ。


 この探検隊に、もっと言えばこの”ジャパリパーク第一保安調査隊”もそうやって仲間を増やしてきた。穏やかな性格、戦いを好む性格を問わず、肩を並べている者は隊長の指示の下でセルリアンに立ち向かえる力を備えている者たちだ。

 

 だからこそ、思うのだ。彼女たちはこのパークサファリ内の平和や治安を守るために命を懸けている。そんな自分の指示の下で命を預けてくれる。


 纏っている探検隊の制服がいつもよりも自分の体にフィットしているように感じた。本土にいたときは特徴的だとも言われた太眉をキッとさせてスタッフカーに乗り、今日もパークサファリ内を駆け走る。


…………


 陽も高くなり、アジトまで戻って来た探検隊。


「よし、昼休憩だ。みんなー、弁当は持ったな!」

「……はい、みなさん持ってます! それじゃあ、隊長さん!」

「よし、午後のもたくさん働くためにたくさん食べるんだぞ! いただきます!」


――いただきまーす!


――わぁ、今日のお弁当私の好物だ―!


――うぅ、一緒に食べたかったなぁ。予定が空いてくれれば……


 楽し気に食事を始めた隊員たちが支給された弁当に手を付け始めた。獣と言えば犬のように顔を突っ込んで食べる印象があるが、今は”ヒト”だ。彼女たちは丁寧に箸を使って器用に料理を口に運んでいる。


 今日は小型のセルリアンにファングセルとティルセルといういつも通りの組み合わせだった。この程度ならば最近では目をつむっていても勝てるようになったのが内の探検隊だが、そんなことで慢心するようなおバカはいない。


 途中で第三調査隊とすれ違い、彼女たちと談笑したがこれと言った被害も見受けられなかった。かつて、女王事件を引き起こしたとされるセルリアン達はフレンズにとって脅威でありながらも日常を笑い合えるものとして犯すモノとしては感じられてない。


 つまり、今日も平和なのだ。


「お食事中の所、申し訳ありません隊長さん。すこし、よろしいでしょうか?」

「? なにかなミーアキャット」

「その、隊長さんのほうに用があるって……その、あの……」


 しどろもどろの返答に疑問符が浮かぶ。普段の彼女は毅然とした態度に理知的な印象を持つ少女だと言うのに、今の彼女は何か気まずく言葉を詰まらせている。


 約十秒ちょっと、ようやくとなって彼女が言葉を持って伝えようとした瞬間、彼女が押し黙ろって言えなかった真実の正体が”自分”から語って来た。


「久しぶり、隊長さん」


 声の方向に首が思わず向いてしまった。この場で聞かないはずであろう、少女たちの中では低くも幼い子供の声。


 話しかけてきたのは、四神市に通うジャパリ学園初等部に通う一人の少年。


 まだ小学校高学年である彼が、使命を全うしたと言うのにここにやって来た彼を見て、隊長は呆然としながら……


「――え、園長?」


 かつてのおまもり所持者、ジャパリ学園に通う少年……園長がにっこりとした笑顔を向けてきた。

 


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